ギター・長岡亮介、ベース・KenKen、ドラム・中村達也という布陣のアヴちゃんの別バンド=獄門島一家とのスプリット・シングル(しかもパッケージが完全に格闘ゲーム仕様で、キャラ説明などを細部までアヴちゃんが書き下ろした、超細密なブックレットまで付いている)『金星/死亡遊戯』をリリース、5/15の名古屋E.L.L.から10本の全国ツアーを行っている女王蜂。獄門島一家の始まり、スプリットシングルのリリースに至る経緯をがっちり訊いた。なおツアー・ファイナルは、7/9(土)Zepp DiverCity Tokyo!
TEXT:兵庫慎司
PHOTO:横井明彦
──獄門島一家がどう始まったのか、改めて教えていただけますか。
はい。2013年の2月に、女王蜂を活動休止させてもらって。その時は、本当に音楽をやめようと思っていて。やっていいとも思ってなかったし。でも、事務所から「もう一回、何かやってみない? もったいないから」という話をいただいて。「ものめずらしいから契約したわけじゃない」って言われて。それまでほんとに、めずらしいから契約してくれただけだろう、ぐらいに思ってたんですけど、そうじゃなかったんだな、って(笑)。ありがたいですよね。
でも、そこでどういうことをやるか、どういうメンツでやるかっていうのは、女王蜂と一緒で、すべて私にまかせてくれたので。そこで、女王蜂という、自分のファースト・バンド──妹とも組んでるし、親友もいるし、っていうバンドがダメになっちゃった私が、人と音楽なんてできるのかな?と思ったんですけど。
まず、妹のドラムがすさまじいので、それにタイを張ってくれる人といったら、達也ちゃんかなあ、と。以前対バンしたことがあったので。で、「バンドやらない?」って電話かけたら、「やるやる」って言ってくれて。で、長岡キュンは、女王蜂のラスト・ライブをサポートしてくれてて、私がどんな気持ちでやってたか、全部わかってくれてて。で、違うところでも一緒にやってみたいな、女王蜂の曲を弾いてない時の彼も知ってたいな、と思っていたので、声をかけたら快諾してくれて。で、達也ちゃんがKenKenちゃんを紹介してくれて、組みました。うれしかったですね。「あたしって、女王蜂やからバンドできてた人やなかったんや?親友や妹がいるからできてた人じゃなかったんや?」みたいな。あたしに音楽が流れていて、それを聴いてくれてる人がいて、ライブをまた観たいって思ってくれる人がいるからできてたんだな、っていうシンプルなことに気づけて。もっと言えば、このメンツが快諾してくれるだけの私でいれたんやな、って。
──「もう一回、何かやってみない?」って言ってくれたのは事務所ですよね?
はい。
──「この人たちとバンドをやることにしました」って報告した時、どういうリアクションでした?
「やろうぜ!」ってなりました。
──「うわ、こんなすげえメンツ集めてきちゃったの?」って驚かれませんでした?
まったくなかったです。みんな麻痺してたんやと思う、ずっと私と一緒にいた人たちだから(笑)。
──それで、シングル『金星/死亡遊戯』ですけども……女王蜂は作曲クレジットがアヴちゃんですけど、獄門島一家はバンド名ですよね。曲の作り方って違うんですか?
……けっこう一緒かも(笑)。でも、一緒やけど獄門島一家は、リフをトランペットをププーッて吹いたら、バーッと広げてくれるので。その広げ方は、女王蜂だと一個一個確認をとるけど、獄門島一家は野放しにしておける、っていう点で、みんなで作曲っていう気持ちになりますね。KenKenちゃんが幼少期から集めてたリフを持ってきてくれたりとか、長岡キュンがパッと作ってくれたり、っていう感じなので。でも、ボーカルがあたしやし……あの、あたしが入ることによって、なんか不穏になるんですよ、どんな音楽でも。
──はい(笑)。自覚されてるんですね。
獄門島一家で「スイカの名産地」とか「スシ食いねェ!」とかのカバーをやってるじゃないですか? ああいう曲でも、あたしが入ると、任侠ものみたいというか、笑い、かつ怪しさが入るんですよ。血の匂いがするというか。だから、そのエッセンスはあたしで、あとはメンバー、みたいなところはありますね。各々の色気もあるし。
──最初に一緒に音を出してみた時は、いかがでした?
爆笑、っていう感じでしたね。とりあえず、ライブ中にいつもやってることがあって。私たち、対面でライブをするんですけど、メンバー同士で向かい合って。だからお客さんからしたら、表情とかたまにしかわかんない、みたいなところもあると思うんですけど、私と達也ちゃんは基本的にウィンクをし合ってるんですよ。「イケたね、今!」「やったね!」って、ずっとやってて。
女王蜂と違って、獄門島一家では歌詞を用意して行かなくて、全部即興でやっていいので。スタジオで恋バナをチラッとして、それを拾ってそのまま歌詞に出したりとか、休憩時間に中華を食べに行って、そこで話したことがそのまま歌詞になるとか。すごい出たとこ勝負で、それがおもしろいです。
── 一緒に音を出していると、やっぱり、ひとりひとりのプレイヤーとしてのすごさを感じたりします?
なんか、でも……本当にすごい人って、すごいって思わせないんですよ。メンバーとよく話すけど、本当にかっこいいものって、ちょっとダサいんですよ。かっこいいだけじゃダサいし、ダサいだけじゃ締まらないんですよね。かっこよくてちょっとダサいから、泣けるっていうのも誘発するし、按配がよくなるんですよ。
ストロングで強いだけだと、色気が出ないんですよね、「ちょっとダサい」がないと。「スイカの名産地」とか「スシ食いねェ!」とかやってヴォーッてなるのも、かっこいい、かつダサいからだと思うんですよ。ちょっと笑えないとイヤだから。で、「笑い」イコール「泣ける」も入ってるから。
メンバーほんとに、変幻自在な人たちだから……さっきまで死にたがってる女だったのが、今はこんなにすごい楽しそうにしてるとか、そういうのを全部表現してくださる。振り回されてくれるっていうか、かつあたしを振り回してもくれるから。
すごいプレイヤーだとは思ってますけど、なんて言うのかしら、彼らは、すごくないこともできるから、私と一緒にいてくれてる時は。ちょっとプッと笑っちゃうようなプレイもするし、その次の瞬間に誰もできないようなプレイもするし。だから、すごいっていうよりも、ヤバいとか替えが効かない人、っていうのかしら。
すばらしいプレーヤー、世の中にいっぱいいるけど、私が「わ、素敵!」ってグッとくる人は、やっぱりダサいこととかかっこ悪いこともできる人かな。ライブも、全然リハに入んなくてもできちゃうし。それで作りこまれたものができちゃう。
──女王蜂は2015年の12月から3月にかけて6本の対バン企画をやりましたけど、その最後の対バン相手を、獄門島一家にした経緯を教えてください。
去年の秋に獄門島一家のワンマンが、横浜のBAY HALLであって。その時に、女王蜂の対バン企画のうち、ラストのEX THEATERだけ、相手がまだ決まってなくて。「誰にしたらおもしろいやろう?」ってすごい考えてたんですけど……おもしろいことが大前提っていうか、毎回違うライブをしないといけないから。これだけ強豪が揃ったラスト、どうしようかな……と思ってて。
それで、リハが終わった時に、「……自分と対バンしたらおもしろい」と思って。メンバーひとりひとりに「ごめん、スケジュール見てもらっていい?あたし、自分と対バンしたいねんけど。絶対おもしろくなると思うし、がんばるから」って言ったら、快諾してくれて。その日のライブがよかったから、っていうのもあったと思うんですけど。
──で、実際にEX THEATERでやってみて、いかがでした?
よかった!なんか、ワンマン級のことを2回できた、というのが、すごい励みになりました。「あたし、なんでもできるんやな」と思いました。どうでした?
──毎回こんなに豪華な対バン相手を呼んどいて、自分と対バンした回がいちばんいいってなんだよ!と思いました(笑)。それで、女王蜂と獄門島一家のスプリット・シングルを作ろうと思ったのは──。
女王蜂でシングルを出そうっていう話になったんですけど、せっかくだからおもしろいことをやりたいから、どうしようかな、っていう時に、「あ、3月に対バンが決まってるぞ」って。かつ、このシングルのパッケージも……格ゲー、あたしめちゃ好きやねんけど、こんだけイケメンイケジョが集まってるってことは、画にしたらヤバいんじゃないか?とか、めっちゃ膨らんじゃって。で、お願いしたら、うまいこと進んで。すべてがうまく転んだんですけど、ずっと前から考えてたわけじゃないです。ほんと今年になってからで、出たとこ勝負だったんですよね。
このジャケットを描いてくださった西村キヌさん、あたしは幼少期から、この人の描く絵柄になりたくて生きてきたところがあるんですよ。あたしの将来の夢のひとつが、格ゲーのキャラになることなんですね。そのためにこのリーチを持って生まれたと思うんですけど。もう大好きすぎて。カプコンのイラスト室という所に以前在籍されていた西村さんも手伝っている『ヴァンパイアセイヴァー』というゲームが、私の人生の元なんです。
で、去年の3月ぐらいにアプローチはさせてもらって。「いつぞや女王蜂のジャケ写を描いていただきたいんです」っていうお願いをしたんですけど、「タイミングが合えばいつでも描きたいです」っていうお返事で。「ああ、どうしよう。両思いになれるかも」なんて思ってて。で、今回のシングルの話が決まった時に……格ゲーのキャラって、人数が多い方が迫力があるんですよ。「これで描いてもらえたら最高なんじゃないか」と思って。
で、描いていただいたら、すごいのができて!もうお棺に入れてください、っていう感じです。ほんと、みんなスタイルいいから……獄門島一家も女王蜂も、メンバー全員、格ゲーのキャラ並みにスタイルよくてよかったなあと思って。女王蜂、これからはナイスバディバンドと謳おうかなと思ってて(笑)。
──今、このシングルのリリース・ツアーの最中ですよね。『金星から来たヤツら』ってタイトルで、デヴィッド・ボウイの『地球に落ちてきた男』をモチーフにされていて──。
はい。シングルの曲が『金星』だからそうしたんですけど、ボウイがお星様になってしまって。そう決めた時とは違う意味が出てしまったんですけども、ファイナルまで走りぬけようと思ってますね。