女王蜂 結成15周年記念単独公演 「正正正(15)」
2024年4月20日(土) 国立代々木競技場 第一体育館
・この日演奏され、歌われたのは全部で21曲、しかし尺は1時間半弱。つまり、ここ最近の女王蜂の常道のステージ。曲が終わるとすぐ次の曲が始まるか、曲と曲とがシームレスにつながるかで、「なんとなく空く曲間」というものが存在しないし、曲間にMCが入ることもない。
曲と曲の間に、あえて空白の時間を設け、じっと止まったアヴちゃんに、オーディエンスの視線を集中させてから次のアクションに入る、という演出は数度あったが、どの時も、場内の静まりかえりっぷり、すごいものがあった。
1万人以上いるにもかかわらず、歓声を飛ばしたり叫んだりする人が、ひとりもいない。全員が黙ってアヴちゃんに視線を注ぐその時間は、異様な緊迫感に満ちていた。
・オープニングは、おごそかな鐘の音からパイプオルガンへ続き、オーケストラになり、最後に鐘の音に戻るSEが終わると、ステージをすっぽり覆っていた白幕がバッと落ち、1曲目「BL」のリフが響いて満員のオーディエンスが歓声を上げ、白いドレスに身を包んだアヴちゃんも「アオーウ!」と絶叫──という展開。
アヴちゃんの右手には黒いブーケ。なお、5人の後方は高い竹林になっている、というステージセット。
・アヴちゃんが「初披露!」と言ってから歌い始めた2曲目は、2023年夏にヒプノシスマイクEP『The Block Party -HOMIEs-』へアヴちゃんが楽曲提供した「おままごと」だった。ということにも表れているように、15周年だから歴代の代表曲をベストアルバム的に並べるのではなく、15年活動してきた女王蜂が今だから表現したいことにフォーカスを合わせた、という選曲だったように思えた。
・ライヴの中盤でアヴちゃんがいったんステージから去り、メンバーだけで演奏し、その曲の後半で衣装替えを終えたアヴちゃんが戻ってくる、というのは女王蜂のライヴではおなじみだが、この日のその時間=11曲目でアヴちゃんが去った曲は、なんと初期の代表曲で、現在も人気が高い「ヴィーナス」。メンバー全員でボーカルをとり、曲の最後にアヴちゃんが戻って来て、締める。
逆に、メンバー+サポートメンバーがはけてアヴちゃんひとりになって独唱する時間は、17曲目に設けられた。曲は「Introduction」だった。
・この日物販で売られていたジュリ扇は、オレンジ色。5曲目「バイオレンス」や9曲目「デスコ」や、12曲目「メフィスト」や19曲目「火炎」や20曲目「IMITATION」などで、オーディエンスのほぼ全員がオレンジ色のジュリ扇を振りまくる光景、かなり圧巻だった。
また、13曲目の「十二次元」の後半では、アヴちゃんのカウントに合わせて、ステージ後方の竹林が、1本ずつ倒れていく、という演出あり。しかし、曲の中では12で終わるはずのアヴちゃんのカウントは、この日は15まで続いた。そして、その声が止まると同時に、ひばりくんの弾くギター・イントロで「01」が始まった。
・「うわ、ここ、ピークだ」と観る者に思わせる瞬間が、何度も訪れるライヴだったが、個人的に、その中でも特に強くそう感じたのは、「黒幕」「つづら折り」に、アヴちゃんの独唱の「Introduction」が続いた時。
「Introduction」も、「黒幕」「つづら折り」と同じく、この日だからこそ、ここで歌われなければならなかった、アヴちゃんの、女王蜂の生き方を表す曲である。と、思う。
「つづら折り」が終わってからメンバーがはけ、アヴちゃんが「Introduction」を歌い始めるまでの間、30秒くらいあったんじゃないかと思うが、拍手はもちろん、誰もひとことも声を発さず、なんの物音もしなかった(前述の「沈黙の演出」の最たるものがこの時だ)。
アヴちゃんがアカペラで歌い始めても、その静寂は変わらない。そして、曲後半で、戻ってきたメンバーが演奏に加わった瞬間、まるで破裂したかのように、歓声と拍手が湧き上がった。
・ラスト=21曲目は、“結成15周年記念楽曲”である、この時点での最新曲「超メモリアル」。このライヴの8日前にリリースされたばかりの曲なのに(MVがアップされたのはこの前夜の21時)、客席のヒートっぷりは、この日最大レベルのピークを記録した。オレンジの高速の波のようだった、アリーナも1階スタンドも2階スタンドも。
演奏を終え、メンバーが去り、ひとり残ったアヴちゃんがステージ中央後方に立つと、その姿がじわじわと上へと上がって行く。リフトに乗っているのだ。
そして、リフトが上がりきったところでしばらく静止したアヴちゃんは、黒幕の間に姿を消す前、振り返って、オフマイクで言い残した。
「まだまだやるで」