Chageの音楽に向かう姿勢には“自然体”という表現がふさわしいだろう。余分な力が入っておらず、過剰なところが一切ないからだ。ライフワークとも言える少人数編成によるアコースティックライブツアー「Chageのずっと細道」は、そうした自然体の活動を象徴するものだろう。7月31日発表の最新シングル「飾りのない歌」は、親交のある直木賞作家の万城目 学氏が作詞した作品で、Chageの45年の音楽活動ともリンクする作品だ。8月28日には同名のアルバム『飾りのない歌』も発表される。このアルバムにはツアーメンバーが全面的に参加していて、9月1日からスタートするツアー、「ChageLiveTour2024 ~ちゃげっていうひと~」を予告する作品にもなっている。近況、新曲、ニューアルバム、ツアーなどについて、Chageに話を聞いた。
──現在は3人編成のツアー、「Chageのずっと細道2024」で全国各地を回っている最中なんですよね。
「ずっと細道2024」はもはやツアーと呼ばずに「旅」と呼んでいますね。それは、ふらっと気ままに旅をする感覚でやっているから。県庁所在地以外のいろいろな街にも行ってますし、フットワークも軽いんですよ。お客さんが近くて、マイクなしでも届くような会場でやっているので、アットホームな雰囲気があって、いつの間にか始まって、いつの間にか終わってるみたいなリラックスした状態でやれています。終わったら、じゃあ、「次の街に行きます」って(笑)。
──そうやって身軽かつ自在にライブを行えるのは、これまで積み重ねてきた経験があるからではないですか?
この年齢になって、やっと地に足のついた活動をやれるようになってきましたね。以前はツアーにでても、自分の記憶の中にある風景は空港・駅・ホテル・会場くらいだったんですよ。せっかく全国を回らせてもらっているのだから、もっと地域に根付いたライブ活動ができないだろうかと考えたことが、「ずっと細道」の発端です。Chageのずっと細道のYoutube動画企画も並行して行なっていて、地元に住んでいるファンの方から、「ここの 景色を見てください」「この人に会ってください」「この味を食べてください」といった情報をいただき、実際に体験したことも発信しています。その街に自分の音楽を届けて、なおかつ、その街にお礼を言う、みたいな感覚ですよね。
──「ずっと細道」をやることで、ライブに対する意識の変化はありましたか?
引退を意識しなくなりましたね。「ずっと細道」のような活動だったら、長くずっとやっていけるんじゃないかなって思っています。
──ライブでの表現の幅がさらに広がっているんですね。
そうなんですよ。バンドの1/6(ワンスラーシックス。バンド名はChage誕生日の1月6日にちなんで付けられた)でのロックツアーを毎年やれているうれしさもありますし。
──その1/6でのバンドツアーが9月1日から始まりますが、ツアーの直前の8月28日にニューアルバム『飾りのない歌』が発表されます。これはツアーにつながる作品でしょうか?
確実につながっていますね。新曲3曲とセルフカバー7曲が収録されているのですが、セルフカバーは、ファンの方々からリクエストを募って、ツアーバンドの1/6で一発録音したものなんですよ。僕自身、今回のレコーディングで、このバンドの素晴らしさを改めて感じました。一発でこれだけのクオリティの高い表現をできるところが素晴らしいです。しかも愛があふれる音を奏でていて。譜面以上の演奏をするおもしろさもあるので、ツアーが楽しみです。
──アルバムタイトル曲の「飾りのない歌」はシングルとして先行で発表された曲です。作詞を「八月の御所グラウンド」で直木賞を受賞した小説家の万城目 学さんが担当しています。このコラボレーションのきっかけは?
万城目くんとは、10年くらい前からのつきあいがあるんですよ。万城目くんがエッセイで、CHAGE and ASKAが大好きだってことを書かれていて、僕も万城目くんの小説が大好きだったので、ラジオのゲストに来てもらって、それからの付き合いですね。
──万城目さんが作詞を担当した経緯はどのようなものですか?
一緒に飲みにいった時に、「万城目くんの小説には変拍子が入っていて、音楽が聴こえてくる。歌詞を書いてみないか?」って、機会のあるごとに話していたんですよ。昨年12月に会った時にもその話になり、「音源があるんだよ」「じゃあ作ってみます」というやり取りがありました。それでギター1本で“ラララ”で歌っている音源を渡したんですが、年が明けたら、万城目くんが直木賞を受賞したので、忙しいだろうな、無理かなと思っていたんですね。そしたら、ある日、「『飾りのない歌』書きました」というメールが来たという。
──万城目さんから来た歌詞を見て、どう感じましたか?
作詞は万城目くんにとって初めての作業なので、難しかったと思うんですが、素晴らしい出来でした。小説は何百ページもありますが、歌詞の場合はA4の紙1枚の世界じゃないですか。少ない言葉数の中でしっかり緻密に計算し、行間を見事に活かして、伝えたい芯が見事にメロディに乗っている。メロディとの関係で、微調整したところもありますが、第一稿の時点でほぼOKでした。
──作詞家ではなくて、小説家の書く作詞、というところで何か感じることはありましたか?
句読点が入ってくるところが新鮮でした。あとはやはり言葉の使い方ですよね。最初のところの<筋道すらない 旅を始めたのは>というところの<筋道>という言葉は、普通ならば出てこないですよね。言葉の使い方が独特で、シビレました。
──音源を渡した時には、何か要望したことはあったのですか?
「あなたの感じたことをそのまま言葉に乗せてください」と言ったくらいですね。忙しいなかだったと思うんですが、万城目くんも「音符に言葉を乗せる作業が楽しいです」と言ってくれました。
──「飾りのない歌」の歌詞から、Chageさんの音楽活動45年の流れ、みたいなものも感じました。
ずっと僕のことを見てくれているから、そういう軌跡みたいなものも入っていますね。ただし、万城目くんも言ってましたが、この歌は完結していないんですよ。ジ・エンドではなくて、ここからまた始まっていくところがいい。この歌詞に背中を押されるようなところもありました。ボーカル録りでも気持ち良く歌えましたし、ほぼワンテイクでした。アレンジに関しては、歌詞が完成したあとから、十川ともじに頼んだので、旅の始まりみたいなSEが入ったり、指を鳴らす音が入ったりしている。「音作りもイメージしやすかった」と、ともじくんが言ってました。
──「飾りのない歌」って、現在のChageさんの音楽のスタンスにも通じる言葉だなと感じました。
実はこの曲を「ずっと細道」の北海道と青森で先行して演奏したんですよ。「飾りのない歌」の演奏が始まった瞬間に、お客さんの空気が変わって、確かな手ごたえを感じました。僕自身、ずっと歌い続けていける曲になったんじゃないかなと思っています。この曲名、他の9曲にも通じるところがあるな、“飾らない”ことが伝わる音源が並んでいるな、アルバムタイトルにもぴったりだなと思って、『飾りのない歌』にしました。だから、万城目くんにはアルバムタイトルまで、作ってもらったことになりますね(笑)。