安藤裕子、「Journey to 2028 “Happy Go Lucky”」初開催。心の機微を丁寧に綴った名演の数々をレポート

ライブレポート | 2025.07.22 18:00

安藤裕子「Journey to 2028 “Happy Go Lucky“」
2025年7月12日(土)13日(日)恵比寿ザ・ガーデンホール
※取材は12日に実施

安藤裕子が7月12日(土)に東京・恵比寿ザ・ガーデンホールにて、ワンマンライブ「Journey to 2028 “Happy Go Lucky“」を開催した。
「Journey to 2028 “Happy Go Lucky“」とは「3年後のデビュー25周年に向けて、改めて、ライブを見つめ直すホームを持ちたい」という安藤の思いで実現した新企画。2028年までの3年間に亘り、毎年7月と12月に恵比寿ザ・ガーデンホールをホームとして開催。7月はオリジナル楽曲、12月は「カバーの国」と異なるテーマを掲げており、記念すべき第1回目となる今回は事前にSNSを通したリクエストを募集。<1.じゃない方曲><2.星とか空の曲><3.クリーミーマミランキング><4.動物を歌ってそうな曲><5.雨の曲>という5つのテーマの中から選ばれたリクエスト曲と代表曲を半々にしたセットリストを考案することを事前に告知していた。

開演時間になると、Shigekuni(Ba&Ag&and more)、あらきゆうこ(Dr)、皆川真人(Key)、梅井美咲(Key)というバンドメンバーがステージに上がり、それぞれの位置についた。場内から大きな拍手が送られる中で、水色のドレスを身に纏った安藤裕子が姿を見せ、南国の鳥のような甲高い声を発した後で、美しいメロディをハミングで歌い上げた。このハミングが本企画のテーマソングとなった「Happy Go Lucky」のイントロとなっており、そこに初共演となる梅井がオルガンやコーラスを重ね、まさにホームに帰ってきたような穏やかで温かいムードで包み込んだ。

安藤裕子

シェイカーとタンバリンを振りながら、君と手を繋げれば幸せだと歌う楽曲に続く「黒い車」では、左手でエレピのバッキング、右手はシンセでホーンのフレーズを弾く皆川と梅井の熱いソロ回しもあり、二人の鍵盤の音色の違いを提示。ラテンのジャズバンドのようにスリリングかつエモーショナルなアンサンブルを響かせたあと、再び、安藤&梅井によるハーモニーから、<雨の曲ランキング>で1位を獲得した「さみしがり屋の言葉達」へ。ネオシティポップのブームが来た頃には彼女はもう別の場所に行ってしまっていたが、改めてシティポップの名曲だと思い知らされるような名演で、風街ならぬ雨街の風景を観客の脳裏に浮かばせた。

Shigekuni(Ba&Ag&and more)

あらき ゆうこ(Dr)

皆川真人(Key)

梅井美咲(Key)

最初のMCでは「今日は3年に及ぶ特別な企画の第1回目ということで妙な緊張がすごいです」と挨拶。「テキサス」では会場全体で観客から手拍子が沸き起こり、安藤はステージを所狭しと歩きながら、時には屈んで最前列の観客と目を合わせるように歌い、手を伸ばして笑顔で呼びかけた。そして、ここからは票がかなりばらけたという<じゃない方曲ランキング>から上位3曲をパフォーマンス。2012年リリースの6枚目のアルバム『勘違い』収録の「それから」では鍵盤がエレキギターのリフのようなフレーズを繰り出し、皆川、梅井、Shigekuniの3声によるコーラスがフレッシュな息吹を与えていた。続く、「ヘイティーズ」は2006年リリースの5枚目のシングル「テキサス」のカップリング曲。MCでは「辛そうにしてる人の明日を奪ってあげたいなぁという曲」だと説明し、「私、忘れちゃったんだけど、ヘイティーズは台風とか、戦闘機とかの名前だったと思う」と語っていたが、2006年当時のインタビューでは「ベトナム戦争の枯葉剤の作戦のコードネーム」だと聞いた記憶がある。この日はアコギに持ち替えたShigekuniによるニューアレンジの演奏となっていたが、彼女は右手を飛行機のような形で動かし、「明日を摘む」という楽曲のテーマを表現していたのが印象に残った。そして、あらきのカウントから始まった「summer」は2003年リリースのデビューミニアルバム『サリー』の収録曲。Shigekuniはスロウテンポの楽曲の途中でアコギからベースへとチェンジしながら、「自分の中に自分でもわかっていないような悲しみの種を目に映ってる景色を追って確かめる」ような悲劇的な心の動きを丁寧に綴った。

安藤裕子

安藤裕子

「次に歌うのは、9年前くらいに作った、かつての仲間との日々を思い出す曲です」と語った新曲「隣同士」では、迫力のあるふくよかなヴォーカルが放たれると、場内は優しい光で満ち満ちていった。ここで、あらきがシンバルでムードを転換し、「海原の月」では深い海の底のような、宇宙空間のような、不思議な浮遊感を漂わせると、またもやムードが一変。<クリーミーマミランキング>の1位「スキスギてズキズキ」ではバンドメンバー全員がクマ耳を装着してキュートにチャーミングにパフォーマンスし、<動物を歌ってそうな曲>で1位となった「森のくまさん」ではその様相のままでパワフルかつダイナミックに演奏し、前向きでポジティヴなアドバイスばかりの森で<ってうるせえ>と咆哮すると、自分の肩をさすりながら靴を脱いで裸足になり、大きく背伸びをし、2024年10月に配信されたシングル「夜の怪物」へ。重低音が鳴り響き、リフレインやエコーが重なる幻想的な音像によって、現実なのか夢なのかわからない感覚へと陥らせる。7分越えの大作を歌い切った彼女は、「世界に置いてかれた気持ちになってしまう、夜に自分を覆ってしまう怪物のようなものを歌った曲です」と解説。70年代のシティポップや80年代のアイドルソングのような曲も歌うが、この悪夢のようなスリリングな楽曲もまた、今の彼女を体現した1曲と言っていいのだろう。

安藤裕子

「いろんな歴史があって、歌ってる時が楽しくて、作ってるのが楽しくて仕方がない時代があって。全てが色褪せてしまうような時代があって。今、また、私はよろよろと楽しいことを模索していて。今回はよろよろしている私に、人生の大事な先輩がホームを持ちなさいよとおっしゃってくださって、このような場所を設ける機会をくださいました。もう1回、色褪せるのが怖くて、同じことをするのが嫌でうろうろしちゃうんですけど、こうして皆さんにお会いできたことが事実として大事なことだったんだなって思います」

そんなMCを経て、「もし今、虚しいような思いをしてる人がいたら、火が落ちかけて、また燃え盛ることが起きるんじゃないかと言っておきます」という言葉から、<動物を歌ってそうな曲>で2位だった「都会の空を烏が舞う」を本のページを捲り、物語を読み聞かせるように歌い、<星とか空の曲>の2位「青い空」では椅子に座り、明日への希望と青い空の広がりを観客一人一人の心に救いのように届けた。そして、同ランキング1位の「夜と星の足跡 3つの提示」で澄み切った夜空の下で二人だけの世界を描いたあと、2010年リリースの5thアルバム『JAPANESE POP』から「青い空」、2006年リリースの2ndアルバム『Merry Andrew』から「夜と星の足跡 3つの提示」という、ある意味では<じゃやない方曲>でもある2曲が総合ランキングでも1位と2位だったことを伝えた。

「馴染みのある曲を歌って終わりましょう」という言葉から、デビューミニアルバムのタイトル曲「サリー」でオーディエンスから手拍子が沸き起こるなかで、安藤は明るく力強いロングトーンを放ち、アウトロであらき、Shigekuni、梅井が一人ずつ楽器を置いて、ステージを降りていった。アワから泡へ。最後は皆川の伴奏のみで「のうぜんかつら(リプライズ)」を柔らかな笑顔を湛え、手を繋ぐように歌い、本編はエンディングを迎えた。

アンコールは<ウーハイ/ハイホー>と高らかなハミングを響かせたあと、「この曲はね、ミュージカルなの」と語りかけ、7月9日に配信シングルとしてリリースされた「YOUR SONG」を披露。ベースに鍵盤、ドラムのハイハットが加わるというバンドアンサンブルだけではなく、照明も演出に加わって、次々と場面が変わっていく。「君がいたら、とても素敵になる」というお話を体現した後、「今日の思い出に歌って帰る?」と呼びかけた「問うてる」では大きな手拍子と合唱が実現。観客の<ラララ>というコーラスに安藤がフェイクを重ねた瞬間がこの夜のクライマックスとなった。そして、記念すべき3年企画の第1回目を終えた彼女は「またここでお会いしましょう」と新たなホームでの再会の約束をして、ステージを後にした。12月公演は24日と25日というクリスマスでの開催が決まった。「ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ」や「松田の子守唄」のような80年代の名曲も聴きたいが、現在の彼女が選曲した、新たな “大人のまじめなカバー”も聴いてみたい気もする。

SET LIST

01. Happy Go Lucky
02.黒い車
03.さみしがり屋の言葉達
04.テキサス
05.それから
06.ヘイディーズ
07.summer
08.隣同士
09.海原の月
10.スキスギてズキズキ(7/12) / creamy logic(7/13)
11.森のくまさん
12.夜の怪物
13.都会の空を烏が舞う
14.青い空
15.夜と星の足跡 3つの提示
16.サリー
17.のうぜんかつら(リプライズ)

ENCORE
18.YOUR SONG
19.問うてる

公演情報

DISK GARAGE公演

安藤裕子「Journey to 2028 “Happy Go Lucky” 〜カバーばっかりの国〜」

2025年12月24日(水)25日(木)恵比寿ザ・ガーデンホール

【FC先行(抽選)】
受付期間:2025年7月22日(火)18:00〜7月29日(火)23:59
詳細はオフィシャルサイトをご確認ください。
※ファンクラブ会員の方のみお申し込みいただけます。

安藤裕子 Live at 能楽堂「緑光憩音」2025

2025年9月13日 (土) 銕仙会能楽研究所2F本舞台

~松本 隆 作詞活動55周年記念 オフィシャル・プロジェクト~ 風街ぽえてぃっく2025『第二夜:街編』

2025年9月20日(土)東京国際フォーラム ホールA

<以下50音順>
【出演】安藤裕子 / 大原櫻子 / クミコ / さかいゆう / 佐藤竹善 / 清水美依紗 / 鈴木 茂 / 田島貴男 / 新妻聖子 / 氷川きよし+KIINA. / 星屑スキャット / 南 佳孝 / 山本 彩 and more…
【風街ばんど】井上 鑑(音楽監督・Key) / 安部 潤(Key) / 土方隆行(Gt) / 今 剛(Gt) / 吉川忠英(A.G)/ 髙水健司(Ba)/ 山木秀夫(Dr) / 川瀬正人(Per) / 高尾直樹・佐々木久美・藤田真由美(Cho) / 西村浩二(Tp) )/ 村田陽一(Tb) / 山本拓夫(Sax) / 栄田嘉彦(Vn) / 矢野晴子(Vn) / 渡部安見子(Vla) / 笠原あやの(Vc)

  • 永堀アツオ

    取材・文

    永堀アツオ

  • 樋口隆宏

    撮影

    樋口隆宏

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