ポップしなないで メジャーデビュー盤『戦略的生存』完成後、初インタビュー!

インタビュー | 2023.02.21 18:00

──ポップしなないでが、2月22日に2ndフルアルバム『戦略的生存』でメジャーデビューをします。発表したのは、去年10月に渋谷 CLUB QUATTROで開催したワンマンライブで、フロアに泣いてる方がいたとか。
かめがいあやこ(Key、Vo)ふふ、そうですね。私が悪いんですけど、発表をする時に「これは解散の報告かも」と思わせたかったんです。そしたら、騙す側なのに心を込めすぎて「え、本当に解散するんじゃないか」と私も泣きそうになって(笑)。重い空気の中、メジャーデビューを発表したら感情の振れ幅がすごすぎて、号泣してる子がいました。
──肝心の作品についてですが、どのようなことをイメージして制作されたんですか?
かわむら(Dr)結成から5年の間に発表した楽曲をまとめた我々の集大成的な1stフルアルバム『上々』を2020年に作り、2021年は新しいチャレンジとして4thミニアルバム『美しく生きていたいだけ』を出しました。次はしっかりと自分たちの世界を伝えられる“鋭いポップス”を作ろうと臨んだのが、『戦略的生存』です。
かめがいレコーディングが去年2月から始まったんですけど、11月に私が喉の手術をしたので、後半のスケジュールが年末につめつめになってしまって。結構ギリギリの制作になったよね。
かわむら結果的によかったと思う。それがあったから、スケジュールを伸ばせたわけだしね。アルバムに取りかかったのが去年の始めで、最後の制作が年末だったんですけど、もしかしたら自分の中で価値観が変わってるかもなと思ったんです。だけど、音源を聴いて「今だったら、これはやらないな」ということが一切なかったんですよ。2022年の軸がぶれてないと確信を持てた。そういう意味で、1年間通して作品を作れたのは大きな収穫がありましたね。
かめがい私としては、前回のアルバムよりも明確にゴールを決めた上で戦えたというか。以前から「こういう表現をしたい」とイメージを固めるタイプではあったんですけど、より狙いを定めて表現に向き合えた気がして。大変でしたが、満足いくRECができたと思います。
──先ほど話題に出したクアトロ公演の時、かわむらさんがMCで「セカイ系と標榜して音楽をやってきたけど、セカイ系とはとても自分勝手な物語であり、それで良いのかと自問自答する時期もあった」と言ってましたね。
かわむら今セカイ系と呼ばれてる作品は、現実逃避的というか「世界中を敵に回しても、君と二人でいられたらいい」みたいなメッセージが多いんです。その価値観とか物語自体は美しいと思いますけど、果たして誰かに影響を与える立場で、今自分たちがそれを伝えていいのか?という葛藤があったんです。「世界がどうなっても君と2人でいられたらいい」という作品だけがセカイ系でもないし、そうやって一言で括れる話ではない。「もう、世界なんてどうなってもいいんだ」と考えるような人が、しっかりと前を向けるための音楽にできればいいなって結論に至りました。「俺たちはこれでいいのか」と思い悩むより、ふと考え方に気づいたというか。
──そのMCには続きがあって、「もちろん視野を広げる努力は必要だけど自分たちの世界を大切にしていくこと、その背中を押すことが自分たちの音楽だと思った。そんなタイミングでアニメのタイアップをもらいまして」と言って「ローリンソウル・ハッピーデイズ」を披露したのが良かったです。
かめがいあれは痺れたわ! 
かわむら我々も鼓舞されましたから。「この曲を作って良かった!」と心から思いましたね。
かめがい今回のアルバムの中でも「ローリンソウル・ハッピーデイズ」は、自分の中で歌い方を一番計算した曲で。ここでちゃんと歌を切るとか、ここは伸ばすとか、かなり細かく自分の声の音色も考えて歌いました。コーラスワークもたくさん入ってますし、しかもテンポも速くて。その中で自分が決めた表現法をどこまで実現できるかという戦いだったので、ボーカリストとして成長できた曲になりましたね。
かわむらこの曲はTVアニメ『農民関連のスキルばっか上げてたら何故か強くなった。』のEDテーマとして作ったんですけど、幸運なことに『農民関連~』のスタッフの方々がとても心が広いというか、自由にやらせてくれたので、ちゃんと自分達の飄々とした空気で作品と共に走れた。いい意味でハチャメチャになりましたね。
かめがいふふふ、確かに。
かわむら切り刻んで切り刻んで、決めの部分は「これが心地いいよね?」というのをふんだんに取り入れました。いつも作ってる曲より、ある意味で遊び心を感じる仕上がりになってますね。
──『戦略的生存』2曲目「衛星十七号」に関しては、冒頭で抒情的なピアノと「僕の書いたシナリオはこうだ」という歌い出しから始まるので、一気に作品の世界に引き込まれました。
かめがいいいですよね!私もそこを歌うのめっちゃ好きです。
──改めて感じたのは、かめがいさんの歌詞に対する読解力の素晴らしさで。曲によって声のキャラクターも変わるし、フレーズごとに感情の乗せ方も変えてますよね。
かめがい細かく歌詞を読解するタイプじゃなくて、口に出してみて何を感じたかが大きいんですよ。さっき言ったみたいに「自分がどう歌いたいか」を事前に設定するんですけど、それ以上に感情を大事にする。かわむらくんが書いてくれる歌詞の世界に飛び込んで、その中で生きてるのが私の理想だし、それが結果いろんな歌い方に現れたらいいなと思います。曲中の人物として生きてみて、その言葉を言って苦しくなるのか、嬉しくなるのか、悲しいのか。ただ、感情はいろいろあるんですけど、前向きな姿勢はなくしたくなくて。どんなに悲しく苦しいことがあっても、それをどうやって前向きにアウトプットできるかを考えて歌っています。
かわむらちなみに、僕が書く曲ってかめがいさんを登場人物に設定してるわけではないんです。昔の美少女ゲームをやる方はご存知かもしれないですけど、主人公は前髪が長くて目が隠れてる、何でもない人間なんですね。その主人公が外の世界や周りの人物から刺激を受けて、いろいろな感情を抱いて、物語が展開していくところに面白みがあると思っていて。我々の曲も「この人物だったらどうなるんだろう?」と思いながら曲を作っています。
──曲の題材って、どうやって考えるんですか?
かわむら作り手みんながそうですけど、とにかくインプットするしかないと思っていて。特に語彙力は限界があるので、自分は本をよく読みますね。最近だとSF小説が多くて、その影響は色濃く受けてるかもしれないです。
──お好きな作家はいます?
かわむらSF系の作家じゃないんですけど、村田沙耶香さんが好きですね。人間の描き方が本当にえげつなくて。何もない人間をこんなにも残酷に描けるのか、と思う話だったりストーリーの展開だったりが多いんです。『信仰』に収録されている『土脉潤起』は、現代社会で生きてる人間が野に帰ってしまう話で。これはSFのジャンルに入ると思います。
かめがい野生になるってこと?
かわむらそう。言葉を忘れて野に帰ってしまう現象が起きる世界の中で、主人公のお姉さんが野に帰って、言葉も忘れて森の中で生きる話。ラストで「お姉ちゃんは人間社会にいることじゃなくて、森に帰ることを選んだんだよね」みたいなセリフがあって、その諦め方がすごいんですよ。「このシチュエーションだったら、こういう感情になるよな」と自分に当てはめて考えますね。一時、村田沙耶香さんの作品はガーって読みました。あとは、ベストセラーになったアンディ・ウィアーの『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。一人の人間が宇宙の中でエイリアン的な存在とコミュニケーションを取り始めるみたいな、ざっくり言うとそういう話。ものすごく刺激的でしたね。SFでありながら人間の感情の描き方が巧みというか、ワクワクして。終わり方もすごく切ないので、最近すごく衝撃を受けた本ですね。
──村田沙耶香さんのお話を聞いて、ふとアルバム6曲目の「地獄快速」が浮かびました。
かわむらあ、そうですね。人間が変身するのって、現代とそんなに大差ないと思うんですよね。「ゾンビになる」でも「化け物になる」でも、じゃあ今の現代社会が健全で、えぐい話なんて一切ないか?と言ったら、そうではないじゃないですか。というところを、我々はちゃんとロマンを持って音楽に落とし込みたいと思ってるので、その要素は出てるかもしれないです。
──ポップしなないでの音楽って、時には自分対社会という世界観やSF的な要素も孕んでいるけど、決して浮世離れしないですよね。
かわむらそうなんです。あくまで我々は「現実逃避をしようとしても全部は忘れられないよね」と歌っていて。
かめがい本当にそう思う!
かわむらチクッと言いたいことを書いて、「そこだけは逃げちゃいけない部分だよね」とか「じゃあ、こう考えてみたらいいよね?」と自分達に言い聞かすように込めているつもりです。現実逃避しきれないというかね。
かめがいライブで「日常を忘れて」と言ってくれるアーティストはいる。だけどポップしなないでは、現実を完全に忘れることはできない。「忘れよう」と言ったところで、むしろ思い出しちゃうみたいな、そういう音楽だと思うんです。それが私の中では大事なところで。明日からも辛い現実で生きていかなきゃいけないけど、それでも同じ時間過ごしたりとか、その曲を聴いている時に、少しの助けになればっていうのはありますね。
──それで言うと7曲目「初夏それから」が切なかったんですよ。友達との別れの歌にも感じるけど、捉えようによってはポップしなないでという音楽のメタにも感じる。「これまで私とあなたは現実世界で辛い思いをして、音楽に頼ってきた。これから実社会で生きようとしてるあなたに、また辛くなったらこっちの世界に戻っておいで。とは言わないからね」みたいな。
かわむら居心地の良いところから離れる決断をするのは、当然嫌なことですけど、きっと自分の心持ち一つだと思うんですよ。魔法のようなものがあるとしたら、その時に聴いてた音楽だとか、その時に観た映画だと思うので、そういったものに我々もなれたらいいなとは思って作ってますね、この曲は。
かめがいいい曲だよね。私もすごく気に入ってる。本当に歌詞がいいよ。
かわむら素直に書いたしね。
かめがいちょっと話ずれるかもしれないですけど、最後のところで「ああ~」と伸ばさないで「ああ」って切るようにしていて。そこが自分の中では、諦めというか受け入れを表してる。かわむらくんの書く歌詞の世界で、受け入れと諦めと、それでも笑顔ではいようってことを「初夏それから」で感じながら歌いましたね。
かわむら気楽に諦めたいっていうのが我々の音楽の1つにあるので、気楽だったり前向きに諦めていこうよっていう。そういう面においては、この曲が一番感じられるかもしれないです。
──あと、「地獄快速」「衛星十七号」「メデューサ」「wani no kuchi」を始め、「生きる」とか「死ぬ」というワードが多く出てくるんですけど、どういう思いで死生観を描いたのでしょうか。
かわむら音楽をやる上で、生きるとはどういうことか? その裏返しで死ぬってどういうことか?を考えた時に、死はすごく悲しい出来事ではあるけど、そこに違和感が感じまして。しっかりと生きることを考えるのって、同時に死ぬことも考えることなんじゃないかなと思うんです。自分たちの目の前に死が迫ったらどう考えるかは全く分からないですが、少なくとも生きるっていうことを考える上で、ちゃんと前を向こうと思った時に出てくる言葉だったんだと思います。僕らのバンド名も気軽に平仮名で「しなないで」ですけども、そういうラフな死生観っていうのは、我々が今やってる音楽において、とても必要なんじゃないかなって。みんなに「生きることを見つめ直せ」とは言ってないですけど、「生きるとか死ぬっていうことは、当然のようにあるよね」って伝えたい。
かめがい確かにね。私はすごいネガティブで、すぐに「もう死にたい」とか思っちゃうんですよ。だけど「wani no kuchi」で「死にたくないそれは当然のことだ」と歌った時に、普通、「それはそうでしょ」と思うかもしれないんですけど、私はそうじゃなくて。私みたいに「もう死にたい」と思っちゃう人は結構たくさんいると思うんです。だけど「死にたくないって思っても大丈夫だよ」って。全部が嫌になったり辛くなったりとかして、死にたいと思うけど、心のどこかで死にたくないって思っても「当然のことだから大丈夫」って。みんな死にたくないって本当は思ってる。それで大丈夫だからって私は思います。
──自分に矛盾を感じて悩まなくていいと。
かめがいかわむらくんが書いた歌詞を歌ってみて、私自身も助けられた気はしますね。
──改めて、ポップしなないでの音楽の在り方ってどう考えていますか?
かわむら最近は、僕らの音楽を聴いてくれる人と共に生きていければと思っています。与える与えないとかって考えちゃうと、どっかで途切れちゃうと思うんですよ。同級生はずっと同級生じゃないですか。そういうお互いに存在を感じ合えるような関係になっていけたらなって。
かめがい私は人の心が動く瞬間って、すごく美しいなと思ってて。そういうほんの少しの美しい瞬間がたくさん生まれたらいいなって。それを永続的に、見たり感じたりし続けたいと思ってます。

公演情報

DISK GARAGE公演

ポップしなないで presents 「合言葉はトキメキ」ツアー

2023年3月25日(土) 福岡・Queblick
ゲスト:超能力戦士ドリアン
2023年3月26日(日) 仙台・spaceZero
ゲスト:板歯目
2023年4月2日(日) 札幌・Crazy Monkey
ゲスト:和田輪
2023年4月8日(土) 大阪・アメリカ村DROP
ゲスト:塩入冬湖
2023年4月9日(日) 名古屋・CLUB UPSET
ゲスト:ネクライトーキー
2023年4月22日(土) 東京・LIQUIDROOM
※ワンマン

チケット一般発売日:2023年2月25日(土)

RELEASE

『戦略的生存』

2ndフルアルバム

『戦略的生存』

2023年2月22日(水)SALE
  • 真貝聡

    取材・文

    真貝聡

    • ツイッター
    • instagram

SHARE

ポップしなないでの関連記事

アーティストページへ

最新記事

もっと見る