岸谷香、Unlock the girlsと届けたバンドの奏でる“音楽の楽しさ”。全国ツアーファイナルは新たなる旅の出発点に

ライブレポート | 2025.08.12 18:00

KAORI KISHITANI "40+1st" Anniversary LIVE TOUR 2025 “58th SHOUT! ” まさかのリクエスト ~あの曲が聴けるとは思いませんでした~
2025年7月26日(土)恵比寿ザ・ガーデンホール

バンドの奏でる“音楽の楽しさ”を満喫した。岸谷香が自身のバンド、Unlock the girlsで回った全国ツアー、『LIVE TOUR 2025 “58th SHOUT!” まさかのリクエスト ~あの曲が聴けるとは思いませんでした~』のファイナル公演、7月26日、東京・恵比寿ザ・ガーデンホールのことだ。今回のツアー、神奈川、福岡、広島、北海道、大阪、愛知、宮城と巡り、ファイナルの東京公演が8本目だ。ツアータイトルに“まさかのリクエスト”という言葉があるように、事前にファンからリクエストを募り、その結果を参考にした選曲になっていることが大きな特徴だ。プリンセス プリンセス時代のレアな曲もいくつか選ばれていたが、今の岸谷が歌い、結成8年目のUnlock the girlsが演奏することで、曲に新たな魅力が加わっていると感じた。

オープニングナンバーはプリンセス プリンセスのアルバム『DOLLS IN ACTION』(1991年発表)の1曲目に収録されている「Dear」。いきなりレアな曲でのスタートだ。しかも、ステージに登場した岸谷香(Vo,Gt,Key)、Yuko(Gt,Cho)、HALNA(Ba,Cho)、Yuumi(Dr,Cho)は、楽器を手にせずに横一列に並んでいた。アンビエントなピアノのシーケンスがかすかに流れる中で、岸谷が1フレーズを歌い、HALNA、Yuko、Yuumiのコーラスが順に加わり、4人による流麗なコーラスワークを披露したのだ。優美で清冽で、なおかつ荘厳な響きもある。この4人の混ざり合った歌声は唯一無二のものだろう。全員が“歌える”ところにもUnlock the girlsの強みがある。その特徴を活かした始まり方だ。レアな選曲、予想外のコーラスでの始まりに盛大な拍手が起こった。

2曲目はプリンセス プリンセスのアルバム『LET'S GET CRAZY』(1988年発表)収録曲の「それなりにいいひと」。「Dear」での穏やかな始まり方から一転して、Yuumiのパワフルなドラムから始まると、バンドのアグレッシブなパワーがほとばしった。岸谷がこぶしを振り上げながら歌い、客席も一気に熱気に包まれ、観客もこぶしを上げている。岸谷とYukoが向き合ってギターを弾くと、大きな歓声があがった。途中で岸谷がキーボードを弾くと、疾走感のあふれるバンドサウンドがさらに加速していくようだった。続いて演奏されたのは、5月21日にリリースされた最新作『Unlock the girls 4 -ボディガード-』収録曲の「And the life goes on」だった。<取り返せ あの日の自分を>というフレーズが強く響いてくるシャッフルのロックナンバーだ。歌詞と連動するような、ハードボイルドテイストの歌と演奏がズシッと響いてきた。

岸谷香(Vo,Gt,Key)

「今回のツアー、最高で特別なものになっています。なぜかというと、企画がおもしろかったからです。みんなからリクエストを募ったら、今まで封印していた黒歴史の曲もあがってきました。その曲を girls(Unlock the girls)に聴かせたら、『かっこいいじゃん。せっかくだからやりましょうよ』ということなりました。今の自分の感覚でアレンジし直して、歌詞の一部も変えてみたら、演奏するのが楽しくなりました」

今回のツアーの趣旨を説明する岸谷のMCに続き、その“黒歴史”の曲、プリンセス プリンセスのアルバム『TELEPORTATION』(1987年発表)収録曲の「ヒプノタイズド」が演奏された。Unlock the girlsの特徴のひとつは、岸谷と他のメンバーとの世代の違いである。その違いがバンドの生み出すサウンドの幅を広げているのだ。オリジナルの「ヒプノタイズド」はシンセサイザーを軸とした80年代テイストが濃厚に漂う曲だったが、今回のツアーではバンドサウンドを軸としたダンスナンバーへと生まれ変わっていた。岸谷とYukoの艶やかなギターサウンド、そしてHALNAとYuumiの生み出すグルーヴ感が心地よかった。歌の主人公もより自立的で現代的な女性へと更新されていると感じた。

HALNA(Ba,Cho)

続いて演奏されたのはUnlock the girls名義で発表された最初の作品、ミニアルバム『Unlock the girls』(2018年発表)1曲目の「Unlocked」だった。開放感あふれる演奏が気持ちいい。岸谷、Yuko、HALNAがジャンプしながら演奏している。観客も踊り、飛び跳ねている。Yuko、HALNA、岸谷の順でソロ演奏を披露する場面もあった。そのまま、奥居香名義で発表した「タンポポ急行」へとたたみかけていく展開となり、会場内の熱気がさらに加熱していく。岸谷のみずみずしい歌声、Yukoの奏でるギターのリフ、HALNAとYuumiによる列車が走行するような力強いグルーヴに体が揺れる。この曲でも岸谷がキーボードを弾くと、“タンポポ急行”がさらに加速していくようだった。

「『ヒプノタイズド』、楽しかったなぁ。でももう生涯、やらないね」と岸谷。その後、各地での失敗談などのMCを挟んで、最新作『Unlock the girls 4 -ボディガード-』収録曲の「L⇔R」が演奏された。テーマとなっているのは“振り子のように左右に揺れる心境”と解釈することもできそうだ。その混沌とした心境を生々しく表現していくバンドの演奏が見事だった。切迫感や緊張感の漂うヒリヒリとしたバンドサウンドから一転して、ほのぼのとしたムードが漂う「妄想サニーデイズ」へ。この振り幅の大きさも、Unlock the girlsの魅力だ。明るさと麗しさを備えた歌とコーラスが聴き手の胸の中を照らしていくようだった。プリンセス プリンセスのミディアムバラードの名曲「ジュリアン」は、オリジナルに忠実なアレンジとなっていたのだが、今の岸谷が歌い、Unlock the girlsがコーラスと演奏をすることによって、2025年のUnlock the girlsの「ジュリアン」になっていた。

「懐かしい『ジュリアン』を聴いてもらいました。同じ曲を何十年もやっているんだけど、その時々で全然違うのが音楽です。今日はとても気持ちよく入り込んで歌いました。みなさんが雰囲気を作ってくれたんだよね。いい『ジュリアン』でした」と岸谷。

続いて演奏されたのは最新作『Unlock the girls 4 -ボディガード-』収録の「marble」。岸谷と親交のある一青窈が作詞を手がけている曲だ。この「marble」には<まだらに溶け合えば>というフレーズがあるのだが、4人の奏でる音色もまさにマーブルのようにナチュラルに混ざり合っていた。岸谷の歌もバンドの演奏も実に人間味があふれている。このバンドサウンドに身を任せてたゆたっているのが、心地よかった。続いて演奏された「覚えていてほしいな」も、体温のある歌声と1音1音に思いを込めていくような演奏が染みてきた。Yuumiによる追っかけコーラスも実に効果的だ。

Yuumi(Dr,Cho)

HALNAのモータウン調のベースに乗って会場内がハンドクラップして始まったのは「Diamonds<ダイアモンド>」だ。「みんなも一緒に歌ってね。踊りましょう」と岸谷。印象的なギターのリフが鳴り響いた瞬間に、観客のテンションがさらに高くなった。岸谷の朗らかな歌声、きらめくようなコーラス、そして躍動感あふれる演奏によって、高揚感が漂った。岸谷がハンドマイクを客席に向けると、シンガロングの音量がさらに大きくなった。バンドと観客とが一体になることで、楽しさがどんどん増幅していく。岸谷、Yuko、HALNAがYuumiを囲むようにして、呼吸を合わせてフィニッシュ。だが、この勢いは止まらない。

「もっともっと踊れる?全速力で走れる?」と岸谷が観客をあおって始まったのは「STAY BLUE」だった。爽快感と疾走感あふれる演奏に、観客の熱いハンドクラップが加わっていく。会場内の全員をもれなく開放していくようなエネルギッシュな演奏だ。さらに、強靭なギターリフが始まり、観客がコール&レスポンスで応えて始まったのは「GUITAR MAN」。会場内から雄叫びのような歓声が起こっている。歌うほどに、そして演奏するほどに、会場内のテンションも高くなっていった。熱狂がさらなる熱狂をもたらしているのだ。岸谷がキーボードを弾く場面もあった。バンドの楽しさが凝縮された演奏だ。この勢いはまだ止まらない。

「おまちどうさん!新曲だよ!」という岸谷の言葉に続いて、最新作『Unlock the girls 4 -ボディガード-』のタイトルナンバー、「ボディガード」が演奏された。パワフルなロックでありながら、弱さやダメなところをさらけだしていくようなオープンな魅力も備わったナンバーだ。岸谷の開けっぴろげな歌声が真っ直ぐ届いてくる。そして、その歌声と呼応するような、ロックンロールスピリッツと歌心を兼ね備えた演奏がリアルに響いてくる。胸が熱くなり、同時に温かくなる歌と演奏だ。メンバー4人の渾身の演奏に盛大な拍手が起こった。

Yuko(Gt,Cho)

「今日はミラクルな瞬間がたくさんあった気がします。きっとみんなの勢いとエネルギーのおかげだね。いいライブということだね。ありがとう!今回は私の黒歴史を塗り替えるという大きなテーマもあったんだけど、それとは別にgirlsでやりだして8年目です。ひとつでも多くUnlock the girlsの良さをわかってもらいたいと思い、コーラスにフォーカスを当ててステージを作りました」

そんな岸谷の言葉に続いて、本編最後にプリンセス プリンセスの「REGRET」が演奏された。原曲もコーラスがたくさんフィーチャーされていたが、それを上回るコーラスワークによって、新鮮な歌の世界が出現した。コンサートの冒頭のピアノのシーケンスがここでも流れて、その音色に導かれて4声のコーラスでの始まり。一瞬にして歌の世界の中へと誘っていく展開が鮮やかだ。せつなさやノスタルジーもあるのだが、みずみずしいパワーが加わっている。この曲を生のライブで演奏する喜びのようなものが、曲の世界観に新たな表情を加えていると感じた。演奏が終わると、拍手と歓声が鳴り止まず、すぐにアンコールを求める声に変わっていった。

「前回のUnlock the girlsのツアーから1年経ちました。この1年の間にいろいろなことがありました。みんなも良いこと悪いこと、いろいろあったと思いますが、今日はせっかくだから良いことをシェアしようと思います。ギターのYukoが結婚しました。みんなで幸せを分けてもらいましょう」という岸谷のMCに続いて、「ウエディングベルブルース」が演奏された。この曲では岸谷はキーボードを演奏しながら歌っていた。Yukoが照れくさそうに、でもうれしそうにギターを弾いている。メンバーはもちろんのこと、観客もハンドクラップで祝福。会場内に温かな空気が漂った。曲の最後のYukoのギターソロでは、岸谷、HALNA、YuumiがYukoを温かく見守っている姿が印象的だった。観客全員へのハッピーのお裾分けとなるステージだ。しかもどんなにお裾分けしても、このハッピーは尽きることがないだろう。

アンコールの2曲目に披露されたのはプリンセス プリンセスのアルバム『PRINCESS PRINCESS』(1990年発表)収録曲の「One」だ。岸谷はキーボードを演奏。この曲もオリジナルよりもコーラスが多めのアレンジになっていた。特に2コーラスでは、メンバーそれぞれの声の魅力を堪能した。岸谷の繊細なピアノにHALNAの味わいのあるベースが加わり、さらにYuumiの力強いドラムが加わっていくストーリー性のある展開も見事だった。

4人がステージの最前列に並んで手をつないで挨拶したのだが、またしてもアンコールを求める声と拍手がやまず、急きょのWアンコールで、「ハッピーマン」が演奏された。ファイナル公演の最後を飾るのにふさわしいナンバーだ。この曲の中の<近道を知らないハッピーマン>というフレーズは、デビューして41年目となる岸谷の姿とも重なって響いてきた。ソロ、バンド、ビッグバンドなど、様々な形態での音楽活動が、彼女のさらなる成長を促していると感じたからだ。そして、Unlock the girlsも近道をせず、日々着実に成長し続けているバンドである。成長することこそがハッピーをもたらすのかもしれない。4人が一丸となった「ハッピーマン」を聴いていて、そんなことも感じた。会場内の全員をもれなく笑顔にして、ツアーのファイナル公演は“ハッピーエンド”となった。

ただし、これは物語に例えるならば、あくまでもひとつの章の区切りだろう。ステージを観るたびに、バンドは新たな表情を見せてくれているからだ。4人の音楽性だけでなく、人間性が混ざり合うことによって、Unlock the girlsのバンドサウンドが成立していることも強く感じた。次なる展開がさらに楽しみになるファイナル公演だった。2026年にUnlock the girlsでのツアーが開催されること、豊洲PITでのステージが決まっていることも発表された。また、岸谷香のソロとしての弾き語り全国ツアー『KAORI PARADISE 2025』も予定されている。バンドでもソロでも共通しているのは、音楽の楽しさを共有できるライブ空間となっていることだ。人々をハッピーにする音楽の旅は続いていく。

SET LIST

01. Dear
02. それなりにいいひと
03. And the life goes on
04. ヒプノタイズド
05. Unlocked
06. タンポポ急行
07. L⇔R
08. 妄想サニーデイズ
09. ジュリアン
10. marble
11. 覚えていてほしいな
12. Diamonds<ダイアモンド>
13. STAY BLUE
14. GUITAR MAN
15. ボディガード
16. REGRET

ENCORE
17. ウエディングベルブルース
18.One

W ENCORE
19. ハッピーマン

公演情報

DISK GARAGE公演

岸谷香、Unlock the girlsを率いて放つ、来年2026年のバンドツアー

全スケジュール決定!

2026年6月13日(土)大阪・なんばHatch
2026年6月19日(金)神奈川・CLUB CITTA’
2026年6月21日(日)愛知・DIAMOND HALL
2026年6月27日(土)福岡・福岡 トヨタホール スカラエスパシオ
2026年6月28日(日)広島・広島 CLUB QUATTRO
2026年7月5日(日)新潟・新潟 LOTS
2026年7月11日(土)宮城・Rensa
2026年7月18日(土)北海道・PENNY LANE 24
2026年7月26日(日)東京・豊洲PIT

※詳細はオフィシャルサイトをご確認ください

ピアノ&アコースティックギターでひとり旅。「KAORI PARADISE 2025」開催!

2025年9月6日(土)鹿児島・SSプラザせんだい
2025年9月7日(日)宮崎・西都市民会館
2025年9月12日(金)千葉・船橋市民文化ホール
2025年9月13日(土)神奈川・関内ホール
2025年9月19日(金)東京・めぐろパーシモンホール
2025年9月21日(日)京都・京都府中丹文化会館
2025年9月23日(火祝) 岡山・倉敷市芸文館
2025年9月27日(土)大分・豊後高田市中央公民館
2025年9月28日(日)大分・臼杵市民会館
2025年10月5日(日)埼玉・草加市文化会館
2025年10月13日(月祝)兵庫・神戸新聞松方ホール
2025年10月19日(日)長野・中野市市民会館ソソラホール
2025年11月1日(土)茨城・ザ・ヒロサワ・シティ会館
2025年11月8日(土)三重・津市久居アルスプラザ ときの風ホール
2025年11月9日(日)愛知・小牧市市民会館大ホール
2025年11月15日(土)北海道・別海町生涯学習センター みなくる
2025年11月23日(日)東京・サンパール荒川
2025年12月14日(日)福岡・おりなす八女 ハーモニーホール
2025年12月20日(土)福井・美浜町生涯学習センターなびあす
2025年12月21日(日)石川・石川県小松市 團十郎芸術劇場うらら

※詳細はオフィシャルサイトをご確認ください

  • 長谷川 誠

    取材・文

    長谷川 誠

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  • 撮影

    MASAHITO KAWAI

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