神はサイコロを振らない Hall Tour 2025 "Lovey Dovey City”
2025年6月13日(金)サンシティ越谷市民ホール(大ホール)
※以下、セットリストや演出のネタバレの記載がありますのでご容赦ください。
19時ジャストに暗転すると同時に、車での到着を模したSEが流れ、ツアータイトルをデザインしたネオン管風の照明が灯る。メンバーが現れたステージセットはアメリカのフリーウェイにありそうなデザインで、これは「Lovey Dovey」のMusic Videoの終盤で登場するダイナーの外観からインスピレーションを受けて制作されたもので、武道館でのシンプルなセットとは好対照だ。あまりにもさりげなく1曲目の「Lovey Dovey」(ドラマ「あやしいパートナー」エンディング主題歌)でライブをスタートした。恋した相手からの影響をカラフルに描くこの曲がツアータイトルであることの意味が、ここから2時間で明らかになっていく。柳田周作(Vo)がアウトロで「神はサイコロを振らない、ツアー一発目始めます!」と明るく宣誓、アッパーなタオル回しが起こる「1on1」、近いトーンで、よりダンサブルな「巡る巡る」につなぐと、フロアは手を挙げる人、クラップする人、おのおの自由に弾む音とミラーボールの光に身を委ねる。ホールをダンスフロアに一変させた後、ガラッとグランジ色の濃い「修羅の巷」へ。檻を思わせるライティングも大きな効果を発揮した。まだ序盤4曲、しかもツアー初日にも関わらず1曲1曲のライブアレンジが明快に聴こえ、解像度が非常に高いことに気づいた。
嬉しさを隠せない表情の柳田が結成10周年に絡めて、バンド初期にひとり2万5千円ずつ出し合って「秋明菊」をレコーディングし、1曲入りのCD-Rを作ったこと、全てはそこから始まったことを話し、「今はもう愛と感謝しかない感じで、今日は音楽でみんなとイチャつけたらと思ってます」と、彼らしい表現でツアーのテーマを話してくれた。
続くセクションは最新曲「Smoke」に始まり、MCにもあった始まりの「秋明菊」を含む“Reproduce”楽曲で構成。アニバーサリーイヤーならではの展開で、しかもライブアレンジがしっかり新旧の楽曲を接続していく。素のオルタナティヴ・ロックバンドの胆力を感じる「Smoke」。ポストロックやマスロックをバックボーンに持つ彼らの特徴と、そこにジャズやフュージョンのニュアンスも加わった「煌々と輝く」では吉田喜一(Gt)、桐木岳貢(Ba)、黒川亮介(Dr)の深化に唸らされる。また、「秋明菊」は00年代後期のギターロックバンドの特徴である変拍子などのアンサンブルを、いまホールの良い音響でじっくり聴けることがシンプルに嬉しい。続く「アーティスト」でBillboard Liveから参加しているDevin Kinoshita(Key)が加わり、ヴァースはピアノ伴奏だけで歌う柳田の消えそうな声がしっかり伝わった。シーケンスを使わない生のグルーヴは続く「スピリタス・レイク」の印象もガラッと変化させ、原曲のエレクトロニックな世界観をネオソウル寄りの聴感に早くもReproduceした感じだった。
エレクトロニックなSEから、ダークポップにギターバンドならではのポスト・パンクなビート感も加味された「遺言状」、エフェクトでフリーキーな音色を作り出す吉田のギターが効果的な「火花」。狂気を感じる真っ赤なライティングも相まってオーディエンスも自分の内面に向き合うことになる。一転、背景に星を模した光が灯り、虫の音のSEも混ざると、柳田はベンチに座り、ランタンの灯りを受けて「目蓋」をピアノ伴奏のみで歌う。まるで世界に彼一人しかいないような孤独感が迫り、歌に集中していると2Aからビートが入って、不思議と安堵した。メンバーのコーラスも加わると、さらに独りじゃない温かさが増す。この流れで、次がバンドの始まりを書いた「スケッチ」が来るのはファンはもちろん、メンバーも感極まっていたんじゃないだろうか。柳田の「Singin'!」の呼びかけにどんどん大きくなっていくシンガロングが美しかった。
「スケッチ」のエンディングのシンバルでつないで、グッとブライトな音像に変わり「What’s a Pop ?」へ。人と音楽を鳴らす楽しさが「スケッチ」の主題なら、この曲は音楽を作る人の産みの苦しみと喜びだ。なんて練られたセットリストなんだろうと思う。同じ四分キックでありつつ、グッとラウドな音像に変化した「揺らめいて候」へ。低いところでうごめく桐木のベースラインが身体を直撃する。繰り返しになるが、曲ごとの解像度が非常に高い。
緊迫したムードが漂うステージで柳田が吉田を殺め(!)、警察に追われる芝居が展開し、逃亡した柳田がステージ後方の高い台でパフォーマンスする「ちょっとだけかゆい」はコミカルとエロティックの絶妙なバランス。中盤のポストロック路線と同じバンドなのか?とギャップもまた楽しく、セクシーさは続く「桃色の絶対領域」につながっていく。もちろんライブアレンジも絶妙で、吉田のラテンとロカビリーが接続するフレーズや桐木のランニングベースも冴えていた。そこから情景を真夏のムードに変えた「Popcorn ’n’ Magic!」の明るいテンションの高さは祝祭感たっぷりだ。
「最高ですね。想定した8倍ぐらい盛り上がってくれて」と、大きな笑顔の柳田。この会場は3日前から設営が始まり、リハも2日かけて行ったそう。このMCタイムでDevinも紹介し、武道館での「スケッチ」に感動して泣いたと彼が明かすと、その彼が参加した今日の「スケッチ」が完成形だと柳田は満足そうだ。そしてこのタイミングで神サイ初の海外単独公演である台北でのライブを発表した。過去に「高雄ロックフェスティバル」で渡台した際もメンバーで遊んだといい、「よろしければ一緒に旅行しませんか?」と、柳田は呼びかけていた。メンバーおのおのの発言で、吉田は「情報量の多いセットリストですが楽しんでますか?」と問いかけ、黒川は「こんなにツアーが待ち遠しかったことはなかった」と言い、桐木は「10周年も迎えられてありがとうございます」と、改めて感謝を伝えた。そして柳田は「大切なものを失うかもしれないから、人を愛するのが怖いんですね。だからひとりぼっちでいいやって『心海』の頃までは思ってたんですけど、Billboardをやった頃からひとりぼっちでいられないわと思って。そういう思いで歌います」と、アコギの弾き語りで「告白」を丹念に歌い始めた。そこに重なる楽器の音はまさに人と人が音を重ねることでしか生まれない感情のやり取りで、分厚くなっていく後奏のダイナミズムそのものがメッセージになっていた。
夜の光のなかに命のある一人ひとりを感じる「夜間飛行」が鳴らされると、解放されるように音に身体を委ねるオーディエンス。さらに爽快な8ビートのファンソング「Baby Baby」がオルガンやピアノの音色も加わって、よりカラフルに響く。柳田が「最後の曲です。愛してるぜ!」と叫ぶと、イントロに悲鳴に近い歓声が。恋に落ちるドキドキときらめきが凝縮された「LOVE」に、手ハートで応えるオーディエンス。すっかり大きなポップソングに成長したこの曲と、オープナーの「Lovey Dovey」は確かにつながっていたことに気づき、ストーリー性のあるセットリストに感銘した。
オフマイクで感謝を叫んだ柳田をはじめ、Devinも含めた5人の、ツアー初日の手応えをつかんだ表情が忘れられない。音楽を通じて愛を伝え合う神はサイコロを振らないのニューチャプターをこのホールツアーで確かめてほしい。
SET LIST
01.Lovey Dovey
02.1on1
03.巡る巡る
04.修羅の巷
05.Smoke
06.煌々と輝く
07.秋明菊
08.アーティスト
09.スピリタス・レイク
10.遺言状
11.火花
12.目蓋
13.スケッチ
14.What's a Pop?
15.揺らめいて候
16.ちょっとだけかゆい
17.桃色の絶対領域
18.Popcorn 'n' Magic!
19.告白
20.夜間飛行
21.Baby Baby
22.LOVE