初めて5人編成で制作されたニューアルバム『TIME』について
──『TIME』はこれまでも大事にしてきた平熱感はそのままに、曲によっては熱量高い部分もあるし、『コンクリートルーム』の頃のポップさも戻ってきていて。ファーストの『QUIET FRIENDS』で土台をしっかり築いた上で、グッと間口を広げたアルバムという印象がありました。
奥中『QUIET FRIENDS』はまさに土台を作るというか、まず名刺代わりになる作品が欲しかったんですよね。なおかつ、全体をコンセプトとして体験してもらいたくて、2022年頭からの状況をいろいろプランニングしながら作ったアルバムだったんです。最初に世に出る一歩目をあやふやなものにはしたくなかったので、1曲目から10曲目までちゃんとルートを作って、同じ言葉をいろんな曲に散りばめたりとかして、派手ではないけどバランスが整ったアルバムができたと思っていて。だから比較的狭い世界で、縛りをたくさん課して作ったのがファーストだったんですけど、セカンドではその縛りをちょっとずつ取っていって、内向きを表現した『QUIET FRIENDS』に対して、少し世界を広げるというか、内から外に向けるっていうイメージで作りました。「コンセプトアルバム」っていうガチガチの作り方はせずに、一曲一曲のクオリティを担保しながら、それをパッケージすることで、結果的に同じムードのアルバムになったらいいなと思っていたんです。
──アルバムタイトルの『TIME』はいつ決めたのでしょうか?
奥中作っていくうちに徐々に曲の共通項が見えてきて、その共通のテーマが時間の不可逆性とか時間感覚みたいなことで。みんな上京して、生活も変わって、よく一緒に遊んでいた友達とも家族とも会う頻度が減ってしまったり、そういう人間関係の変化がたくさんあって。そういう時間を失ってしまったことを考えながら曲を作っていたら、曲調が似ているわけじゃないんですけど、歌詞とか表現してることにはすごく共通項があって、後天的にコンセプトが生まれた感じですね。10曲目の「宇宙飛行士の恋人」とかは特にテーマ性が表れてるなと思って、もともとSF作品が好きなので、そこはこれまでを引き継いでいるというか、普通に好みが出ているという感じです。
──「宇宙飛行士の恋人」は何かモチーフとなったSF作品があったりするんですか?
奥中今まで見てきた全ての作品がモチーフというか、特定の何かではないんですけど、ジェイムズ・P・ホーガンの「星を継ぐもの」が好きで、シリーズ4部作ぐらいあるんですけど、昨年それをすごく読んでいたので、そのムードはあると思うし、あと映画だと『インターステラー』、『惑星ソラリス』、『2001年宇宙の旅』とかも影響はあると思います。『星を継ぐもの』も何千万年みたいな時間の中の話で、地球外にいると時間がずれたりするじゃないですか。そういう部分で生じる切なさがあるというか、例えば『インターステラー』だったら、しばらく宇宙に行かないといけなくて、帰ってきたら時間の進み方が違うから、地球にいる恋人は老けてしまってる。そのずれで生じる心境の変化みたいな部分にすごく目を向けて書いた曲ですね。
──せっかくメンバー5人いるのでそれぞれのプレイや音作りについても聞かせてください。今回ギターもすごく耳に残るフレーズが多かったんですけど、比志島くんはギターに関してどんなところを大事にしましたか?
比志島もともと自分の中では曲を邪魔せずに、その世界感をより深めるためのギターを大事にしてるんですけど、メロディーの裏でアルペジオを弾くことが多くて、アンサンブルに馴染ませつつ、それで曲に彩りを与えることは意識しました。
──「琥珀」は比志島くんの作曲ですね。
比志島「琥珀」はリフにこだわって、このリフができたときに「この曲は絶対いい曲になるから、大事に作ろう」と思いました。曲自体は結構シンプルで、ギターも基本的にずっとコードストロークしてるだけみたいなところが多くて、フレーズ的にこだわりを詰め込んだわけではないですけど、むしろシンプルさを突き詰めることで、このアルバムの中でもキャッチーさと疾走感が際立つ曲にしたいと思いました。
奥中「琥珀」はリファレンスがあったよね。
比志島タイのDOOR PLANTっていうバンドと対バンする機会がありまして、ライブで「Kor hai ter」っていう曲を聴いたときに、疾走感のある爽やかでキャッチーな曲なんですけど、そこにエキゾチックでアンニュイなムードが含まれてて、すごく湿度を感じて、それに心が動かされる感じがして。そのエキゾチックな部分をより日本的に解釈したら、すごくキャッチーでいい曲ができるはずだなと思って、それでできたのが「琥珀」なんです。もともとの曲にも夏っぽい感じがあって、夏に関連する切なさ、センチメンタルな感じ、夏の終わりの海みたいな感じもすごく意識しました。
──石嶋くんのキーボードはどうですか?
石嶋常に意識していることは、Aメロでは平熱感を意識しつつ、サビでポップさを引っ張り上げるような音使いをすることですね。半年前にシングル三部作で出した「秘密」と「TAPIR」と「PaleTalk」は喪失感とか、そういう共通したテーマがあったので、それをキーボードで表したいなと思って、サビで同じようなフレーズをわざとつけてみたりとかして。例えば、「Pale Talk」のサビで〈このやさしい霧は ふたりのための秘密〉っていう歌詞が出てくるんですけど、そこに「秘密」と同じようなフレーズをあえて入れたりしてます。あと1曲目の「Turn Over」は最後に作ったんですけど、「時間」というテーマを締めくくるようなコンセプトで作ろうと思って、アルバムの最後の曲の「宇宙飛行士の恋人」のデモのボーカル音源をサンプリングで使ってて。最初は何言ってるか聴き取れないんですけど、アルバムを聴いて、もう1回頭から聴いたときに理解できる。宇宙からの手紙が届いた、みたいなイメージですね。
奥中「Turn Over」は「ひっくり返す」っていう意味で、ジャケが砂時計なんですけど、10曲目と1曲目が繋がっているんですよ。
──なるほど!面白い。赤塚くんのベースはどうでしょうか?
赤塚僕は作品全体としてはもう地味に弾くみたいなことを意識した気がします。本当に土台のイメージで弾きましたし、そこに誇りみたいなものはあって、それができてることに喜びがある感じがします。
──「琥珀」の話にも近いかもしれないけど、あえてシンプルにすることで、よりポップさを引き立てたり、他の楽器を引き立てたり?
赤塚そうですね。ベース歴がまだ浅いので、またここから変わっていくとは思うんですけど、ベースという楽器はアンサンブルを最後にまとめる役割があると僕は思ってて、自分の色で曲の色を壊さないというか、そういうイメージで弾きました。
──そこは奥中くんとも結構やり取りをしながら?
奥中一番一緒に楽器を触ってるかも。僕はその場の空気を支配するのがベースだと思っていて、舜が優しく弾けば優しく聴こえるし、逆にバキバキな音を出していれば、曲全体の雰囲気がそうなる。根幹でありながらも、一番味付けになるというか。舜はいい意味でまだ自分の色があんまりないので、曲ごとにそれぞれの自分で弾いてるような感覚というか……でも「斜陽」とかこだわりがあるんじゃない?
赤塚「斜陽」は個人的な心境とか思想にすごく近いものが表現されてる感じがして、思い入れがあります。「斜陽」は諦めの曲だと思ってて、悲しいことがあったときに、それを乗り越えるとかでもなく、ただ受け入れるみたいな、そういう心情を自分なりに読み取ったので、それに合うベースを弾いたつもりです。例えば、ガクってくるような外した音をサビで一音入れたりとか、音の長さも最初は4分で取ってるんですけど、ラスサビは倍の長さで取ることで、だんだん落ちていく感じを表現してみたりしました。
──まさに「斜陽」を音でも表してると。神谷くんのドラムはどうですか?
神谷赤塚くんはまだ自分の色がなくてフラット、みたいな話でしたけど、僕は何も縛りがないと、逆に色が出過ぎちゃうんですよ(笑)。手数王なんて言われたり、そんなことをやっちゃうような人間なので、それをいかに抑えるか、みたいな努力はめちゃめちゃしました。歌詞や歌を聴いてほしいから、それに伴ったドラムをつけたいっていう意識で全曲録ってたんですけど、その中でも自分の色が出てるのは「ハイウェイ」ですね。アルバムで僕が一番好きな曲なんですけど、この曲だけは……抑えてないです(笑)。ノリ感が大事な曲っていうか、ハイハットの刻みとかスネアのゴーストノートを入れて、踊れる曲に仕上がったかなとは思ってます。あと音的なこだわりでいうと、6曲目の「TAPIR」だけちょっと特殊なことをしてまして、ドラムセットを2回に分けて録ってるんです。要はキック、スネア、タムの太鼓類と、シンバル、ハイハットとかの金物を別で録って、太鼓類だけトリガーをかけて、エレクトロっぽい処理をして、逆にシンバルとか金物はそのままにすることで、特殊な感じに仕上げたというか、新しいものができたと思います。