ロックナンバーの「Can’t stop this feeling!」、中嶋の真骨頂とも言うべきバラード「そよ風のように」とタイプの異なる新曲2曲を携えた同ツアーの初日、セットリスト1曲目のピアノを弾いた瞬間に中嶋は「これは絶対にいいツアーになる」と確信したという。彼女がそこまで「アコ旅2025」に手ごたえを感じる理由は何なのだろうか。「アコ旅」の歴史を振り返りながら、彼女のエネルギーの源泉を探った。
そうですね。2017年から「アコースティックライブツアー」という冠で「空色のゆめ旅 2017」、「春色のうた旅 2018」、「グラデな恋旅」という副題をつけてツアーを回ってきたんです。でも2019年に15本のツアーを回るときに「“○○旅”という名前を毎回つけるよりは“アコ旅”にしてしまったほうがシンプルにテーマを掲げられるな」と思ったのが始まりでした。2021年から副題でそのツアーのコンセプトを表現しています。
ツアーで旅をすると、その土地の食や物や景色との出会いがあって、更に音楽を通して、ライブに来てくださるみなさまや、新しい自分や新しい感情に出会うことができます。なので、色んな出会いや発見ができる「旅」というワードがとても好きだからです。わたし自身、コロナ禍前は「お客さんに楽しんでもらえているのかな」という緊張や不安が大きかったけれど、制限があるなかで開催したライブで「みんなで歌って手拍子をしたり、イェーイ!と盛り上がったりするからライブは楽しいんだ」と再確認して。ここまでの「アコ旅」を経て、お客さんを信じられている、ちゃんとお客さんと音楽を共有できているという実感や自信が出てきた気がしています。
あははは!ベーシストが加わって4人編成になって、パーカッションのさっちん(若森さちこ)もカホンとジャンベと小物だけだったのがミニドラムセットも加わってどんどん楽器が増えて、わたしもピアノだけではなくギターも弾くことになって、ウッドベースもあって、今回のツアーではギターが4本になって……と、どんどん色彩豊かになって。そうなっていったのは、表現したい音が増えてきたことが大きい気がしています。とはいえ自分の楽曲に合うのはシンプルな音色だと思うので、軸足をアコースティックに置きつつ、いろんなサウンドを聴いてもらうライブになってきていますね。皆さんのプレイをお客さんに楽しんでいただきたいし、わたし自身も楽しみたいんです。あと最近の大きなトピックとして、「アコ旅2024」から石成正人さんがギタリストとしてカンバックしてくださったんです。
石成さんは「ライブは発表会じゃない。ライブならではのインスピレーションや、いろんなミュージシャンとの化学反応が面白いんだ」という考え方なんです。絶対に同じことをライブでやらない方なので、石成さんとふたり編成で演奏する楽曲で、石成さんは毎回コードやアレンジを変えてくるんです(笑)。それに触発されてわたしも歌メロがどんどん変わって、このツアーでは各地全部違うメロディになってるんじゃないかな。
「アコ旅2024」で未発表曲として披露した曲で、もともとは作りためていたデモデータの中の1曲だったんです。2023年の秋ぐらいに“ロックンロール”という仮題のデータを開いてみたら、ぽろぽろギターを弾きながらAメロBメロをラララで歌っているテイクが入っていて。その時点でちょっとロックっぽかったんです。これを録った記憶がまったく残っていなかったけれど、アップテンポを書くことに苦手意識があった自分がこんなロックなテイストの楽曲を作っていたことにとても驚いて、「自分から生まれたロックの欠片なら、広げてあげたほうがいいのかもしれない」とサビと歌詞を書いていきました。新しい自分が生まれるような感覚がありましたね。
“Can't stop this feeling”という歌詞はデモに入っていたんですが、たくましく生きていこうぜ!みたいな曲ではなく恋愛ソングにしたほうが絶対にいいだろうなと思ったんですよね。プロデューサーの浜田さん(浜田省吾)に相談をしたら、“恋の片道切符”や“片思いソング”というキーワードをいただいて、このサウンドに片思いの気持ちを乗せるなら、ひとりで盛り上がってるときの感情……どんな景色を見ても“あの人”とつなげてしまって、「もしかして好きなのかな?」と気づいた瞬間に恋が始まるようなものがいいんじゃないかなと思ったんです。わたしは好きだと気づくととにかく頭がいっぱいになってしまうタイプで、特に考えてしまうのは夜眠る前なんです。それで“思いが募りすぎて眠れない”という主人公がパッと浮かんで、そこから勝手に主人公が動き出してくれた感覚がありましたね。
やっぱり音楽においても「この気持ちを止めない」という思いは大事だと思っていますね。塞ぎ込んでしまうと自分のやりたいことや自分の表現したいことを見失ってしまう瞬間があると思うんです。「アコ旅2025」の副題には「自分の強い思いと音楽を貫いていく」という意味も込めています。
新鮮で楽しいと同時に、あんまり今までの曲とギャップがないんですよね。自分のなかに曲作りをしていたときの「これはすごくいい曲だ!」という感覚も残っていて、わたし自身もお客さんもすごく馴染んでいるように感じています。ギターを弾きながら歌うといつもより太くかっこよく歌える感覚もありますし、曲の最後にギターをかき鳴らすときに、浜田さんがギターを縦に掲げてかき鳴らすスタイルを真似しています(笑)。もちろん浜田さんにはまったく追いつかないんですけど、憧れから取り入れさせていただいています。