それが、あまり記憶に残ってないんですよね。早く自分たちの作品を出したい、音楽で食べて行きたいっていう気持ちはあったんですけど、具体的なヴィジョンとかはあまりなかった。今もないんだけど(笑)。とにかく、好きなように好きな作品を作りたいっていうことぐらいしかなかったかな。まあなかなかそうも行かないんですけど。『47'45"』を作る前くらいから、キャッチーでアッパーなものを求められるようになってきて。要はチャートの上位にランクインするようなヒット曲が欲しいということなんですけど。でも、キリンジって、もともとそんなアッパーな曲なんてあんまりない。自分の音楽趣味やキリンジそのものは、わりとマニアックな感じがあるじゃないですか。プロデューサーだった冨田(恵一)さんも含めて。なんとなく作っている側のムードは、そういうマニアックな方向に行ってるんだけど、周りからはもっとわかりやすいものを要求されるわけで。
うん、作れる、作れていると思いますよ。今のほうが、そういうことを考えてやっていると思います。KIRINJIのお客さんってこういう人が多いな〜とか、20年もやっているとだいたいわかってくる。フォークっぽいものはあまり好きじゃないんだとか、やっぱりメジャーセブンスとかマイナーナインスがないと嫌なんだ、転調しないと納得しないんだ、とか(笑)。それは、いつも意識して作っていると思いますね。
結局よくわかんないから好きなものを作るしかなかった(笑)。けっこうマニアックなアルバムになっちゃって、渋いと言えば渋いと言うか。でも、そのときはさほどマニアックだな、というような実感はなかったんです。そのときに一番良いと思ったものを出したい、ぐらいの考えしかなかったので。ヒット狙うとか考えてもできなかったし。
ミックスに関してはアイデアを出したりしていますけど、この頃から分業になってきたんですよね。自分の曲は自分で完結させるというように。なので、同じグループの曲ですけど、やっぱり(堀込)泰行の曲という感覚が強いんですよね。
曲が長くなり始めたのも、そのぐらいからかな。8小節で完結するようなメロディみたいなものに当時は惹かれてたんですよ。その8小節の中にも山あり谷ありでそれが3パートぐらいあって、長い間奏があって、さらにその先にもうひとつメロディが来て、最後はサビをさらに展開させたコードが来るっていう。で、また長めのエンディングが来る、みたいな。その形がなんかもう、好きで好きで(笑)。『3』ができあがったときが、そのスタイルが完成したタイミングでもあるかもしれないですよね。1、2枚目は、まだシンプルだった気がするんですよ。『千年紀末に降る雪は』はわりとボリューミーな構成になってるし、『悪玉』は軽い曲だけど構成している要素はすごく多いし。