──いま7月初めの段階で、ツアーの準備はどれくらい進んでいますか。
いまはアレンジャーとばんばんメールでやりとりしてて、その結果がそろそろバンドのメンバーに行き渡るんじゃないですか。曲順もほぼ決まったし。リハーサルをやってみて多少調整があるかもしれないですけど、曲のラインナップは決まったと言っていいと思います。
──今回のセット・リストは、やはりアルバム『音道』の曲が中心になりますか。
そうですね。『音道』がソロ20年のベスト・アルバムですから、それを受けた今回のツアーはソロ20年のベスト・セレクション・ライブをやろうかな、と。そういう気持ちで取り組んでおります。『音道』に入ってる曲たちは、それぞれの時期のツアーで“4番バッター”的な位置にあった曲ばかりですから。その上で、今回はイントロや構成を工夫して、それぞれのツアーに一瞬戻れるような展開にしたいなと思ってるんです。
──では、セット・リストを考える際には、この20年の間のツアーのいろいろな場面を思い出したりしたんですか。
そう、僕自身が思い出したいなと思って。自分がステージ上で“あのときはこうだったなあ”というのを体感したいなと思ったんですよね。
この20年ずっとノドに引っかかった小骨のようなことがあって、今回のツアーで取り除きたいなと
──この20年間にやった、いろいろなツアーを凝縮した内容になるということですね。
ロックなChageもあったし、“Chageの細道”というツアーではアコースティック編成で、普段は行かないような街に出かけたりしたし、そういうもののすべてをいい思い出として、自分のなかで再現できたらいいなと思っているし、コアなファンの方なら“なるほど!だから、この曲をやるのね”とニンマリしていただけるような曲もやろうと思ってます。それから、この20年の間ずっとノドに引っかかった小骨のようなことがじつはあって、それを今回のツアーで取り除きたいなとも思ってるんです。今回スカッとして、次に向かいたいなって。おそらく、ステージでその経緯を説明すると思うんですけど、セット・リストを考えるときにも、そこから入っちゃったかなというところもあるんですよね。その上で、『音道』のラインナップを見ながら、自分の過去のライブ映像も見ながら、やっぱり小骨があるなと思って(笑)。何が引っかかってるのかは、言うとステージのネタバレになってしまうので、それはいらっしゃってのお楽しみ、ということにさせてください。ご覧になったら“すごくデカいのが引っかかってたのね。全然、小骨じゃないじゃない”という感じになると思うんですけど(笑)。
“細道”で緊張感を味わったことがその後の弾みになったし、やっぱりアコギ1本で歌いたくなるんですよね
──いまちょっと話に出た“Chageの細道”ツアーですが、今回の『音道』というアルバム・タイトルも2010年に行われたその“Chageの細道”というツアータイトルにも掛けてますよね。あのツアーは、いまから振り返ると、どういうツアーだったと感じていますか。
あのツアーは、まず企画としてひとつの冒険だったんですよ。C&Aの時代に47都道府県全県制覇ということで各地の県庁所在地はやらせてもらいましたから、それ以外の市町村に出かけていこうということで。多くは“町”でしたよね。そういうエリアでやってみようということだったんです。結果、僕自身にとってもすごく新鮮で、本当に旅をしてる感じがしました。昔から僕はツアーのことを“旅”と呼んでるんですが、あのツアーは本当に“旅”したなという実感があります。お客さんのなかにも“わが町に来てくれてありがとう”という空気が溢れてたし、コンサートが始まる前からそういう高揚感が漂っていて、だから普段のコンサートとはちょっと違ってました。そういう空気のなか、アコースティックという柔らかいサウンドで僕の歌を楽しんでいただくという。ステージもすごく楽しかったし、ツアー全体で普段は体験できないいろんなことを体験させてもらったツアーでした。だって、移動の途中で、「疲れたから、ちょっと温泉センター行こう」って寄り道したりね。そんなこともやりましたから(笑)。
──(笑)、“町”の会館という規模感でライブをやるのはずいぶん久しぶりだったと思いますが、そこに戸惑いはなかったですか。
もちろん、アマチュアのときはそういうところから始めたんですけど、でもやっぱり新鮮でしたよ。それに、手を抜けないというか、すごい緊張感なんですよ。大きな会場でやる場合は歓声もすごいし、仕掛けもいろいろあるから、それに音が紛れてしまうところもあるんですが、あの規模感だとすべての音が聞こえてしまうんですよ。当たり前と言えば当たり前なんだけど、だからステージ上の演奏は本当に完璧にしないといけないんです。それに、アコースティックならではの繊細な部分も要求されるし。僕としては、ドカーンという打ち上げ花火じゃなくて、チリチリと落ちていく線香花火の炎を最後まで見守るような緊張感をあそこで味わったことが、その後の弾みになったような気がします。それから、印象に残ってるのは“細道”というタイトルにしたから、やっぱり松尾(芭蕉)さんにリスペクトということで俳句、というのは畏れ多いから(笑)、川柳を毎回披露したり、みなさんから寄せられた作品も紹介したりしたんですよ。
──あのコーナーは毎回盛り上がったみたいですね。
そうなんです。ネットで作品を募集して、毎回公演当日に楽屋で準備をして、手作り感満載で臨んでたんですけど、僕自身もすごく楽しみました。
──その後、SNSがどんどん広がった世の中の状況もあるとは思いますが、あそこでChageさんとファンのみなさんがパーソナルな交流をした形が、その後のツアーのいろいろな企画のベースにもなりましたよね。
そう思います。僕も、やたらデジタルを駆使してきましたよ(笑)。やたらTwitterでつぶやくし、お客さんもそれを面白がってくれるという。“Chageの細道”では行く先々でバンド名も募集して、そうすると毎回その地域に密着したバンド名になるんですよ。面白かったですねえ。あのツアーに関してもうひとつ忘れてはいけないのが、吉川忠英さんと一緒にまわったことで、アコースティックギターの魅力というか、その存在感をあらためて自分のなかで再認識しました。本当に、忠英さんには感謝したいです。あれ以降、やっぱりアコギ1本で歌いたくなるんですよね。