女王蜂 全国ホールツアー2023-2024
「十二次元+01」追加公演
2024年3月1日(金) 東京国際フォーラム ホールA
昨年2月にリリースされたアルバム「十二次元」、新曲「01」(TVアニメ「アンデッドアンラック」オープニングテーマ)を携えた今回のツアー。その集大成となる本公演で女王蜂は、研ぎ澄まされた芸術性、そして、派手さと美しさと憂いを兼ね備えたエンターテインメント性を完璧に体現してみせた。
19時ちょうどに会場が暗転。暗闇の中で拍子木の“カーン”という音が響く。ステージの幕が上がると、そこには白装束に身を包んだメンバー(アヴちゃん(Vo)、やしちゃん(Ba)、ひばりくん(Gt)とサポートメンバーのながしまみのり(Key)、山口美代子(Dr)の姿が。背中を向けて立っていたアヴちゃんは曲がはじまると同時に正面を向き、狂おしいまでに美しい歌声を響かせる。1曲目は「FLAT」。楽曲の後半〈単館系ジェンダームービー/主人公は病むか死ぬか恋に敗れるか/ちょっと判んないね〉というフレーズをアカペラで歌い上げ、グッと心を掴まれる。白黒の鯨幕、枝垂柳をモチーフにしたオブジェを含め、ステージ全体に透き通った霊性が漂っている。
続いては代表曲の一つである「火炎」。曲が始まった瞬間に会場の高揚感が上がり、しなやかで強靭なバンドサウンドに乗せて観客は色とりどりのジュリ扇を振り、体を揺らす。赤と青を基調にしたライティングも鮮烈だ。さらに「ようこそ!」(アヴちゃん)という挨拶からダンサブルなグルーヴが渦巻く「HALF」へ。冒頭からライヴアンセムを連発し、瞬く間に会場全体を掌握してみせた。
女王蜂のライヴはMCがなく、楽曲をシームレスにつなげながら、華麗にして重厚な物語を紡いでいく。ここからはアルバム「十二次元」の楽曲を中心としたタームへ。まずは「犬姫」。イントロで現代舞踏的なパフォーマンスを繰り広げ、〈身を捨てるなら/浮かぶ瀬の先/焼け野が原に降り立つ〉という文学的なフレーズを描き出す。「KING BITCH」ではトラップとロックを融合させたサウンドとともに鋭利なラップで観客の心を突き刺す。
ライヴ前半の個人的なハイライトは、「回春」「売春」だった。
「回春」でのもう会えない二人の切ない関係を歌の声色を使いわけながら表現するアヴちゃんのヴォーカル助言はまさに圧巻だ。楽曲が終わった瞬間、アヴちゃんの周りに舞い落ちる花びらも美しい。そして煌びやかなギターとシンセの音色、アヴちゃんのタイトルコールから始まった「売春」は、「回春」の前日譚と呼ぶべき楽曲。二人の物語を──時間を巻き戻しながら──重ねることで、痛みにも似た切なさがじんわりと伝わってきた。
静寂を打ち壊すように重厚なサウンドが鳴り響き、孤独を持ち寄る“わたしたち”の姿を綴った「堕天」へ。歌い終わった瞬間、ステージの上で崩れ落ちるアヴちゃん。二つのミラーボールの光が会場を照らすなか、静かに立ち上がったアヴちゃんは〈降る灰を見つめて/雪みたいって思った〉という言葉を響かせる。ポエトリーリーディングによる「長台詞」。指端にまで意識が行き届いた身体の動きとともに生々しい詩がその場で紡ぎ出される。この曲に象徴されるシアトリカルな演出もまた、女王蜂のライヴの大きな魅力だ。
ここでアヴちゃんがステージ袖に引っ込み、バンドメンバーは「ハイになんてなりたくない」を演奏。ブルーのスパンコールのミニワンピ、ゴージャズな着物のようにも見えるガウンを羽織ったアヴちゃんがステージに戻ると、「02」からライヴの後半をスタートさせた。間奏では祭囃子的な音が加わり、「お嬢さんお入なさい」と歌う場面ではマイクのコードを大繩のように回してみせる。ひときわ強い目線を客席に放ち、「まかしとき」(アヴちゃん)という煽りから始まったのは「MYSTERIOUS」。3拍子のジャジーなアレンジとともにしなやかなメロディを描き出すアヴちゃんは豊かな官能性をまといはじめる。
ここでバンドメンバーがはけ、アヴちゃんは「虻と蜂」を歌唱。生と性、本物と偽物の間で揺れる心情を抒情的なヴォーカルによって映し出してみせる。黒スーツに着替えたメンバーが戻り、ここからはアルバム「十二次元」に収められた楽曲を披露。ガウンを脱ぎ棄てたアヴちゃんが鋭利なヴォーカルを突き刺し、エッジーなギターフレーズが広がった「夜啼鶯」、そして、強靭なバンドアンサンブルに圧倒された「杜若」。このツアーのなかで女王蜂のサウンドはさらなる向上を果たした。そのことを強く実感させられる場面が続く。
〈幕が上がるから なにもかも忘れたふりが出来るの〉というラインに心を揺さぶられる「黒幕」からライヴはクライマックスへ。流麗なストリングスに導かれた「メフィスト」のラストではマイクを自らの身に突き刺すようなパフォーマンスを見せる。そして、「調子はどう?」という呼びかけから女王蜂のアンセムの一つである「BL」へ。獰猛なシャウトと鋭いファルセットを自在に使い分けるヴォーカル、ヒップホップを咀嚼したサウンドが響き合い、観客のジュリ扇はさらに激しく動きまくる。
「ごきげんよう、女王蜂です!」という挨拶からはじまったのは、アルバム「十二次元」の1曲目に収録された「油」。和の要素を取り入れたグルーヴが渦巻くなか、〈返せ 返せ 借りたら返せ〉のシンガロングが発生。ステージと客席の精神的な距離がグッと近づいていく。
曲が終わり、不敵な表情でステージに立つアヴちゃんに対して凄まじい歓声が送られる。アカペラによる〈切り裂き引き千切り/まるで手術のよう 料理のように早く〉から始まったのは、「バイオレンス」。狂騒のダンスサウンドが高らかに鳴り響き、会場のテンションはついにピークを迎えた。
「ありがとうございます。最後の曲です。心を込めて」とアナウンスされたラストナンバーは新曲「01」。削ぎ落されたシンプルな音像、直球のボーカリゼーションとともに〈割り切れないこの理由を抱きしめて歌う 今日も〉というフレーズを手渡し、すべての曲を演奏し終えた。
アヴちゃんが先に姿を消し、メンバーひとりひとりがステージの真ん中へ。丁寧に一礼し、大きな拍手が送られた。そこに再び、アヴちゃんが登場。アルバム「十二次元」のアーティスト写真の衣装に身を包み、舞台の上に座り込む。しばらく一人で笑い声を上げた後、おもむろに立ち上がり、ひと言「ありがとうございました」。そしてステージ後方の幕が振り落とされ、会場の機構が丸見えになった会場を後にするアヴちゃん。いきなり現実に引き戻され、呆気にとられながらも深く感動してしまった。
洗練と野卑を同時に感じさせるバンドサウンド、ハイブリッドなどという言葉が陳腐に感じられるほどのキメラ感に満ちた音楽性、そして、さらに強い求心力とカリスマ性を帯びたアヴちゃんの存在感。生まれながらのドグマを手放すことなく、刺激的な進化と変化を続ける女王蜂の次の舞台は、2024年4月20日(土)、東京・国立代々木競技場第一体育館で開催される女王蜂 結成15周年記念単独公演 「正正正(15)」。ぜひ、その目で確かめてほしいと思う。