デビューして10年経って踏み出した、全く新しい景色を見れたツアーでした。ギタリストの仲道 良(ircle/アークル)さんとお客さんと作り上げたという感覚がありましたし、機材準備もセッティングも含め、一から作るからこその楽しさがあるんだなと思いました。
違いますね。
出会いかな。10代でデビューして、20代後半に差し掛かったときに、転職したり、結婚や出産っていうネクストステージに進んでいく周りの人たちの背中を見てて、すごく焦っちゃって。普段だったら、そういう鬱屈とした気持ちは、ご飯に行ったり、飲みに行ったりして、友達と喋るだけで、晴れるんですよ。自分が悩んでたことなんてって思えてたんですけど、ちょうどコロナ禍に差し掛かったじゃないですか。
そう、そのテーマがズドーンと自分の大半を占めちゃって、ほんとに四六時中考えてるような状態になって。自分は音楽に向いてないんだなって、10周年も間近だし、やめた方がいいのかなって。こういう節目でやめるのも、10年音楽をしてみて、ありなのかな? とか……。
本当にかなり気弱になってたので、どんどん逃げ腰になってたんです。でも、やっぱり自分は音楽が好きだっていう気持ちから逃げたくないなと思って。それになんのかんの言ってもやっぱり音楽が好きで。もういい加減に、考えるのはやめて行動しよう。頑張ることから始めてみようと思って、日々コツコツと頑張り始めて、いろんなことがちょっとずつ軌道に乗りだしたなっていうときに、新しい扉が開いて。『10年経ったけど、ここからもう1回、家入レオの音楽を1人でも多くの人に届けてみない?』って言ってくださる方たちに出会えたんです。すごく考えたんですけど、もう一度新しいスタートを切りたいなって思って新しい事務所に所属したりもして。
ただ、結果的にはマネージャーさんも一緒に来てくださったので、全てが新しくなったっていうわけではなくて。むしろ今まで10年やってきたものを大事にしながら、新しいスタートを切れてる感じですね。風の時代って言われてますけど、新たな価値観に触れる空気感を如実に日々、生きてて感じますかね。
完全に抜けてます。
見つかりました。いい意味で、私だけでなく、すごく真面目に生きてる方が多いじゃないですか。1回、口にしたことは一生死ぬまで貫き通さなくちゃいけない、みたいなものが数年前、日本の美学だった気がしてて。でも、今は、お金があるから幸せとか、地位があるから幸せとか、そういうことじゃなくなってきてる気がしてるんですね。私はデビュー当時からすごく恵まれてたし、それは自分でもわかってた。改めて、大きな愛に守られてきたんだなと思ってます。そんな中、新しく出会った人たちは『全部、自分でやってみない?』って提案してくれたんです。『バンで全国を回ってみようよ』って言われて。1回、持ち帰らせてくださいって言ったんですけど(笑)。
でも、その提案をしてきたのが、新しい事務所の社長だったんです。社長に言われたら、これ、断れんよなと思って(笑)。しかも、ご自身もバンに乗って一緒に回るっておっしゃるし。『一緒に頑張ろう』っていう言葉だけでも嬉しいんですけど、行動で示してくれるから、自分もやってみようと思って。搬入搬出から全部、自分たち5人だけでやって。これまでも、ライブのスタッフさんに『ありがとう』って言ってたけど、その『ありがとう』の重みがもっともっと違ってきた。もちろん、この春ツアーをやったからっていって、そんな短い時間で全部わかったとは思ってはいないんですけど、少なくとも前の自分よりは見えてるものがある。同じ景色を見ても、もっと深いところで感じ取れてるんじゃないかなって。あと、なんだろうな……。
ドキドキわくわくする方向に行っていいんだって思えたんですよね。心がさらに自由になったというか。
SNSの時代なので、自分がかわいいって思っているものやかっこいいと思っているものを載せたときに、もしもコメント欄が荒れたら、どうしてもこれは良くないものなんだって思ってしまいがちだと思うんですよ。でも、いろんな人から評価される時代だからこそ、自分が大好きな自分でいることが大事だなって感じて。それは別に、この業界に限ったことじゃなくて、皆さんが通る道だと思って。子供から大人になるときの洗礼じゃないけど、本当は自分がもっと好きなものとか、やりたいことがあるけど、一旦社会の型にはめられてみる。求められるものに応えようとしてみる。苦しくて死にそうになって、なかには本当に命を落としてしまう人たちもいる。私もそういう時期があったし、もっときつかったのは、私のことを良くしようと思って言ってくれてることなんだけど、自分はこれじゃないかもしれないなと思いながらやってみたりすること。でも、そうすることで自分らしさはもっと強固なものになったんですよ。だから、10年前に私のことを見てた人からしたら、今はびっくりするような洋服やメイク、髪型をしているかもしれない。
あははは。そうですよね。でも、その方が私は楽しい。レオちゃんの歌を聴きにきたよって言ってくれた人に、本当に良いと思っている自分で歌を届けられるから。ライブを1本やる、曲を1曲作るって、すごい労力とすごい時間がいって。楽しいけど苦しいことも多いじゃないですか。
でも、ちゃんと自分自身で立ててる……今までも本当だったんですけど、本当の姿でやると、そういう苦しさも全部、笑い飛ばせるんですよね。だから、質問の答えにいく前段階が長くなっちゃったけど、ライブに来てくれたみんなに、自分が好きな方、楽しい方に進んでいいんだよってことを教えてもらったなと感じてます。全部がうまくいくと思ってないし、だからこそ、面白いし。私、もっといい歌が歌える人になっていくんだろうなっていう自信が今、あります。
そこでも“私”だった。家入が本名でレオが芸名なんですけど、レオと本名の境目について、デビューした後はきっちり線引きをしていて。それがお金をいただくっていうことなのかなって思ってたけど、そういう価値観をちゃんと教わったからこそ、今は私、本当に境界線がなくなってるんですね。それは、ふざけてるとか、気を抜いてるということではなく、むしろもっと真摯にファンの人と心の繋がりを求めたから、そうなったんです。スイッチをオンにしてるときだけしか表に立てないんじゃなくて、オフのときも私として音楽が届けられるんじゃないかって。
でもきっと、こんなに丸裸って言ってるけど、10年後の自分が今を振り返ったら、『あのときもやっぱりまだまだ脱ぎ切れてなかったんですよね』っていうかもしれない(笑)。でも、それが生きることのような気がしてて。そのときそのときに信じたものを一生懸命に命をかけてやってたら、誰かには伝わるんじゃないかって。この活動をしていて大事なものは、今、この瞬間で、未来を約束することじゃない気がしてます。