2022年の秋、何かの曲を作っていた合間でピアノの前にスマホのボイスメモを置いてぽろぽろと弾き出したら、AメロとBメロの伴奏もメロディも歌詞も全部が同時に出てきたんです。しかも4拍子の曲ではなくてワルツのリズムで、自分でもすごくびっくりして。おまけにそのボイスメモを聴き返すと、わたしが泣いている声が入っているんです。
そのときに湧き上がった「これは絶対いい曲になる」という感覚が今もしっかり残っているんです。ずっと「絶対この曲は完成させたい」と思っていて、スマホを触っているときに何の気なしにそのボイスメモを再生したり、スタジオに入って練習をするときにその曲を歌って弾いたりもしていたのに、完成させないまま2年経って。
宙ぶらりんの状態のまま、自分の身近にある曲なんて珍しいので自分でもびっくりしているんです。「そよ風のように 振り返ると笑ってくれた」という歌詞に対して、そよ風のように笑うってどんな感じだろう?何に対して笑ってくれたんだろう?どういうストーリーなんだろう……とずっと考えていたら2年が経ったというか。でも昨年の秋に2025年の春のリリースが決まって、そのタイミングで出したい曲となると「そよ風のように」しか思い浮かばなくて。やっぱりこの曲をかたちにしたかったし、絶対いい曲になるという確信もあったんですよね。
そうです。最初の段階から“春”と“夏”という歌詞は入っていたので、その季節に思いを馳せて。そうしていたら自分が10代の頃から「落ちてくる桜の花びらが地面につく前に7枚拾って、川に1枚ずつ流しながら願い事を7個すると願いが叶う」というおまじないをしていることが連想されて……ちなみにこれは10代の頃に自分で勝手に作ったおまじないなんですけど(笑)。
秋はこれのイチョウバージョンで、2ndアルバム『空色のゆめ』に収録した「願い文字」の「雪に書いた願いごとが新しい雪で覆われて見えなくなると願いが叶う」という内容も自分の願掛けです(笑)。線香花火が最後まで落ちないと願いが叶うという言い伝えがあるので、きっと誰もがそういうおまじないをやったことがあるんじゃないかなって。あとは風景や写真を眺めるなかで過去に思いを馳せるのは大事だし、大切な人との思い出がより儚く思えることもあるなと思ったので、それを歌詞に落とし込んでいきました。
どんなこともいつまでも続くわけがないんですよね。絶対に終わりが来てしまうなんて誰もが知っている、だからこそいつまでもと願ってしまうその気持ちはみんな一緒なんじゃないかなって。でもこの曲をストレートな別れの歌にしてしまうと切なすぎるなと思ったんです。いつか別れが来るとわかっているけれど、それでも“いつまでも”と願う曲にしたことで、この曲に命が芽吹いた気がしています。
まずある程度自分で歌詞を完成させて、それを浜田さんにお見せして細かいニュアンスを足していくというやり方ですね。「“コーヒーを片手に”とかどう?」「いや浜田さん、この曲は...コーヒーじゃないですね」なんて言い合いながら(笑)。
もちろん浜田さんは素晴らしい、尊敬するシンガーソングライターですが、わたしは自分の作品を作ることに関しては割と遠慮せず意見を言うタイプです(笑)。浜田さんはうちの父親と同世代なので、今は親子のような感覚でお話できています。だから「そよ風のように」もお力を借りて、スムーズに完成させられました。浜田さんも「ストレートな別れの歌ではないかも」というご意見だったので、「やっぱりそうですよね。そうじゃない方向に持っていきたいですよね」とあらためて思えました。
自分でもこの曲はライブで歌いながらちょっと泣きそうになるんです。グッとこらえるんですけど、それだけ思い入れが強くて。歌っていると客席には涙してくださる方、すごく穏やかなお顔をされてる方がいらっしゃって、皆さんそれぞれが思いを馳せて聴いてくださっているんだなと感じます。近年はデジタルサウンドが多いなかで音源ではストリングスの皆さんに参加していただいて、「アコ旅」でもバンドメンバーに生演奏していただいて、そのなかで歌うことができていて。本当にありがたいですね。
本当にそうですね。実はわたし、2025年の元旦に「進」という文字を掲げて「今年は絶対に“進”の1年にしよう!」と自分に誓ったんです。変化ではなく進化、変わるのではなく進んでいく。そういう意味ではこの2曲も変化ではなく進化なのかなと感じていますね。日々を一生懸命生きてきた30代を経て、昨年40代になって「1日1日をすごく大事にしたい」という気持ちが芽生えて、ひとつひとつの出来事に「いま自分はとても大切な時間を過ごしている」と思うようになったんです。「アコ旅2025」でも皆さんとお会いできるこの瞬間を今まで以上に大切にしたいと強く思うようになって、そういう気持ちのなか初日の大阪で1曲目のイントロを弾いたら、その瞬間に「これは素晴らしいツアーになるな」と直感的に思ったんです。
そういう経験、今までなかったんです。その感覚に導かれるように、「大丈夫かな。本当に自分の歌はちゃんとお客さんに届くのかな」と疑うのではなく、届いていると信じられるようになっている。バンドメンバーやスタッフさん、皆さんを信じることが軸にあって、そこからいろんなものが連鎖している感覚があるんです。回ってきた1本1本がすごく濃密でしたし、自分が音楽を届けられていることへの感謝や自信が観に来てくださった方々に伝わっていればいいな、初めて中嶋ユキノを観てくださった方にも楽しんでいただきたいなと心から思います。
やっぱり私が「信じている」という気持ちを持って歌っていると、お客さんが自分に思いを寄せてくださるような感覚があるんです。だから信じることでいろんなことは伝わっていくんじゃないかなと思うんですよね。始まった瞬間から終わることが寂しく感じるくらい充実したツアーなので、渋谷PLEASURE PLEASUREもデビューアルバムの曲から最新曲まで、今の自分だからできる最大限の音楽をお届けしたいです。
PRESENT
ツアーグッズより「そよ風感じるバンダナ」にサインを入れて2名様に!
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