2nd ALBUM「TIME」ONEMAN TOUR
2024年5月10日(金) Shibuya WWW
会場に入ると明滅するライトがソフトサイケなムードを演出し、「チェックチェック、まもなく、えんぷてい『TIME』ワンマンツアー、ツアーファイナル東京編が開演いたします。今しばらくお待ちください」というアナウンスが流れ、まるでシェルターの中にいるような、今から宇宙へと旅立つロケットに乗り込んだかのような、そんなSFチックな雰囲気が非常にえんぷていらしい。
開演時刻になるとアルバムの一曲目を飾る「Turn Over」が流れ出し、メンバーがステージに登場すると、ライブはネオアコ感のある「whim」からスタート。舞台上に置かれたルームランプが親密で温かな空気を作り出した「Dance Alone」では奥中康一郎がAOR由来のメランコリーな歌を届け、ライブならではの長尺のイントロから「TAPIR」に繋げると、石嶋一貴のピアノソロと奥中のギターソロから、後半では神谷幸宏が手数の多いプレイで場内の温度を上げていく。ステージングからは基本的に彼ららしい平熱感が感じられるが、ときにアグレッシブなプレイで演奏を引っ張る神谷の存在はバンドのキーになっていると言えるだろう。
「いろんなね、普段やらないアレンジとかも詰め込んできたんで、最後まで余すことなく楽しんでいってもらえたら嬉しいです」という挨拶の通り、この日はライブならではのアレンジが数多く披露され、中盤の「Ooparts」は奥中の弾き語りから始まり、音源ではフェイドアウトしていくアウトロから急に「Mist」のリズムに切り替わるアレンジもクール。タイのインディバンドDOOR PLANTに影響を受けたという比志島國和の単音フレーズと奥中のカッティング、推進力のある赤塚舜のベースラインの組み合わせがシンプルにして美しく、清涼感を生み出す人気曲「琥珀」には場内から一際大きな拍手が贈られた。
神谷の跳ねるビートが心地いい「ハイウェイ」も「Ooparts」同様に音源ではフェイドアウトだが、ライブではフュージョンバンドのようなキメを持ち込んで「微睡」へとシームレスに繋げ、比志島がソロを聴かせると、音源ではギター主体の「Pale Talk」を奥中の歌と石嶋のピアノのみで始め、ロマンティックな雰囲気がより強まっていたのも印象的。そして、アルバムの中でも最も熱量の高い三連のロックバラード「あなたの全て」では神谷を筆頭にメンバー全員が体を揺らしながらプレイをし、奥中も声を張り上げて熱唱して、この日最初のピークポイントを作り出した。
ラスト3曲はここまで平熱感を保ちながらジワジワと上昇を続けてきたロケットが「あなたの全て」で大気圏を突破したかのように、彼らのロックバンド的な側面が爆発。「Sweet Child」のアウトロではサイケな轟音と強烈な低音を鳴らし、その勢いのまま「舷窓」でも高い熱量で演奏を続けると、本編ラストはアルバムでも最後に収められているSF的なスケール感の「宇宙飛行士の恋人」で締め括り。アンコールでメンバーを紹介し、加入したリズム隊の2人に触れつつ、「新メンバーって感じでもなくなってきたね」と話した上での、「えんぷていは晴れて5人組ロックバンドになりました」という奥中の言葉がバンドの現在地を良く表していた。
赤塚のスラップを含むベースプレイがグルーヴを生むファンキーな新曲でバンドのこれからを示し、ラストは2020年発表の初作『コンクリートルーム』に収録されている「煙」をもう一度熱量高く演奏。『TIME』のテーマである時間の不可逆性、彼らの辿ってきた決して短くはない、そしてもう戻ることのない時間に思いを馳せるような感慨があり、最後に5人で整列をして挨拶をする姿もとても感動的だった。Yogee New Wavesやミツメといった2010年代の東京インディを名古屋のシーンから眺め、マック・デマルコをはじめとした北米のインディシーンにもシンパシーを感じつつ、80年代AORの影響を受けた90年代J-POPに通じる歌心を離婚伝説あたりとも共有し、2020年代のサイケロックバンドへと着地する、そんなえんぷていの個性が明確に伝わるライブだったように思う。
SET LIST
01.whim
02.Dance Alone
03.TAPIR
04.眠らないで
05.メノウ
06.秘密
07.Ooparts
08.Mist
09.琥珀
10.斜陽
11.ハイウェイ
13.Pale Talk
14.あなたの全て
15.Sweet Child
16.舷窓
17.宇宙飛行士の恋人
ENCORE
01.新曲(タイトル未定)
02.煙