1st Oneman Tour『虫の知らせ』
2022年12月10日(土)Shibuya WWW
cadodeはいちいちちょっと変わっている。ちゃんとしているようで、どこかがはみだしている。でもそれは奇をてらったものではなく、自分の心の居心地の良い方角へと進んだからこそ起こる事象だ。初のツアーである東阪公演「虫の知らせ」の渋谷WWW公演でも、その自然体の違和感を大いに楽しむことができた。
暗転すると深い青の照明で会場が染まり、開演前のBGMが流れ続ける。そこにkoshi(Vo)が単身ステージに登場。「よろしく!」と一言告げると、「浮いちまった!」でライブがスタートした。ステージのセンターにはキャメルの長椅子、その両脇にはラップトップなど機材用のデスクやギターが設置され、下手側の机の上のTVモニターにはMVが映し出されている。間接照明のようなライト、スツールに掛けられたユニットロゴのネオン管、上下黒のカジュアルな装いのkoshi。シチュエーションも相まって、彼の部屋に招き入れられたような感覚に陥った。
「ライムライト」の序盤でkoshiがクラップを促すと、観客もそれに準ずる。続いての「あの夏で待ってる」では観客が自主的にクラップを加え、その音を聴いた彼は笑顔を浮かべていた。背景に掛けられたラメ入りの紺入りのカーテンは、ステージ下に長く連なるLEDライトの照らし方によって、まったく違う色や柄に変化する。身体も重力から解き放たれていくように歌うkoshiは風と戯れているようだ。映像という2次元表現ではなく「空間」という3次元表現で作り出されるライブは、フロアをどんどん引き込んでいく。
来月リリース予定のニューアルバムのタイトルである「浮遊バグ」にもあるように、cadodeの音楽には浮力がはたらいているような印象を受けることが多い。「浮く」という言葉を辞書で引くとポジティブな意味もネガティブな意味もどちらも出てくるが、cadodeの楽曲はそれらをすべて内包し、生きづらい世の中で心地よさを見出す高難易度のゲームをプレイしているようだ。繊細で勇敢な音色と歌声は、不安定でなければ得られない幸福は間違いなく存在すると教えてくれる。
物柔らかでありながらふつふつと熱量が湧き上がる「ワンダー」、《回転したい》という歌詞に合わせて照明が回転するという演出もキュートな「オドラニャ」、koshiの低音が効いた「楽園」と、より内省的な世界へ。cadodeの作る楽曲はリアルと言うには夢が詰まっているのに、ファンタジーになりきらないところも特徴的だ。見たことがないしどこにあるかもわからないけれど、こんな世界があるんじゃないか――そんな希望に胸を焦がしている。ゆえに聴き手の胸のうちでくすぶっている感情を刺激するのかもしれない。
少年たちの声が響くなかで訥々とkoshiの朗読が流れるトラックに乗せて、eba(Gt)と谷原亮(General Maneger)が登場。メンバー全員が我々の目の前に揃った。するとそれまでkoshiの部屋にしか見えなかったそこが、急にステージへと様変わりするのだから不思議だ。2人が参加することで音に変化が生まれるのももちろんだが、視覚的な印象が変わると音の響き方も変わるのだと実感する。やはりライブは五感すべてで音楽に興じられる空間だ。
ロック色の強い「誰かが夜を描いたとして」では楽曲に宿るエネルギーに加えebaが湧き上がる感情をそのままギターに乗せ、それに触発された観客もクラップがより力が入る。ebaと谷原もコーラスに参加し観客とじっくりと語り合うような空気感で包み込んだ「明後日に恋をする」、大空を雄大に飛んでいくようなサウンドスケープで魅了した「光」と、音を通じてつながる空間はどんどんその純度を高めていく。
「カオサン通り」では観客がAメロのシンボリックな裏打ちのビートをクラップで刻み、メンバー3人が歌うセクションで手を左右に揺らすなど、cadodeの音楽の一部になろうとしていく姿や気魄が散見した。その様子は一体感を求めているというよりはもっと一人ひとりの意志に委ねられていて、それこそkoshiがインタビューで語っていた「トライブ感」に近いものがある。「TOKYO2070」ではそれがより大きく燃え上がっていた。koshiが「みんなの声は聞こえないんだけど、すごく届いた気がします」と言っていたのも、それが理由と言ってもいいのではないだろうか。
『浮遊バグ』から初披露のエッジーな「逆風」、ゲーム『サマータイムレンダ Another Horizon』のED曲「さかいめだらけ」と最新のモードの2曲を届けると、どこか掴みどころのないポップソング「タイムマシンに乗るから」で翻弄し、「回夏」と「Unique」でこの場にいた人々の心の中へと消えない炎を灯すようにライブを締めくくった。
最後ステージに残ったkoshiは、「逆風」の先行配信と、2023年3月から3ヶ月連続マンスリー企画ライブを渋谷Star Loungeにて開催することを発表。「対バンやアコースティックセットみたいな、ワンマンではできないことをやりたい」と意気込みを語り、「まだまだ新情報をお楽しみに。今年もありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願いいたします。楽しかった、また会おうね!」と笑顔でステージを去っていった。
終演後に残ったのは、来年のcadodeはさらに精力的で面白い動きをしていくに違いないという期待感だった。『浮遊バグ』に関する発表をお知らせするという意味でつけられた「虫の知らせ」というツアータイトルだが、「よくないことが起こりそうだと感じる」という本来の言葉の意味とは真逆の感情をこちらに抱かせてしまうのもcadodeならではの浮遊感かもしれない。無人になったステージに佇むTVモニターにて初解禁された「さかいめだらけ」のミュージックビデオを眺めながら、そんなことを思った。
SET LIST
01. 浮いちまった!
02. ライムライト
03. あの夏で待ってる
04. 三行半
05. たらちね
06. ワンダー
07. オドラニャ
08. 楽園
09. かたばみ
10. IEDE
11. 誰かが夜を描いたとして
12. 明後日に恋をする
13. 光
14. カオサン通り
15. TOKYO2070
16. 逆風
17. さかいめだらけ
18. タイムマシンに乗るから
19. 回夏
20. Unique