Live Tour 2021「エーテルの正体」
2021年5月30日(日) Zepp Tokyo
2020年に行うはずだったツアー『理 - kotowari -』の、新型コロナウイルス禍による中止を経て、2021年5月~6月に実現した、神はサイコロを振らない、2年ぶりのツアー「Live Tour 2021『エーテルの正体』」。その東京公演、Zepp Tokyoワンマンが、この日である。
まず、2020年春に、TikTokがきっかけで「夜永唄」がバズり、YouTubeのリリックビデオは2100万回再生を突破。神はサイコロを振らないの存在が、一躍世間に知れわたる。
その直後に、ユニバーサル・ミュージックと契約。7月17日のデジタル・シングル「泡沫花火」でメジャー・デビューする。
以降、デジタル・シングルやデジタルEPのリリースを、切れ目なく続け、2021年3月17日には、4曲入りCDシングル『エーテルの正体』を発表した。そして、4月13日にはデジタル・シングル「巡る巡る」、さらに6月4日にはデジタル・シングル「徒夢の中で」と、さらにリリースが続いていく──。
と、大躍進を遂げて行く中で、コロナ禍で、ライブだけがストップしていた、つまり、バンドの状況がステップアップしまくっているのに、聴き手と生で対峙できる場がなかった。よって、コロナ禍以前からのファンにとっても、「夜永唄」で彼らを知ったファンにとっても、そしてバンド自身にとっても、本当に待ちに待ったツアーが、この『エーテルの正体』だったわけだ。
という喜びが爆発しっぱなしであること、ステージと客席の間をエネルギーの塊が飛び交っていることを、体感できるようなライブだった。
1曲目の「クロノグラフ彗星」のサビで、「心の中で!」とオーディエンスにマイクを向けた柳田周作(Vo)は、それ以降の曲でも、何度も「心の中で!」と叫んだ。5曲目の「胡蝶蘭」を歌い終えたところでは、「すごい人だね! サクラとかじゃないですよね? 怖くなってくるわ、(こんな大きな会場でのワンマンを)経験したことがないから」と、喜びを露わにした。そして、「この状況はみんなのおかげ。みんながここまで連れて来てくれている。ということを、伝えたかった」と、オーディエンスにお礼を言った。
8曲目の「ジュブナイルに捧ぐ」を歌う前には、「この不条理な世界を、僕らなら乗り越えられると信じています」と言葉を添え、歌い終えてからは「音楽がみなさんの力になるなら、僕らはいつまでも音楽を鳴らし続けます。この世界がよくなる日まで、音楽を鳴らし続けます」と宣言した。
というふうに、聴き手に対する真摯さが、MCのたびに表れていた。パフォーマンス自体も、ようやく会えたオーディエンスに対して、あるいは今の世の中において、自分たちの音楽にはどんな存在意義があるのか、どのように聴き手に届くのか、それによっていかなる作用を引き起こせる可能性があるのか──といった思いのすべてを含めて、ライブという場で音にし、歌にしている、そんな丁寧で真摯な姿勢に貫かれたライブだった。
それ以外にも、特筆すべきポイント、大きく言うと二つあった。
一つ目は、演出がすばらしかったこと。たとえば、オープニング。客電が落ちてSEが鳴り始めると、ステージ前方のお立ち台や照明機材を覆うように置かれていた、巨大な白クロスがふわっと舞い上がり、ステージの床と天井のちょうど間あたりの位置で、風にあおられて、まるでSEに合わせて舞っているように、ゆらゆらと動き始める。そんな光景が、しばしくり広げられた後、『エーテルの正体』収録の「クロノグラフ彗星」で、1曲目がスタートする──という、幻想的な演出だった。ここでもういきなり、オーディエンスがグッと捕まれたことを体感した、その場にいて。
もうひとつ、たとえば、照明。3曲目の「遺言状」あたりから、ものすごい量のレーザー光線が、ステージから放たれ始める。レーザーが何本か、もしくは何本も使われるライブ、というのは体験したことがあるが、こんなに大量で惜しみない使われ方をしているライブ、少なくとも僕は初めて観た。
曲によっては紫と緑でステージを染め、曲によってはカラフルに何色もが混じり合う。言わば、レーザーで照明と効果映像の両方の役割を兼ねるようなこの演出は、とても斬新だったし、とても効果的に神サイの音楽を視覚化していた。
エーテルの正体のアートワークを物体化させた表現であろう白クロスの演出も、レーザーの演出も、現場に来るまで自分たちは知らなかった、すごくない? と、後半のMCで、柳田周作は言っていた。どこまで知らなかったのかはわからないが、はい、すごかったのは間違いないです。
で、二つ目。「集まって、でっかい音で楽器を鳴らすと、それがかっこよくなる」という、ロック・バンドとしてのダイナミズムに満ちた、豪快なライブだったこと。というか、神はサイコロを振らないが、そういうライブ・バンドであるという事実がわかったこと、と言った方がいいか。
最初に注目されたのが「夜永唄」だし、この日も披露された「胡蝶蘭」や「泡沫花火」のような曲も多数あるので、「神サイ=バラードが武器のバンド」という先入観が、まずあった。なので、1曲目の「クロノグラフ彗星」が始まった瞬間、その音のぶっとさ、ラウドさに、びっくりした。
バック・トラックを用いる曲が多いが、そっちの音よりもバンド・サウンドの生々しさの方が、先に強く耳を捕える。で、そんないかついバンドの音を、柳田周作のボーカルが、軽々と乗りこなしていく。そのさまに強く耳を惹きつけられたし、とてもワクワクさせられた。
なお、このライブの模様は収録されており、6月26日(土)から、有料配信がスタート。
SET LIST
01. クロノグラフ彗星
02. 揺らめいて候
03. 遺言状
04. 泡沫花火
05. 胡蝶蘭
06. 解放宣言
07. パーフェクト・ルーキーズ
08. ジュブナイルに捧ぐ
09. 夜永唄
10. プラトニック・ラブ
11. 1on1
12. 未来永劫
13. 巡る巡る