ASIAN KUNG-FU GENERATION
Tour 2019「ホームタウン」
5月19日(日)サンシティ越谷市民ホール (大ホール)
ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)が昨年12月に出したアルバム『ホームタウン』はとても風通しが良く、彼らの原点のひとつである90年代パワー・ポップ、オルタナ・ロックをより骨太な現代的サウンドに再構築した、爽快なアルバムだった。これはきっとツアーが楽しいことになる。35本に及ぶ全国ツアーは3分の1を超え、演奏にも脂が乗っているだろう。ライヴハウスでのツーマンだった前半戦が終わり、ホールでのワンマンに突入するタイミングもいい。思い立ったが吉日。5月19日(日)、『ASIAN KUNG-FU GENERATION Tour 2019 「ホームタウン」』の14本目、ワンマン2本目にあたる埼玉・サンシティ越谷 大ホール2日目の公演へ足を運んだ。
SEかな?と思った音がそのままスッと1曲目へ展開する、とてもナチュラルなオープニングがいい。セットを置かない代わりに白い帯状の布を使い、カラフルな照明や映像が幻想的なムードを作り出す、シンプルだが実に効果的な演出。サポートキーボードのシモリョー(the chef cooks me)を加えた5人は見るからに自然体で、特にドラムス伊地知潔のどっしりとした安定感が頼もしかった。序盤は『ホームタウン』からの曲を立て続けに、ゆっくりとアクセルを踏んでゆくような加速感が心地良い。
“みんな今日は最後まで楽しんで帰ってね。誰の真似もしなくていい、自由に楽しんで”。「ホームタウン」「レインボーフラッグ」、Weezerのリヴァース・クオモと共作した「ダンシングガール」など、『ホームタウン』にはちょっとレトロで屈託なく明るいロックンロールが多く、当然、ライヴでのノリはいい。その中で異彩を放つのが「UCLA」で、ゴッチ(Vo&Gu / 後藤正文の愛称)とGu&Vo喜多建介の2本のギターが奏でるエフェクティブで幻想的なフレーズと、伊地知とシモリョーによる電子音やパーカッションの細密画のような響きで、次第にビートが高鳴りアップテンポのロックチューンへと成長していく、生き物のようにうねる音がとてもスリリングでドラマチック。こういう曲をさらりとライヴでやってのける、アジカンはそういうバンドになったのだと、インディーズ時代からの聴き手としてはちょっぴり感慨深かったりもする。
このツアーの中盤にはアコースティックセットが組まれている。何をやるかはこれからツアーに来るファンのために内緒にしておくが、ゴッチがハーモニカとアコースティックギターを、ベースの山ちゃん(Ba&Vo / 山田貴洋の愛称)が鍵盤ハーモニカやグロッケンで大活躍する、DIY感覚が何とも言えずハートウォーム。ゴッチの喋りもすっかり普段着で、『ホームタウン』におけるファンからの人気曲と自らの思い入れの違いにボヤいたり、アルバム『ファンクラブ』(2006年3月発表)制作時の自称“暗黒期”の自分をユーモラスに振り返ったりしている。こういう、ゆるくて温かいアジカンも悪くない。
後半は通常セットに戻り、いきなりのカバーソング。誰の何かは内緒だが、“持ち歌のようにはまっていた”とだけ言っておこう。お馴染みのヒットチューンも含めてぐいぐい盛り上がる中、ひと際大歓声を浴びたのが『ホームタウン』初回生産限定盤付属のCD『Can't Sleep EP』に入っていた「イエロー」だ。山ちゃんが鬼のダウンピッキングと初のリードヴォーカルで奮闘するロックンロールで、照明はもちろんイエロー。並み居るキラーチューンの中でしっかり存在感を発揮していたが、新たな定番曲になるかどうかは今後のライヴでのみんなの歓声次第。健闘を祈る。
“「昔のほうがいい」と言う人もいるけど、音楽は地層みたいなもの。昔のことは何も捨ててないから。昔の曲も演奏できるし、新しい曲もバンバン作ってる、今の俺たちが一番良いに決まってる”。そして、“みんなもそうだよ?”とゴッチが付け加えたのは、それが人生だろうというひとつの思想。言葉だけじゃなく、『ホームタウン』という動かぬ証拠があるのだから、言うまでもなくアジカンは今が一番良い。「ボーイズ&ガールズ」の、年輪を重ねたからこそのゆったりと力強いビート、丸みを帯びた温かいサウンド…そこにあるのは確かな希望だ。
アンコールは携帯電話での写真撮影がオーケーという、SNS時代においてごく自然な対応が嬉しい。日替わりメニューなので、何が飛び出すか分からないのも楽しい。今日は2003年のヒット曲「君という花」が聴けたが、その盛り上がりはノスタルジックでありつつ、あくまでも2019年を生きる今の音だった。続けて歌った最新曲「解放区」のポエトリーを組み込んだ緻密な構造のロックチューンと並べれば、ゴッチの言う“地層”の厚みが見えてくる。
“音楽が何のためにあるかなんて分からないけど、自分が作った曲がみんなに伝わって、共振してくる瞬間がある。それをできるだけ長く続けることで、日々のチクチクした何かを丸っこくしていく何かになれればいい”。ゴッチの最後の言葉がじんわりと心に刺さった。演奏を終えた5人が肩を組んで挨拶をしている。今が一番良いということは、この次の会場でのライヴが一番良いということだ。ツアーは7月25日(木)の神奈川・パシフィコ横浜まで続く。最高のアジカンをぜひ体感してほしい。