なきごと、8th Digital Singleリリース!楽曲制作から、バンド史上最大キャパのワンマンツアーに向けての思いを聞いた【前編】は≫こちら!
——EPの話に戻すと、水上さんから「書く曲に対しても、素直でありたい」という言葉も出ましたが。僕はEP収録の新曲を聴かせてもらって、3曲とも違ったアプローチで、すごく素直な歌詞や曲が書けてるなと思ったし。だからこそ、聴いた人のその時の気持ちやシチュエーションにバシッとハマる曲になってるなと思って。例えば、一人部屋にいて、モヤモヤした気持ちが溢れ出そうな時。それを言葉にするとか、誰かに伝えるとか、なかなか出来なかったりするんだけど。そんな時に自分の気持ちを代弁してくれる、なきごとの曲を聴くことで救われるんだろうと思ったし。それと同時に「“素直になる”ってどういうことだろう?」と改めて考えちゃったりもしました。
水上 えみり(Vo, Gt)難しいですよね。でも、私は何事も経緯が大事だと思っていて。言葉を書く時もそうですし、発する時もそうなんですけど。例えば「愛している」って言葉があったとして、どういう経緯をたどって「愛している」になったのか? というのが、私はすごく大事だと思っていて。「大好き」とかもっと気軽に使える言葉も「なぜ、「大好き」なのか?」という経緯が見えれば見えるほど、いい言葉になると私は思ってるんですね。今回のリード曲の「グッナイダーリン・イマジナリーベイブ」では、<愛している>って言葉が入ってるんですけど。いままでの作品でも、<愛してる>って言葉が2曲ほど出てきて、「私は私なりの言葉でしか愛してると伝えることができない」と「Hangover」という曲なんですけど。「私は私なりの~」の<愛してる>は愛することに対して、まだちょっと分かってないところがあって。「Hangover」の<愛してる>は、人から言われた<愛してる>に対して、ちょっと疑っていて。「本当にその言葉って信じていいの?」って曲なんですよ。それが「グッナイダーリン~」に関しては、自分自身に対しての<愛している>なので。「愛してる」と人から言われたり、人からの愛を受けたりして、自分の中で“愛”ってものがどんなものなのか分かってきた中で、<愛している>と言えていて。そこに自分の中のこだわりがあるし、<愛してる>と比べた時、<愛している>の方が言葉の重みも違うと思っていて。だんだん変化していってるのを自分でも感じているんです。
——曲を書いていくに連れて、より“愛”について考えられるようになっているし、これまでよりも一歩進んだところで“愛”が書けているし。この<愛している>こそが、いまの素直な気持ちだし。でも、それはまだ人に届ける<愛している>ではなかったりして。
水上そうですね。例えば、私が本当に愛すべき家族が出来た時に、もしかしたらまた<愛している>の意味が変わってくるかも知れないですけど。海外の人って、愛する人に対して“ダーリン”とか“ベイブ”って言うんですけど。この曲では“愛する人”の意味を持つ言葉を、自分自身に使っていて。自分の中の大人になれるところを“ダーリン”、自分の中の子供っぽくて嫌いなところを“ベイブ”と表現していて。「そのどちらの自分も愛せますよう」にって気持ちを込めて書きました。
──自分の中にある、大人な部分や子供な部分。そのどちらもが自分だし、自分の素直な気持ちですから。どちらの自分も認めてあげたいし、愛してあげたいですよね。
水上悩みとか怒りとか、大抵のことって熱が冷めればどうにかなるんです。モヤモヤしてるのも寝たらスッキリしたり、イライラしてるのも何か食べたら落ち着くとか。それに似たような感じで、なにかに対してすごく嫌な気持ちになったり、なにかに対してすごく怒ったり、自分のことを嫌いになるとかもそうですけど。その時って、自分の中にある熱が上がってるだけで。「熱が下がればもう少し楽になって、もうちょっと受け入れられるようになるよ」みたいな歌詞を全然、素直じゃないアウトプットで書いてます(笑)。
──あはは。この曲が歌詞に出てくる“カロナール”みたいな解熱剤になればいいですね。
水上そうですね、まさに(笑)。
──この曲はサビの加速する感じもすごく心地よいし、音源ならではの効果音的な遊びの部分も面白いし、カッコいい中に可愛い印象もありますよね。
水上落ちサビの<どんな自分も愛せますようにと>ってところに、♪チャラ~ンって魔法をかけてくれるような音が入っていたり、遊び心があって。「NAKIGOTO,」までは、同期とか入ってなかったので。自分たちの持ってるものに、また強い武器が加わったなって思いますし。歌詞をより一層、解釈して広げて、楽曲の表現を広げてくれてる強い味方が出来たなという印象です。
岡田 安未(Gt , Cho)ギターでいうと、アンプで録った音とラインで録った音の2種類を使い分けてて。アンプで録った音はわりと平面的で、ラインで録った音は左右で飛ばして。2Bのポコポコの音と、ラスサビのディレイが付いたギターで広がりの出るようなサウンドで作ってるんですが。最初この曲、ちょっと可愛いすぎるんじゃないか?と思ったんですけど、歪んだギターが入ったことでロックさが伝わって。なきごとっぽい感じに落とし込めたんじゃないかな?って思ってます。
——2曲目の「生活」はかなり深刻な曲ですよね。
水上伝わりますか(笑)。
——伝わります。みんな大なり小なり、何かしらを背負って日々の生活を過ごしてて。<息を吸う息を吐く たったそれだけのこと>って歌詞が染みました。
水上「生活」の歌詞を書いて3日寝込んだくらい、「かなりすごいことを歌ってしまったな」って気持ちだったんですけど。それこそ、音楽をやってる意味にもなるのかな? と思って、自分の中で消化したんですけど。自分が「死ぬほど辛いな」と思ってたこととか、その時は言語化出来なくても、別のタイミングで落ち込んだ時に、自分の人生とか照らし合わせて、だんだん正解を見つけていくのが人生だと思ってて。私もやっとそれを言語化出来たというか、言語化しても良いと思えたというか。自分の中にずっとあった気持ちだったんですけど、それを外に出してもいいかな?と思ったところがあって書きました。
──この曲を書くのに、ひとつ覚悟があったんですね。
水上でも、それこそが本当の“泣き言”だなと思ったし。自分の抱えてる悩みって、誰かも同じように悩んでいたりするんだろうなと思って。その人はそれを言語化することを許していなくても、この曲があればちょっと救ってもらった気持ちになるかも? とか。自分にもそんな曲があったから、誰かのそんな曲になってくれたらいいなと思ったんです。
──まさに、なきごとの根幹にあるものや、バンドコンセプトを表した曲だと思いますし。大げさに言うと、人ひとり救えるくらいの音楽の力をすごく感じました。
水上チームの中で「明るく終わらせる曲にしよう」という相談もあったんですが、ハッピーエンドだけが救いじゃないと思ってて。ハッピーエンドに救われる時もあるし、そういうのが聴きたい時も全然あるんですけど。この曲はどっぷり浸れる曲でいいんじゃないかな? と思って。
──全て吐き出すことで楽になれたりしますしね。
水上そう。それこそ、“疲れ切った日常にほんの少しのなきごとを”っていう、なきごとが掲げるべきものだと思ったし、そこに結末を絶対つけなきゃいけないとは思わないし、ここが幸せである必要もないしと思って。いままでだと、もっと分かりづらくしてたと思うんですけど、「それをも受け入れていいんだよ」って雰囲気に持っていけたのは、“分かりやすく分かりづらい”を意識的にやってるからだと思いんです。