After the Rain Tour 2023 - 春音 -
2023年5月11日(木) Zepp DiverCity(TOKYO)
ステージの背景全面にはLEDモニターが設置され、その前に5人編成のサポートバンドが一列に並ぶ。中央にはさいたまスーパーアリーナと同様に桜の幹と枝を彷彿とさせる鉄製のオブジェが立ち、フロアは2階席立ち見エリアまで満員。このキャパシティで今このふたりを観られるのは非常にレアということもあり、開演前から会場には静かな興奮が立ち込めていた。
オープニングムービーが流れると、下手からそらる、上手からまふまふが勢いよく登場し、1曲目は「セカイシックに少年少女」。この日のセットリストや使用映像はさいたまスーパーアリーナ公演とほぼ同じであるものの、会場の規模が変わるだけでまったく違う景色になる。ボーカルの迫力やバンドの音圧が間近で感じられるだけでなく、ふたりがコールを呼び掛ければ観客もタイムラグなくそれに応える。すべてが即効性や直接性を伴うのはライブハウスならではのダイナミズムだ。笑顔で歌うそらるとまふまふの表情と、ふたりの長身瘦躯ぶりもより映えていた。
「アイスクリームコンプレックス」ではふたりのコンビネーションが生きたボーカルワークで魅了する。アイコンタクトなどを取らずともこれだけのハーモニーが作れるのは、お互いの呼吸を把握している証拠だろう。とはいえふたりとも時折相手に視線を向けるなど、お互いを気に掛ける様子も見受けられた。このお互いに無理のない距離感も、After the Rainのライブの心地よさに直結しているのではないだろうか。
“今日は雨の中ありがとうございます”と挨拶をしたそらるは、ツアーファイナルを最高の1日にすると意気込みを語る。Zepp DiverCityでの昔話にも花が咲き、まふまふは“あの時はステージに出ていくのが怖かった”、そらるも“トイレにずっとこもっていたいくらい緊張した。人前に立つのが怖くて怖くて仕方がなかった”と懐かしむ。自身の変化を噛み締めながら、そらるは“今日は地に足のついたAfter the Rainのふたりでお送りします”と落ち着いた様子で微笑んだ。
ふたりがギターを肩から下げると、まふまふが“ここからバンドやっていいですか?自分バンド大好きなんです”と告げ、ロックナンバーのセクションへ。ギターが2本加わることでさらに音圧は増し、バンドのグルーヴをより濃く全身で感じられる。「負け犬ドライブ」では観客たちによる犬の鳴き声コールも演奏の一部となり、会場の一体感もさらにアップ。「10数年前の僕たちへ」はまふまふのざらついたギターの音色からもバンド愛が溢れ、「夏空と走馬灯」では楽曲の世界にじっくり入り込んで演奏する。センチメンタルなボーカルとエネルギッシュなバンドサウンドのコントラストが胸に響く「わすれられんぼ」ではまふまふがバンドメンバーとアイコンタクトを取るなど、バンドに魅せられたギター少年の一面を垣間見せた。普段ギターボーカルスタイルで歌う機会が少ないそらるも一音一音ひたむきにプレイ。バンド編成ならではの、青くフレッシュなムードが会場一帯に広がった。
「ナイトクローラー」ではバンド熱をさらに高騰させる熱演を展開。ハンドマイクで歌唱するそらるは曲中で隙を見ながら上着を脱いで腕まくりをし、フロアを見渡しながら腕を振り上げ観客にアクションを求める。まふまふはその横でひたすらスリリングなギターの音色を鳴らし続けていた。ふたりの立ち回りが対極であるほどAtRらしさを感じさせてしまうのも、彼らならではの絶妙なバランスだ。お互いがお互いの持ち味を生かせている状況であればあるほど、それぞれの美学に突き進めば突き進むほど、化学反応が生まれるユニットなのかもしれない。信頼を寄せ、任せられる相棒がいることは、ふたりにとって非常に心強いことだろう。
コロナ禍での活動を振り返るそらるが“こうやって生でみんなの声を聞きながらライブをするのは最高ですね”と話すと、まふまふは“みんな声を出せなくて我慢してきたよね?みんなで、わー!って言ってみようよ!”と観客へ呼び掛ける。すると彼は両手を下から持ち上げる仕草をし、観客もそのアクションに合わせて声のボリュームを上げると、“これが当たり前だったよね。楽しい!”と喜びに満ちた表情を浮かべた。コロナ禍による長い冬が開け、春のように花開いていく。まさに“春音”を象徴するようなワンシーンだった。
「恋の始まる方程式」で会場をさらに春色に包み込むと、シリアスなムードに息を呑む「モア」へ。ふたりのエピソードが元になっている楽曲だけあり、歌詞の一つひとつや交錯するツインボーカルがひりひりと響いてくる。すれ違う瞬間にそらるがまふまふの肩に手を置いたシーンや、落ちサビで背中合わせになったふたりが描かれた映像に反しステージ上のふたりは向かい合って歌唱するシーンも、この曲の本質を引き立てていたように思う。
「アイスリープウェル」、「四季折々に揺蕩いて」とドラマチックな楽曲を歌い上げると、ポジティブでたくましいサウンドスケープのバンドインストを挟み、「1・2・3」で衣装チェンジをしたふたりが下手から揃ってステージへ再登場。それぞれがフロアを積極的に盛り上げ、まふまふもその様子を見て“いいねいいねー!”と笑顔を浮かべた。ピースフルな「ネバーエンディングリバーシ」の後はまふまふが“まだまだいけるかー!”とがなり、カバーセクションへ。みきとPの「ロキ」とNeruの「脱法ロック」を豪快に歌い上げ、“キックアウト”という歌詞に合わせて両者一斉に高く足を振り上げる。さいたまスーパーアリーナ公演ではそらるが高所で回転するクレーンの恐怖に耐え切れず、立ち上がるどころではなかったため、これもある意味ライブハウスならではのパフォーマンスと言えるかもしれない。
「折り紙と百景」で流麗に楽曲の世界を美しく彩り、「夕刻、夢ト見紛ウ」では観客を楽曲の奥まで連れていくように全身から声を振り絞ると、ラスト1曲を残しまふまふはツアーについて“めっちゃ楽しかった。怖さもあったけど、始まってしまうとあっという間だった”と話す。そらるは“楽しかった。ひとりでたまアリだと広くて心細かった気がするから……ありがとうございます”とまふまふに感謝を告げ、“Zeppは何十回も立たせてもらっているけれど、今までよりも距離も声も近くに感じられたんですよね。その近さがちょっと怖くもあり、直にみんなの気持ちが届いているような感覚があって良かったです”と心境を明かした。“去年今年と桜を見ていないまふまふに、桜を見せてあげてください”と続けるとフロアのペンライトが桜色に染まり、本編ラストは「桜花ニ月夜ト袖シグレ」。ステージ両脇のミラーボールが回り出した瞬間は桜吹雪に包まれるようで、そのなかでふたりがお互いに視線を送る様子も、新しい季節を迎えるようなすがすがしさを纏っていた。
アンコールはツアーTシャツ姿で登場。「世界を変えるひとつのノウハウ」で観客とコールのかけ合いで楽しみ、「絶対よい子のエトセトラ」では《まんまるいせかいだもん》の歌詞に合わせてふたりが腕で円を作ると観客からも大きな歓声が湧いた。
“ライブは人生でいちばん疲れる2時間。やっぱり(観客の視線を浴びることで)体力を吸われるんだろうな”と語るそらるに、まふまふが“でもライブでしか得られない栄養がありますよね”と返すと、そらるも“そうだね。体の疲れと引き換えに、心の栄養を得ている”と頷く。心地よい疲労感を抱えるふたりの様子からも、約4年ぶりの制限のないライブがかなり充実した時間だったことが窺えた。
「テレストリアル」を鮮やかに歌い上げると、ツアーを締めくくったのは「彗星列車のベルが鳴る」。ふたりの呼び掛けによりフロアからも盛大なコールが起きる。まふまふは曲中で“本当に楽しいツアーだったよ!”や“最高の思い出をありがとう!”など何度も全身で感謝を伝え、そらるも“楽しかったです。ありがとう”と手を振った。その後バンドメンバーと手をつないでマイクを通さず礼を言うと、“やりきったー!ありがとう!もう声出ないわ!”と叫ぶまふまふに、そらるがクールな口調で“声出てるよ”と笑う。“続きはインターネットか次のライブで”と言い残し、ふたりは軽やかな足取りでステージを後にした。
会場を出ると、開演前に地面を濡らしていた雨はすっかりやんでいた。そんな初夏の夜空を眺めながら、冬を越えて春を迎える“春音”と、雨上がりの“After the Rain”がファイナルで美しく結実したような気がした。MCでそらるはまだ今年中にAtRとしての動きがある旨を明かしたり、まふまふは話の流れで10年後もライブに来たいと思う観客に挙手を求めるなど、自然体の佇まいのなかで“未来”をイメージさせる発言も多かったツアーファイナル。“雨降って地固まる”を体現したAtRがどんな季節を描いていくのか、その先に思いを馳せた。
SET LIST
01. セカイシックに少年少女
02. アイスクリームコンプレックス
03. 負け犬ドライブ
04. 10数年前の僕たちへ
05. 夏空と走馬灯
06. わすれられんぼ
07. ナイトクローラー
08. 恋の始まる方程式
09. モア
10. アイスリープウェル
11. 四季折々に揺蕩いて
12. 1・2・3
13. ネバーエンディングリバーシ
14. ロキ
15. 脱法ロック
16. 折り紙と百景
17. 夕刻、夢ト見紛ウ
18. 桜花ニ月夜ト袖シグレ
ENCORE
01. 世界を変えるひとつのノウハウ
02. 絶対よい子のエトセトラ
03. テレストリアル
04. 彗星列車のベルが鳴る