昨年9月より結成30周年イヤーに突入したcali≠gari。以降はプロレス団体とのコラボ・イベントをはじめとする毎月30日の定例ライヴ、そして真冬に開催された日比谷野外大音楽堂公演など、趣向を凝らした企画で走り続けてきた三人が、ニュウアルバム『17』を完成させた。リリースの直前からはツアーもスタート。ツアーファイナルのLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)公演まで、まだまだ止まることを知らない彼らが、アルバムの全曲とツアーについて語る。
──30周年イヤーにリリースされる『17』ですが、何かテーマはありましたか?
桜井青(Gt)石井さんが「生っぽいのにしようぜ」って。
──打ち込みを少なめにとか?
石井秀仁(Vo)それはバンドのテーマというよりは、自分の曲に関してってことですかね。バンドとしてはもともと生っぽいものは多かったけど、俺は不必要にシーケンスを組んでいるような曲が多かったんで。それを前作ぐらいからやめようと思ったってところですかね。
──青さんはいかがでした?
桜井僕は『17』という数字からイメージできそうなもの。
──「ナイナイ!セブンティーン!」とかはもうストレートですよね(笑)。各曲については後ほど細かく伺いますが、私がアルバム全体を聴いて思ったのは、皆さんが10代の頃に聴いていた音楽……現在の皆さんの音楽性の根幹になっているであろう部分がいつも以上に濃く出ている作品かな、ということで。紙資料には“昭和”というキーワードもありますが、邦楽も洋楽も含めて主に80年代ですかね。
桜井「ああ、このあいだ秋田さん(デザイナーの秋田和徳)とアルバムのコピーを考えてたとき、「昭和のアップデートだね」みたいな話は出ていましたね。でもcali≠gariって毎回似たようなことずーっと言ってんな、って感じしません?
──そうですね(笑)。
桜井逆に言うとブレないですよね。
──まあ、根幹は動かしようがないですからね。新たにインプットされたものと反応して、さまざまな方向に派生していくことはあると思いますけど。
桜井ネタを借りたり、パロったり、オマージュだったり、いろいろですよ。
──平成元年が西暦で言うと1989年なので、80年代が昭和の最後の10年なんですね。その頃って、皆さんがいちばん音楽を吸収していた時期じゃないです?
桜井まあ、そうですよね。石井さんと研次郎君はまた違うんだろうけど、僕は今回、その当時に自分が聴いてたようなものを作ったってのはありますよ。“ナイナイ”なんかはイカ天。というか、あの頃のアイドル・バンドみたいな感じ。「サタデーナイトスペシャル」は思いっきりトランス・レコード。「バカ!バカ!バカ!バカ!」なんて思いっきり当時のハナタラシだったりばちかぶりだったり(笑)。
石井なるほどね。
桜井そのころっていろんな音楽を新鮮な感覚で聴いたわけじゃないですか。初めての音を聴いて「こんな音楽もあるんだ!」って感動したときの気持ちって、すごく残ってるんですよ。そういう思い出を大事にしながら自分も音楽を作っていくっていう。
──研次郎さんと石井さんは『17』に対して何か考えていたことはありましたか?
村井研次郎(Ba)俺はいつも後出しジャンケンで、二人の曲がぼちぼち出揃ったなってころに曲調がかぶらなそうな曲を投げる感じなんで、アルバムの方向性に合わせて曲を作るとかではなくて。ただ、二人の曲には余分な音が入ってなかったから、今回のアルバムはさっき秀仁君が言ったようにシンプルなバンド・サウンドなんだろうなっていうのは感じてました。
──石井さんはいかがですか?
石井前のアルバムもそうだけど、自分が作るものに関しては難しくない曲がいいなと思ってて。“ジャーン!”ってやれるみたいなね(笑)、CDで聴いたときとライヴで聴いたときの印象がさほど変わらないみたいな、そういうものがいまのcali≠gariには合ってるのかもしれないなと思い出して。
桜井そういうのってやっぱりさ、古い曲ってイメージなんですよ。さまざまな音や技術で構築されるいまのサウンドと違って、“ジャーン!”って一発で出せる80sの曲っていっぱいあるじゃないですか。出音を一発聴いただけでわかっちゃうような。ああいうのってやっぱりカッコいいですよね。
石井そうね。最近は小賢しい曲が耳に入ってきすぎたから、自分が作るのはそうじゃないものをって思ったのかもしれないですね。
01. サタデーナイトスペシャル
──「サタデーナイトスペシャル」は安価な小型拳銃の俗称ですよね?
桜井そうですね。
──のっけからカオティックに暴れまくるオープニングで。
桜井うん、ガチャガチャしてて、暴力的で、もう「粗悪品」っていう言葉のイメージだけで組み立てたような曲なので。歌詞も“クソバカゴミゲロ”じゃないけどそこはかとなく死の香りがするような(笑)、投げやりな感じ。まあ、「サタデーナイトスペシャル」というものから連想できますよね。「土曜の夜は大忙しよ」っていう。使い捨て拳銃で、人の命がゴミのように消えていった時代を研究している人たちの本を読んでたら、銃社会って怖いなって。
──最初から1曲目として考えてたんですか?
桜井1曲目にしか置けないでしょう(笑)。こういうトンチキな曲がアタマにあってこそのcali≠gariかなっていう。林(正樹)さんのピアノが入って、yukarieさんに「心置きなくジョン・ゾーンでお願いします」って言ったら、なんとなくDNA風になりましたね(笑)。
02. 龍動輪舞曲
──「龍動輪舞曲(ロンドンロンド)」は近年の石井さん曲のなかでもとりわけポップです。
石井「リード曲を出してくれ」って言われて、最初から“ポップにする”って頭で作ったので、こうなりましたね。結果的にリード曲にはならなかったから、突然ポップな曲が入ったみたいになったけど。
桜井すいません(笑)。この曲は、リード曲の選曲会議のとき「すげえポップなの出してきたな」って思いましたよね。Aメロの「グッバーイさ~よな~ら~♪」のとこしかこなかったんで(笑)、ここからどうなるんだろう?と。
──昂揚感のある開けたサウンドですけど、歌詞はなかなかに尖っていませんか?
石井そうですか? “目を覚ませ”ってことを言っているだけですよ。
桜井僕は歌い出しの「グッバイさよなら」の時点で衝撃を覚えてますからね(笑)。
──“目を覚ませ”と思ったきっかけは何かあったんですか?
石井まあ、自分にもだけどね。歌詞の表記は「恋はもう終わりだ!」になっていますけど、自分の場合だと“故意”ですね。全部が全部、そんなこと言っているわけじゃないですけど。
桜井なんか、この曲はストレートに……それこそさ、高校のころの自分がレコード屋さんに行って、「え、これ何?」って何気なく手に取った8センチCDを聴いてみたら「めちゃめちゃいいじゃん!」ってなる……そういうシチュエーションにありそうな曲。その“ジャーン!”って感じが(笑)。
──間奏のギター・ソロも懐かしいなって思いました。
桜井あれは石井さんが弾いてたギター・ソロの完コピです。
石井俺は俺で青さんが弾きそうなギター・ソロを作ったんだけど(笑)。
──この曲は音も構成も80年代を思い出すんですよね。
石井ああ、バンド・ブームみたいなね。そういうことですよね。
桜井あと、この曲はタイトル通りちゃんと輪舞曲の構成をしてるんですよ。
石井まあ、輪舞曲を入れたのは“龍動”が先にあったからだけど、“龍動”には特に意味がないんです。前作のときに兎年だからって“脱兎さん”を作って、今年は辰年だから「龍」って漢字を入れたかったってだけなんだけど、そういう考え方もcali≠gariっぽいのかなと思って。そんなふうに曲作んないでしょ? 普通は(笑)。