After the Rain、そらる、まふまふ二人が生み出す美しいハーモニー、満員のたまアリで28000人を魅了

ライブレポート | 2023.05.12 19:00

After the Rain Tour 2023 - 春音 -
2023年4月30日(日) さいたまスーパーアリーナ

そらるとまふまふの音楽ユニット・After the Rainによる、約4年ぶりの有観客ライブ「After the Rain Tour 2023 - 春音 -」。 “春音”という言葉には、コロナ禍による長い冬が開け、春のように花開いていくという意味がこめられているという。
現在ソロ活動休止中のまふまふが2022年6月ぶりにステージに立つことに加え、まふまふだけでなくそらるもギターをプレイすることなどがアナウンスされ、約5年半ぶりのZepp公演も行うなど、お楽しみ要素が盛りだくさんのツアー。初日のさいたまスーパーアリーナ公演は、降っていた雨も午後にはやむという、名は体を表すお誂え向きの日和となった。

縦型と横型のモニターが計3枚設置されたメインステージと、そこから長く伸びる花道、センターステージから左右に伸びる花道とサブステージ。ここまで大掛かりなさいたまスーパーアリーナのスタジアムモードはなかなかお目にかかれない。桜の花びらを模したイラストのムービーからカウントダウンが始まると、揃いの黒いスーツに身を纏ったふたりが「セカイシックに少年少女」を歌い始めた。

そらるは登場するや否や“来たぞたまアリ!最高の1日にしよう!”と前のめりで観客を煽り、間奏でまふまふも“皆さんお久し振りでーす!”と爽やかに手を振る。続いて披露したのは今年の結成7周年記念日に公開した「アイスクリームコンプレックス」。ふたりはステージの端々に移動して客席を見渡し、ときめきに満ちた楽曲をハーモニーで鮮やかに彩った。

2曲歌いすがすがしい面持ちで“最高なんだが?気持ちよすぎる!”と語るそらるに対し、 “死ぬほど緊張してます。脚がずっと震えてて”と吐露するまふまふ。ソロ活動休止前最後の活動となった去年の東京ドーム以来のステージゆえに、様々な思いがあるのかもしれない。そんなまふまふをリラックスさせるように、そらるはスマートにMCを引っ張り、観客へ“今までの鬱憤から生まれるエネルギーを僕らにぶつけて、最後まで楽しんで帰って”と呼び掛けた。

そらる

まふまふ

まふまふが“僕の装備アイテムを持ってきてもいいですか?あれがあれば多少硬さも和らぐと思う”と言い、構えたのはエレキギター。ふたりでのギターパフォーマンスを希望したのはまふまふとのことで、ギターロック色の強い楽曲を畳み掛ける。まふまふソロのAtR曲「負け犬ドライブ」もツインボーカルでパフォーマンスし、まふまふの弾き語りから幕を開けた「10数年前の僕たちへ」は清涼感と青春感が軽やかに舞う。その後も「夏空と走馬灯」と「わすれられんぼ」でざらついたギターの音色が特有の焦燥感とノスタルジックなムードを作り出し、楽曲の世界を立体的に表現した。

4曲演奏し終え“ギター乗り切ったー”と笑いながら胸をなでおろしたそらるが、“皆さんに1曲プレゼントがあります”と告げ披露したのは、未発表の新曲「ナイトクローラー」。優美なロックナンバーで、ハンドマイクのそらるはステージを移動しながら情熱的に歌い上げ、ギターボーカルスタイルのまふまふは楽曲に身を埋めるように歌とプレイに集中し、会場を楽曲の世界へと引き込んだ。

まふまふ

そらる

アーティストがメインの活動とは別に組んだユニットには、様々なスタンスがある。ふたりの個性がぶつかり合うことで大きなエネルギーを生むのもひとつの美しさであるが、AtRは“調和”の趣が強い。まふまふの抜けの良いハイトーンボイスがそらるの落ち着いた色気のある低音を生かし、そらるのふくよかでレンジの広いボーカルがまふまふの少年的な無垢さを持った声を際立たせる。正反対でありながらも互いの才能を認め合っている者同士であり、お互いの短所も長所も痛いくらいわかるほど気心知れた者同士だからこそ、それぞれが相手に花を持たすようなコンビネーションをナチュラルに発揮できるのだろう。ひとりでステージに立っているときよりも、どこか安心感に包まれているふたりを観られるのも、AtRのライブの魅力のひとつであると思う。

この日のライブはもともと、4月29日と30日の2日間さいたまスーパーアリーナを押さえていた浦島坂田船が、4月30日分をAtRへ受け渡すことを提案したことから実現に至った。AtRの同会場でのワンマンは2018年以来であるが、今回は前回よりもキャパシティを広げての開催だったため、ふたりとも本当に会場が埋まるか危惧していたようだ。だがそんな不安をよそに、約28,000枚ものチケットはソールドアウト。チケットが獲得できず会場に来られなかったファンのことも気遣いながら、満員の会場に感謝を告げた。

“ここからはみんなが好きな曲を中心に”と前置きし、まず歌唱したのは「恋の始まる方程式」。まふまふは同曲について“きゃぴきゃぴしていてオタクにはきつい”や、“ああ青春の波動を感じる!なんだこの明るい曲は~!”とこぼしていたが、そんなことを言いつつも気持ちを入れて楽曲の甘酸っぱさを表現していた。「モア」はハーモニーなどツインボーカルの持ち味を存分に生かした緊迫感で観客を引き込み、ふたりのハイトーンが目を見張る「アイスリープウェル」の後は、和風メロディがきらびやかな「四季折々に揺蕩いて」。真摯なボーカルでロマンチックに前半パートを締めくくった。

バンドインストの後、「1・2・3」のイントロと花火とともに、白を基調に赤と青でシンメトリーになった和風の衣装を身にまとったふたりが再びステージに現れる。花道を渡りセンターステージに移ると360度観客に囲まれながら笑顔でパワフルに歌い上げ、最後に“キミにきめた!”とお互いを指さすと会場一体から大きな歓声が湧いた。「ネバーエンディングリバーシ」ではお互いの歌唱パートをリップシンクするなど肩の力を抜いて空間を楽しみ、客席を見渡すまふまふが“この景色を見ると僕たちは、まだまだ頑張っていけそうだなあ”と告げるなど、幸せな空気感が広がってゆく。

Neruの「脱法ロック」のカバーではセンターステージから伸びた花道が高く上がり、回転するクレーンに様変わり。“怖すぎる!”と言いしゃがみこむそらるに対して、まふまふは柵に足を引っかけるなど余裕綽々といった様子だ。さすが自身のソロ公演で何度も気球に乗ってきただけある。その後もみきとPの「ロキ」をユーモアと迫力たっぷりに堂々と歌い上げ、“歌ってみた”のセクションを大いに盛り上げた。

前日に緊張でベッドに入ってから4時間眠れなかったことを明かしたそらるは、多くの人々がこの日を待ち望んでいたことに対して“今まで俺たちのやってきたライブが最悪なものではなかったんだと安心しました”と率直な気持ちを口にする。まふまふが“せっかくこんな衣装を着ているので、和風の曲でもやりますか”と告げると、「折り紙と百景」「夕刻、夢ト見紛ウ」「桜花ニ月夜ト袖シグレ」の3曲でドラマチックに本編を駆け抜けた。切ないメロディの楽曲ながら清涼感に包まれていたのは、“After the Rain”を待っていた人々がこれだけたくさんいたことにふたりが喜びを感じていたからではないだろうか。実力も人気も申し分ないソロアーティスト同士がユニット活動を継続することは、誤解を恐れずに言えば非常に骨の折れることだ。それでもふたりで音楽活動を続けるのは、互いをリスペクトするだけでなくAtRでなければ得られない安心感や幸福感があるからだろう。桜色のペンライトで染まった客席もまた、AtRで描く様々な“春”を歓迎していることがうかがえた。

アンコールではまずトロッコに乗り、観客に手を振ったりアイコンタクトを取りながら「世界を変えるひとつのノウハウ」と「絶対よい子のエトセトラ」を歌唱。メインステージに戻りこの日を振り返りながら“1曲目からすごく楽しかった”と噛み締めるそらるは、“ここからツアーが始まるし、また大きい会場でもライブをやると思うので、また会いましょう”とまっすぐ観客に呼び掛けた。まふまふがギターボーカル、そらるがハンドマイクで「テレストリアル」を届けるとステージには星空が広がり、ラストは「彗星列車のベルが鳴る」。“みんな最高だったよ、ありがとう!”とまふまふが笑顔で告げると、会場一帯を春から夏に送り出すような、未来を描いていくような晴れやかなステージで締めくくった。

この4年弱はこの幸福を感じるための伏線だったのではないかと感じられるほどの華やかな再スタート。春の訪れを感じられるのは、冬の寒さがあったからに他ならない。終始ポジティブな空気で満たされたツアー初日。これだけの観客を一挙に魅了するふたりへのこの先の期待が高まる、非常にエネルギーに溢れた1日だった。

SET LIST

01. セカイシックに少年少女
02. アイスクリームコンプレックス
03. 負け犬ドライブ
04. 10数年前の僕たちへ
05. 夏空と走馬灯
06. わすれられんぼ
07. ナイトクローラー
08. 恋の始まる方程式
09. モア
10. アイスリープウェル
11. 四季折々に揺蕩いて
12. 1・2・3
13. ネバーエンディングリバーシ
14. 脱法ロック
15. ロキ
16. 折り紙と百景
17. 夕刻、夢ト見紛ウ
18. 桜花ニ月夜ト袖シグレ

ENCORE
01. 絶対よい子のエトセトラ
02. 世界を変えるひとつのノウハウ
03. テレストリアル
04. 彗星列車のベルが鳴る

  • 沖 さやこ

    取材・文

    沖 さやこ

    • ツイッター
    • instagram
  • 撮影

    小松陽祐[ODD JOB] / 堀卓朗[ELENORE] / 加藤千絵 [CAPS] / 笠原千聖[cielkocka]

SHARE

関連記事

最新記事

もっと見る