KAORI KISHITANI 40th Anniversary LIVE TOUR 2024 "57th SHOUT!"
2024年7月27日(土)Zepp DiverCity(TOKYO)
40thアニバーサリー・イヤーを飾るバンド・ツアーの1曲目は、プリンセス プリンセスを解散して最初にリリースしたシングルのタイトル曲だった。
岸谷が今回のセットリストの1曲目にその「ハッピーマン」という曲を選んだ理由を知る由もないけれど、アニバーサリー・ツアーのファイナルを迎えた会場で1曲目に聴いたその演奏は十分にというか、まさしく“岸谷香ロック”だった。だから、そこでもうこのツアーが彼女にとってすごく意味のあるものだったであろうことを確信し、同時にこれまでの彼女をめぐるいろんなシーンや発言が次々と浮かんではつながっていき、スロットマシーンの絵柄が見事に揃ってガシャーンと大量のコインが流れ出てきたような感覚にとらわれたのだった。
もう27年も前のことになるのだけれど、その「ハッピーマン」やその後にリリースされたアルバム『Shout』、およびそのリリースに伴うツアーでは、プリプリ・サウンドとの違いを明確化しようとキーボードレス編成で男性ミュージシャンばかりのバンドによる演奏を展開した。対して、この日のステージはもうすっかり自前のバンド・サウンドを確立した印象のUnlock the girlsでの演奏で、同様にキーボードレス編成ではあるものの、サビでボーカルに重なる女声コーラスがメロディの煌びやかさをいっそう際立たせ、同時にこの曲の基調になっているヘヴィなギターリフとのコントラストもより鮮やかに感じられた。ヘヴィだけどポップ、と言ってしまえば簡単な言い方過ぎるかもしれないが、“27年前にも、こんなふうに響かせたかったんだろうな”と思っていると、「ハッピーマン」の最後の歌詞が耳に飛び込んできた。
♪あわてて走るうしろ姿は/近道を知らないハッピーマン♪
誰でも成功への近道を探したくなるものだけれど、近道かどうかなんてことは考えもせず、やりたいと思った道を突き進んでいくのが彼女の流儀。それは、“タイパ”重視の時流にはそぐわないかもしれないけれど、その流儀を曲げなかったからこそ手に入れられたものがあるということを、約2時間にわたって伝えて見せたのがこの日のステージだ。「この幸福者ッ!」と、こちらまで幸せな気持ちになってツッコミを入れたくなるライブだったからこそ、1曲目はやはり「ハッピーマン」が相応しい。
さて2曲目は、Unlock the girlsのライブではすっかりお馴染みになったディスコ・チューン「Unlocked」。客席も「イエー!」と声を揃えて盛り上がり、いい感じに温まったところで、早くもというべきか、軽快なドラムのパターンが「次は、あの大ヒット曲ですよ」と告げる。そして、そのリズムに乗せて岸谷が「大きな声で一緒に歌おう。気持ちいいよ」と話す。そこでまた、“そうなんだよな”と強く納得してしまったのだった。
大きな声で一緒に歌ったら気持ちがいいから大ヒットしたのだというふうにも言えるかもしれないけれど、「Diamonds<ダイアモンド>」という曲は“あの時感じた予感は本物だったね”という感覚を共有する者同士が集まって歌うから気持ちいい。その“あの時”とは世代的な共感かもしれないし、もっと具体的にプリプリのライブの一場面かもしれない。いずれにしても、それぞれが感じて、身の内に抱えてきた予感が、時の流れを潜り抜けて、本物だと感じられる今だからこそ大きな声で歌って気持ちいいのだ。
そして、最新曲であり、パパイヤ鈴木をフィーチャーしたダンス映像が各方面で話題を呼んだ「Beautiful」を披露したところまでで、このツアーの背景にある長い物語の、中身の濃いダイジェストが終わると、このツアーだけの特別企画だ。ツアーが始まる前の時点ですでにプリプリのアルバムのどれかを完全再現するということはアナウンスされていたのだけれど、果たしてそのアルバムは1988年発表の『HERE WE ARE』だった。
会場がいったん暗転し、レコードに針を乗せた時にスピーカーから聞こえてくるノイズがSEで流れた後、「19 GROWING -ode to my buddy-」の演奏が始まり、レコードのA面の収められた5曲を披露したところでブレイクが入る。そこで流れたのは、再現企画に『HERE WE ARE』を選んだ理由とその企画自体にはっきりと意義を感じた自身の気持ちを丁寧に伝える岸谷のモノローグ・コメントだった。「ファンにとっての“青春の主題歌”を」というスタッフの提案は当初あまりピンと来なかったのだが、アルバム『HERE WE ARE』をあらためて聴き通した時に“この時があったからこそ、今がある”と確信できたんだと彼女は話した。
そのコメントがとても説得的だったのは、このパートだけキーボードにsugarbeansを迎えて披露された演奏が、個々の楽曲の魅力と80年代サウンドの心地よさを現代的に昇華した、現在進行形のバンド・サウンドだったからだ。かつて“Here”だったことも、時の流れのなかで物理的にも精神的にも“There”になったりする。それはある意味では仕方ないことだけれど、その仕方ななさを乗り越えて、あるいは気にすることなく(笑)、岸谷香は“ここ”にいる。40周年のアニバーサリー・ツアーのファイナル公演はそんなステージだった。
「起こった直後よりも、一定の時間が経過した後のほうがより鮮やかに記憶を想起できること」という意味のタイトルを持つ曲で本編を締め括ったステージ。アンコールでは、来年2月の恒例イベント“感謝祭”が初めて2デイズ公演になること、そして6月からまたバンドでのツアーを行うことも発表された。
「近道を知らないハッピーマン」は、慌てることなく我が道を走っていく。そんな楽しい未来への期待がさらに高まる一夜だった。
SET LIST
01.ハッピーマン
02.Unlocked
03.Diamonds<ダイアモンド>
04.Beautiful
05.19 GROWING -ode to my buddy-
06.WONDER CASTLE
07.MY WILL
08.FLAME
09.KEEP ON LOVIN' YOU
10.GO AWAY BOY
11.SHE
12.ROMANCIN' BLUE
13.冗談じゃない
14.恋のペンディング
15.PARAISO!
16.ミラーボール
17.Signs
18.STAY BLUE
19.レミニセンス
Encore
20.シャウト