カリ≠ガリ新宿ロフト5番勝負 オマエのカリ≠ガリ
2025年9月11日(木)新宿 LOFT
開演直前の強烈なスコールを物ともせず、新宿LOFTは満員御礼。期待に浮き立つ気配が暗転した空間に充満している。一人、また一人とステージ上に登場したメンバーに向けた大きな拍手をアンビエントなシンセがかき消したところで、この日のライヴがスタート。オープニングは作曲が村井、編曲がエンジニアの白石元久という変則コンビによる名品“暗い空、雨音”だ。エレクトロニクスを伴った陰影あるギター・サウンドが、場内を一気に切ないエモーションで満たしていく。
そこから、サポートのササブチヒロシが走らせるパワフルなドラムと桜井の「ロフト行くぞ!」という雄叫びで雪崩れ込んだのは“颯爽たる未来圏”。哀愁ある疾走感に猛烈な感傷を引き摺り出されていると、沈み込むようなベース・ソロが高まった会場のテンションをクールダウンさせ……村井が人差し指を立てた瞬間にスイッチしたのは“ハラショー!めくるめく倒錯”だ。グルーヴィーに刻まれるリフに対し、フロアはキメのクラップでしっかりと応える。滑らかなスピード感のなかに儚いセンチメンタリズムを浮かべる滑り出しの3曲は、あからさまにいつものライヴの〈掴み〉とは異なるもの。cali≠gariは多面性のあるバンドだが、この幕開けからセットリストを考えたファンの好みがなんとなく窺えるような……。
村井研次郎(Ba)
そんな想像を裏付けるかの如く、続いては今年1月に発表されたセルフ・カヴァー集『30』から“愛の渇き”。涼やかに響くシンセと石井のまろやかな歌唱がどこかスウィートな空気感を立ち上げると、徐々に蝉の鳴き声がフェイドイン。軽快なギター・カッティングに乗せてメロディアスな桜井節が炸裂する“夏の日”だ。
桜井青(Gt)
そこからビブラフォンの音色を効かせた“わずらい”をムーディーに聴かせたかと思えば、モールス信号のようなSEの底から硬いキックのダブ・テクノが浮上。スペーシーな浮遊感を湛えながらギター・ドラム・ベースが一体となって駆ける“嗚呼劇的”→ダウナーなストリングスのリフレインと濃淡のあるギター・サウンド、悲痛な石井のヴォーカルが美しき不穏を巻き起こす“空想カニバル”→淡く煌めくシンセとパワフルなバンド・アンサンブルが並走する“その行方 徒に想う…”──と、サウンド面はそれぞれながら、属性が近いナンバーたちをシームレスに連打。どの曲にも甘やかな痛みが共通していて、とめどなく押し寄せる切ない昂揚感にもう溺れそうになる。
石井秀仁(Vo)
エレクトロニクスの乱反射は、軽やかに跳ねるエレポップ“虜ローラー”で最高潮に。左右に手を振る観客たちと共に華やかなムードを醸造すると、「踊りなさいよ」という桜井の煽りを合図にジュリアナ東京を思い出させるレイヴィーなあの曲が鳴り響き、フロアからは「フォー‼︎」という何とも90年代な歓声が湧き起こる。DJ SHIRAISHIによるメガミックスが天井知らずのクライマックスを演出したところで、cali≠gariのライヴにおける定番中の定番曲“マッキーナ”へ突入。オーディエンスが慣れた手つきで振る色とりどりのジュリ扇で視界が埋め尽くされ、ステージ上はまったく見えなくなるがそれもまた良しである。
桜井青(Gt)
そんな狂乱のダンスタイムを不敵なシャッフル・チューン“乱調”へとスピーディーに接続すると、ゴリゴリのパフォーマンスで猛然と突き進むステージ上の4人。「ワンチャン/ネコチャン/オサルサンバ」というフレーズがこれほどカッコよく聴こえるとは……と妙な感動を覚えていると、ここで本編唯一のMCコーナーに。
村井研次郎(Ba)
「お足元の悪いなか……23区のあちこちが水に沈むなかよくいらっしゃいました……神に愛されているバンド、cali≠gariです。愛されすぎて困る(笑)!」(桜井)。
「俺ん家の玄関沈んじゃった。俺、cali≠gariに愛されてないじゃん!」(村井)。
ただ、玄関に敷いてあったダスキン(のマット?)がかなりの吸水力だったことを村井が報告すると、「ご家庭にダスキン?」……と、桜井は村井の金持ちキャラいじりで応酬。そして、話題は今回のセットリストへと移っていく。
「セットリストを作ってくださってありがとうございました。大変迷惑でした(笑)。作ったそばから新しい曲も忘れるけど、古い曲はもっと忘れる。短期記憶がダメですね。(そこまでの演奏で)大惨事がときどき起きてたでしょ?頭が真っ白になるの。お前たちが見えないもん。もう砂漠と私、みたいな感じ(笑)」──と、広い年代に渡る楽曲が組み込まれたセットリストに対して軽く抗議する桜井。
そして、「顔を覚えて帰りたいんで」という石井のリクエストでこの日のセットリストの考案者を捜索。フロアの前方にいることがわかると、「何だったらMCでもしますか?」とマイクを向ける。「どうしてこのセットリストになったんですか?」という質問に緊張して答えられない考案者。その状況に、フロアから「可哀想……」という助け舟(?)が出て、インタビューは終了。
「お前のために覚えてきてやったんだよこの曲を!」(桜井)
「次の曲、知ってるんだもんね?じゃあもったいぶらずにやろうよ」(村井)
……と、考案者に対してそれぞれが〈らしい〉言葉をかけると、「ロフト行くぞ!」という桜井のシャウトで本編は最終パートへ。ユニゾンをキメまくる楽器隊のソリッドなアンサンブルと麗しいアンビエンスが交錯する“ダ・ダン・ディ・ダン・ダン”、スピード感あふれるハード・ロック・チューン“裂け目の眼”、観客のクラップとシンガロングも交えた一体感がたまらないcali≠gari屈指のポップソング“龍動輪舞曲”、柔和に繰り返される「ラストダンス」というフレーズが染み入るような寂寥感を連れてくる“ラストダンス”と立て続け、最後は〈青の果て〉という言葉で桜井がバンド人生を振り返った“いつか花は咲くだろう”を会場全体で大合唱してフィナーレ。晴れやかな感傷を残してメンバーは退場した。
石井秀仁(Vo)
アンコールで再登場したメンバーたちは、本日のセットリストについての感想を改めて述べていく。
「今日のセットリスト、ライヴ向きではないです。CDの曲順です。わからないかもしれないけど、演奏する側には気持ちの持っていき方っていうのがあるんです。このセットリストは情緒が不安定になるの(笑)」(桜井)。
「それで、普段間違えないとこで間違えたりね。いや〜やられた」(ササブチ)。
「俺は最高のセトリだったけどね。次なんて“コバルト”だよ? 20年ぐらい前の赤坂BLITZで、青さんが〈“コバルト”の振り付けを覚えてもらいます〉ってやってたの。でも誰もやらなかったよね?」(村井)。
話題が唐突に桜井の心が折れたエピソードへ移行すると、桜井は「心の傷をこじ開けますね」と苦笑しながらもその振り付けを披露。そんな自虐トークを「33年目のcali≠gariもよろしくお願いいたします」という挨拶で締めくくると、本日の最終パートへ突入する。ダンサブルなEDMロックへと変貌した『3』ヴァージョンの“コバルト”、メロディアスなハードコア“マシンガンララバイ”、「セックスはお好きですか!?」という桜井の煽りに始まるバンドの代表曲“エロトピア”を数珠繋ぎでプレイし、グラマラスなグルーヴで場内を大きく揺らしまくったところで全公演が終了した。
……かと思いきや。
客電が上がり、オーディエンスが会場出口へと向かうなか、爆音で流れはじめるアンコールの声(録音)。慌てて戻ってくる人、出口から会場を覗き込む人、周りをキョロキョロと見渡す人……誰もが困惑の様子でステージを見守っていると、自作自演のアンコールに応えてメンバーがふたたび姿を現した。大歓声(本物)で迎えられた彼らがここで披露したのは、9月24日にリリースのニュウアルバム『18』からリード・ソングの“東京亞詩吐暴威”。影のあるギター・サウンドとささくれ立った石井のヴォーカルによって場内を80年代へタイムスリップさせると、今度こそ本当に全公演が終了した。
〈昭和100年のロック・アルバム〉と言えそうな『18』の発表後も活発な動きを継続していくcali≠gari。初日の新代田FEVERからファイナルのEX THEATER ROPPONGIまで全国18公演で巡る「TOUR 18」では、残念ながら『18』の収録から漏れてしまった村井曲(仮タイトルが“MaybeTomorrow”だったというミディアム)や、『18』の世界観で新たに制作した新曲が披露される可能性もあるそう。加えて今年初頭に送り出された『30』のナンバーも組み込む予定とのことなので、最新のcali≠gariと30年超のバンドの歴史を一度に味わうことのできるツアーになることは必至だ。〈予定〉がそのまま実現することを願って、楽しみに待ちたい。
SET LIST
01.暗い空、雨音
02.颯爽たる未来圏
03.ハラショー!めくるめく倒錯
04.愛の渇き
05.夏の日
06.わずらい
07.嗚呼劇的
08.空想カニバル
09.その行方 徒に想う…
10.虜ローラー
11.マッキーナ
12.乱調
13.ダ・ダン・ディ・ダン・ダン
14.裂け目の眼
15.龍動輪舞曲
16.ラストダンス
17.いつか花は咲くだろう
ENCORE
18.コバルト
19.マシンガンララバイ
20.エロトピア
W.ENCORE
21.東京亞詩吐暴威








