2022年は音源リリースに加え、サーキットイベントへの出演や初のワンマンライブ、東阪ワンマンツアーなど精力的に活動。その集大成として完成した1stフルアルバム『浮遊バグ』が2023年1月25日(水)リリース!
DI:GA ONLINEでのインタビューやライブレポートでcadodeの活動を追い続けているライター・沖さやこ氏によるアルバム全曲レビューを読みながら、楽曲をより深く楽しんでほしい!(DI:GA ONLINE編集部)
1. さかいめだらけ
PS4ゲーム版『サマータイムレンダ Another Horizon』EDテーマに起用された楽曲。TVアニメ『サマータイムレンダ』1st EDテーマとして書き下ろした「回夏」に続き2度目のタッグで、同ゲームのトゥルーエンドをイメージして制作されたという。
バンドサウンドとボーカルが同時に入る曲始まりは、白浜に波が押し寄せるような優雅さと迫力を併せ持つ。楽曲の展開も多く、様々なシーンが想起されるサウンドアプローチは、夏の暑さのように常に熱がまとわりついているようだ。歌詞には《いつかは辿り着くかな》や《来年の夏》、《知らなかった 明日が来るなんて》、《輝くものがまだ 見える気がするんだ》といった“未完”の描写が多い。何かの終わりは何かの始まり。アルバム1曲目に収録されることで、『浮遊バグ』の世界の始まりを描いた楽曲へと様変わりしている。
2. 浮いちまった!
2022年11月にリリースされたデジタルシングル曲。『浮遊バグ』のタイトル曲として制作されている。ebaはcadodeにはあまりなかった小気味よいテンポでセカイ系の要素が入った楽曲をテーマに制作し、そこにkoshiが“生きづらさとはゲームの空中浮遊バグのように、不慮のバグによって社会から浮いてしまっていること”という自身の哲学を軽妙な筆致で歌詞に落とし込んでいる。
浮いてしまっている状況の自分を自虐的に描くようでありながらも、浮いたからこそ感じられる充実、見られる景色などがあること、生きづらい人間なりに導き出した呼吸がしやすい方法、地に足をつけようともがく姿などが綴られ、その説得力のある言葉たちは非常に勇敢だ。それはkoshiが自身の実体験と思考から導き出した彼なりの解だからに他ならない。運命は自分の生き方次第で変わっていくという人生の本質を、肩肘張らずに突いてくる楽曲である。
3. 寺にでも⾏こうぜ
3分弱というショートナンバーでありながら、スタイリッシュかつ野性的なムードがたちこめ、エッジの効いたサウンドとボーカルがインパクトを残す。koshiがアルバムリリース時の公式コメントで“アルバムでしか作れない曲を作りたかった”と語っていたが、同曲はまさにそのポジションだろう。「浮いちまった!」で作ったムードをよりディープかつストイックにしている。
歌詞を文字で読むと訥々と本心を綴った文章であるのにもかかわらず、実際に曲を聴くとリズムに特化したボーカルアプローチなのが興味深い。ラップも織り込み、cadodeの楽曲のなかでも最上級に譜割りを研ぎ澄ましているとも言える。刺激的なベースライン、クールなギターカッティング、終盤の洗練された鍵盤といった一つひとつの音色も効果的だ。
4. 回夏
2022年7月にリリースされたシングルの表題曲であり、TVアニメ『サマータイムレンダ』1st EDテーマの書き下ろし楽曲。《ぬるい潮》や《蝉時雨》、《草いきれの匂い》、《夕立》など夏の風景や体験が歌詞に多数散りばめられ、ループの要素がアレンジに盛り込まれるなど、タイアップ作品の世界観を尊重したソングライティングが施されている。
だが視点を変えると、抒情的なメロディ、生楽器とプログラミングで構成されるメランコリックとロマンチシズムが融合したサウンドスケープ、《時間よりも速く駆けたい》や《一度霧だからあなたと変わりたい》などの“君”に対して溢れる思いや焦燥感、声を巧みに使ったボーカルとトラックメイクなど、これまでのcadodeの美学やポリシーが凝縮された楽曲であることに気付く。新しい季節を迎えるために、胸に秘めていた悲しみや喪失感を音楽という水のなかに解き放つような、繊細かつ屈強なナンバーだ。
5. 逆⾵
2022年12月にリリースされた先行デジタルシングル。昨年DI:GA ONLINEで公開されたインタビューでは未公開の内容だが、同曲はkoshiが“アルバムに「逆風」というタイトルの曲を入れたい”と発案したところからebaがトラックを制作している。逆再生を用いたセクションやヒップホップ的なビート感などトラックメイカー的なアプローチが多く投入され、「寺にでも行こうぜ」にも通ずるユーモアと緊迫感を併せ持つ楽曲に仕上がった。
cadodeを結成してから自身の経験を歌詞に落とし込んでいたkoshiは、じょじょに自身の経験を歌詞へアウトプットすることに難儀するようになり、『浮遊バグ』の制作期間には精神的なものから体調を崩していたという。だからこそ“逆風”という言葉で自分自身を鼓舞したかったのかもしれない。《プライド捨てんな/がっぷり四つで行こう》と歌う彼の声の凄みにも目を見張る。
6. シュウ末紀⾏
“シュウ末”は週末であり終末なのだろうかと予想しながら同曲を聴いていると、自分の道は自分で決める強い意志を感じるからこれは“衆末”なのかもしれない、凛とした佇まいを感じるという意味では“醜末”なのかもしれない、どこかセンチメンタルなムードや冷たくなった風を感じるサウンドは秋の終わりのようだから“秋末”なのかもしれない……など様々な想像が広がった。
《出掛けていくブレーメン》や《何もかもを/忘れて旅に出たい》という歌詞が生まれた背景には、koshiがコロナ禍に入る前に様々な地に旅をしていたことが影響しているだろう。そしてそれを奪われたことは、彼にとってかなりシビアな状況であったと想像する。アダルティなサックスの音色や鼓動を彷彿とさせるビートが、koshiの混乱や美しい記憶が入り乱れる歌詞と呼応し、ファンタジックでありながらリアリティも持ち合わせた楽曲に仕上がっている。
7. hunch
異国の子どものクラップと歌から始まるインタールード。東阪ワンマンツアー「虫の知らせ」でも、koshiによる単身パフォーマンスである第1部から、ebaと谷原亮がステージに登場する第2部へと移行する際に使用されていた。
タイトルは“直感”や“第六感”といった意味を持つ言葉。アルバムの前半に苦しみと葛藤を感じさせる楽曲が多いこともあり、この楽曲をきっかけに童心やピュアなモードに移り替わる印象を与える。「さかいめだらけ」や「回夏」、「逆風」で提示されていたループや反転の要素をアルバムにも反映させているのだろうか。ある意味これもポジティブな“浮遊バグ”なのかもしれない。
8. かたばみ
映画『味噌カレー牛乳ラーメンってめぇ〜の?』主題歌に起用された、2022年6月リリースのデジタルシングル曲。koshiが自身のnoteで“「回夏」では遠くを見ていたから、「かたばみ」では足元を見る曲を描きたかった”、“波風もたたず、ゴールも用意されていない私たちは、ときに立ち止まってしまう。(中略)そんなときに見える足元に「生きること」への発見がある”と綴っていたように、等身大の生との向き合い方が歌詞に描かれている。
小鳥のさえずりや広い空を彷彿とさせるサウンドスケープと、歌詞の情景描写の親和性も高く、歌詞に綴られたメッセージがより優しく響いてくる。《あてもなく続く日々にも それぞれの意味があるのよ》は、堂々巡りを繰り返す人にも救いになるだろう。生きることはとても難しいし、見ようによってはシンプルなのだと、あらためて気付かせてくれるこの曲は、道端でさりげなく花を咲かすかたばみのようだ。
9. 光
シングル『回夏』のc/w曲。koshiのnoteによるとc/w曲ならではのアプローチを追求し、普段歌詞では使用しない言葉を意図的に用い、『サマータイムレンダ』の原作者・田中靖規氏に向けて書いたという。歌詞に《マインクラフト》が出てくるのも、大のゲーム好きである田中氏からインスピレーションを受けたものだろう。
サウンドもcadodeの中では淡々とした印象を与えるもののポップネスは損なわれておらず、その一定のテンポや熱量を保ったサウンドが、どんな困難が訪れようともまっすぐ飛んでいくような屈強さを感じさせる。それは『サマータイムレンダ』の登場人物たちに漲るエネルギーの根底にあるようにも捉えられるし、ぶれない意志を持ったcadodeのフラットな世界のようでもある。ロウソクの芯とその周りで燃える青い炎を凝視したら、こんな情景が広がっているのかもしれない。
10. 近道
歌い出しのピアノの伴奏と歌、《三度目の春》や《おもかげ》という言葉から、瞬時に中高生時代の3月の景色や匂いを思い出す人も少なくないのではないだろうか。だが一気にノスタルジーなムードに引き込むものの、その感傷に浸ったままにさせないのがcadode流である。卒業で訪れる未来への不安や、時を経るごとにおぼろげになる思い出を瞬時に現在へ蘇らせる夢の世界への戸惑いなど、ひとりの人間の成長と重ねる年月の変化が第一人称で綴られていく。
夢というには鮮明で、懐かしいというには未知なる世界を目にするような高揚が湧き上がり、天高く飛んでいく――そんなスケールを感じさせながらも、どこか手のひらを見つめるような素朴さを持ったサウンドスケープ。歌詞には総じて手を伸ばせば届く距離の景色、つまり自分の作ってきた人生が描かれている。いつか訪れる煙になって消えていく日まで、自分はどう生きていくのか。そんな漠然とした未来を仰ぎながら、わたしたちはまた明日を迎えていくのだ。
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