そらる
SORARU LIVE TOUR 2023
クリスタリアルスカイ -ORCHESTRA-
2023年8月12日(土)東京ガーデンシアター(有明)
指揮者を含めた20名以上のオーケストラ隊と、ピアニストがステージに入場する。全員で一礼すると客席からは歓迎の拍手が起こり、弦楽器や金管・木管楽器が徐々に音を重ねチューニングを始めた。砂浜を濡らす波打ち際のように広がる音色が、観客の心をたちまち美しい世界の中へと飲み込んでいく。序曲の演奏が終わったと同時にステージ背景の赤いカーテンが上がると、そこにはバンドメンバーとこの日の主役であるそらるの姿が。そしてその頭上には、満天の星空が瞬いていた。
今年8月に東阪で開催されたワンマンツアー「SORARU LIVE TOUR 2023 クリスタリアルスカイ -ORCHESTRA-」最終日。1月の2daysライブ「SORARU ARENA LIVE 2023 -クリスタリアルスカイ-」から継承されたタイトルは、結婚15周年の“水晶婚”と彼の活動15周年記念にちなんだものだ。さらに彼にとってオーケストラを従えたライブは、2019年に開催されたバースデーワンマン以来である。
1曲目はピアノの音色で幕を開けた、keenoのバラード「she」のカバー。バンドとオーケストラの音色がやわらかく重なり、そらるの歌声からは穏やかさと意志の強さが併せて伝わってくる。すると一転、kemu(堀江晶太)の「敗北の少年」カバーではアグレッシブなバンドサウンドと、そこに追随するオーケストラの演奏がドラマチックに響いた。ロックとストリングスが融合した音源はポピュラーだが、生演奏でそれを体感できる機会は珍しく、何といってもこの日はオーケストラ。多種多様な楽器が加わることで、優雅でたくましい、非常にフレッシュなサウンドスケープが実現していた。
1月から始まった「クリスタリアルスカイ」シリーズの最終日に懸ける思いを真摯に言葉にしたそらるは、2ndシングル曲「ユーリカ」、彼の初VOCALOID楽曲「嘘つき魔女と灰色の虹」と、自身が作詞作曲した楽曲を立て続けに披露。映像と演奏と歌が三位一体となり、1曲1曲の物語を高い解像度で届けてゆく。その環境は、楽曲の世界を何よりも大事に歌へと昇華するそらるのボーカルスタイルとも相性がいい。豊かな音色のなかで歌う彼は、どこか安心感に包まれているように見えた。
アコースティックセットとストリングス隊と、歌詞の一つひとつを手紙を読み上げるような歌によりあたたかい空気感が生まれたDECO*27の「愛言葉」から一転、ステージにはそらるとバンド隊が残り、エッジーなロックナンバー「アノニマス御中」へ。この振れ幅の広さを実現できるのも、彼がこの15年間好奇心を持って真摯に音楽に向き合ってきたからだろう。
リラックスして気持ちよく歌えていると感謝を告げたそらるは、このライブのセットリストが7月の「そらる15才おめでとうファンミーティング」の際に募ったリクエスト曲から多く選ばれている旨を明かす。普段あまり歌唱しない楽曲が多いレアなセットリストに対し、“全然知らない曲が多いという意見もあるかもしれないけど、俺のせいじゃないから苦情は受け付けない方向で”と彼なりのユーモアで笑わせた。そして“今日は夏祭りみたいなものなので、一緒に夏の思い出作っていきましょうか”と言うと、バンドメンバーとともにまふまふの「夢のまた夢」から“夏曲”カバーを3曲畳みかける。Vaundyの「怪獣の花唄」とhalyosyの「Fire◎Flower」では積極的にシンガロングを求め、会場一体となってこの瞬間を謳歌した。
ステージには演奏隊が一堂に会しインストナンバー「キルクス」を演奏すると、衣装チェンジをしたそらるが再びステージに現れ、歌い出したのはyukkedoluceの「Liekki」。同曲は低音から高音までを味わえるだけでなく、小説『図書館ドラゴンは火を吹かない』制作陣とのコラボレーションで生まれた楽曲ゆえファンタジー色が強い。オーケストラが加わった音色は、楽曲や映像に綴られた物語をより鮮やかに彩った。その後もそらるが作詞作曲した卒業ソング「長い坂道」、まふまふのトリビュートアルバムに収録されたカンザキイオリアレンジによるそらる歌唱の「ひともどき」と、楽曲の世界を十二分に引き出すステージで魅了。様々な世界観を現実以上に現実的な彩度で届け、会場を圧倒した。
活動15周年を受けて15年前の写真を見返したと話すそらるは、サポートバンドのバンマスであるピアニスト・事務員Gとともに思い出話に花を咲かせる。会場には15年前からそらるの活動を追い続けているファンもいれば、15年前には生まれていないファンもおり、老若男女に自分の活動が届いている現状に驚きつつも喜びを露わにした。
するとここから、命をテーマにした楽曲を順に披露する。このライブにおいてのクライマックスとも言うべきスリリングで内省的な空気感は、夏のなかでも命と向き合う機会の多い8月とも親和性が高かった。みきとPの「少女レイ」ではスティールパンやティンパニー、ボンゴ、パーカッション、クラップなどビートが効いたサウンドが夏の爽やかさと人間の鼓動、刹那的な危うさを表現する。同曲に使用された踏切の音色と鬼気迫る仄暗い導入からナノウの「文学少年の憂鬱」に移ると、緊迫感のある演奏のなかに虚無感と激情が広がった。
虚無感を覚えつつも強い願いを込めた歌と、すべての音が混ざり合う美しい混沌に観客全員が息を呑む。続いてHeavenzのロックバラード「それがあなたの幸せとしても」ではさらにそらると演奏隊の一体感が増し、夜空を染める朝焼けのように輝かしく響いた。その余韻を引き連れた「FirePit」ではコール&レスポンスを行い、開放的な音色と歌声で会場が華やぐ。命の再生や、眠りから新しい物語の幕開けを感じさせるこの4曲のセクションは、生演奏と生歌だからこそ成し得る真骨頂だった。
After the Rainの「彗星列車のベルが鳴る」と「テレストリアル」で晴れやかに本編を締めくくると、アンコールで1曲目に届けたのはYOASOBIの「アイドル」。前月のファンミーティングで歌唱したものの、本人的に納得がいくクオリティではなかったため今ツアーでリベンジを計ったようだ。観客も全力のコールなどで楽曲を盛り上げ、本人も“これは成功と言ってもいいのではないか”と満足気な様子。会場一帯が幸福感に包まれた。
最後はオールキャストで、活動10周年のタイミングでリリースしたアルバムの本人作詞作曲による表題曲「ワンダー」を自然体かつ力強く届ける。普段活動について“つらくなったらやめればいいと思っている”や、“いつまで続けられるかはわからないけれど、できる限りは続けたい”といったことを口にすることが多い彼だが、それもこの曲に綴られている《世界中が恋するような夢を見せよう/永遠に覚めない 鳴り止まない/響かせ続けていこう この歌を》というピュアで大きな願いを大事にしているからこそ出てくる言葉なのだろう。そらるは今後も精力的に活動をしていくことを示唆すると、“また会いましょう”とステージを後にした。
リクエストを元に組んだセットリストでありつつも、00年代から今年の楽曲まで幅広い年代の楽曲が揃い、歌い手としてキャリアをスタートさせ、ソロアーティストとして、After the Rainのメンバーとして活動してきた彼の歴史を感じさせる楽曲群となった。これは彼が15年間愛され続けてきた証とも言えるだろう。そして最初から最後まで心地よさそうに歌う彼の姿も印象的だった。15年というキャリアを持つアーティストの貫禄を感じさせながらも、ひとりの音楽好きの少年の声が聴こえる瞬間も多々あった。歌っている瞬間、音楽と一体となっている間は、特に純粋でいられているのだろう。それこそが彼が響かせ続けたい歌なのかもしれない。そんなことを思いながら、壮大なサウンドスケープの余韻に浸った。
SET LIST
01. she
02. 敗北の少年
03. ユーリカ
04. 嘘つき魔女と灰色の虹
05. 愛言葉
06. アノニマス御中
07. 夢のまた夢
08. 怪獣の花唄
09. Fire◎Flower
10. Liekki
11. 長い坂道
12. ひともどき
13. 少女レイ
14. 文学少年の憂鬱
15. それがあなたの幸せとしても
16. FirePit
17. 彗星列車のベルが鳴る
18. テレストリアル
ENCORE
01. アイドル
02. ワンダー