TEXT:兼田達矢
賛否両論は覚悟してましたよ。でもその一方で「1回見てごらんよ。そしたら、いいと思うんじゃないかな」とも思ってた
──昨年2月のライブでの公約通り、新作を発表してツアーも決定しました。
50歳のうちに、ということでしたから、ギリギリですけどね(笑)。
──それでも、あらかじめ構想していたことをしっかり実現したということですよね。
そうですね。始めたのは…、49歳になってすぐくらいの時期ですから。もう50だし、何か新しいことをやりたいなと思ったのと、一昨年(和田)唱くんたちと一緒にやったりして、やっぱりバンドっていいなと思ったこともあって…。これまでずっといろんな男の子のミュージシャンたちと一緒にやってきましたけど、わたしとサポート・ミュージシャンという関係だと、どんなに親しくなっても、やっぱりバンドにはなれないんですよね。なんでなんだろうなあ?と、いろいろ考えるんだけど…。そういうふうに考えていったときに、“また女の子とやりたいな”と思ったし、“やっぱりバンドが好きだな”という気持ちになって、だったら女の子とバンドをやればいいじゃないか、ということなんです。
──ただ、他でもない香さんがガールズ・バンドをやると聞くと、ちょっと驚きもありました。
わたしも、賛否両論は覚悟してましたよ。でもその一方で「1回見てごらんよ。そしたら、いいと思うんじゃないかな」とも思ってたから。それに、わたし自身のなかにもプリプリを解散してしばらくは“もう女の子はいいや”という気持ちがあったんですけど、一昨年の『PIECE of BRIGHT』のツアーで初めて、コーラスに女の子に入ってもらったんです。いろいろ考えた末に、女の子を入れようという結論になったんですけど、それはやっぱり解散してから年月もずいぶん経ってたし、自分のなかでは再結成して、それをやりきったところで、ようやくケリがついたんだと思うんです。それで女の子を入れてやってみたら、本当に最高で、うれしくなっちゃったんですよね(笑)。
──長年一緒に音楽を作ってきたスタッフの方々から「女の子とやるんなら、この子がいいよ」という推薦の声がすぐに出てきたそうですが、それはスタッフも香さんが音楽を作る仲間は女の子がいいと思っていたということでしょうか。
いま女の子のミュージシャンもいっぱい出てきてるし、当たり前になってるなかで、「女の子バンド」と言われたくないと思ってるバンドもいっぱいあると思うんです。それでも、わたしのなかでは男の子のバンドと女の子のバンドは全然違うと思うんですよ。すごくいい意味で、女の子にしかできないこと、出せない雰囲気、空気感があると思うんです。もちろん、その「女の子にしか」という要素は好きなことばかりじゃないですよ。“こういう女の子っぽいのは嫌い”というのも確かにあるんだけど、でも総合すると、どんなに上手くても男の子のミュージシャンにはできないことがあるんです。で、それがわたしの音楽のなかで重要なものというか、特徴的なものであるような気がするんです。だから、今この女の子4人でリハーサルをやってるんですけど、「これですよ!」というようなことが自分のなかでたくさんあるんですよ(笑)。
わたしが求めている音楽というのは、どこかキラキラしてるものなんでしょうね。ロックは大好きなんだけど、表面的にはキラッとしててほしい、という
──今回のアルバムを聴いてまず印象的なのは、コーラスが効いてるなということです。
コーラスに関しては、この10年くらいの間にいろんなことを試したんです。男の子と一緒にやり始めて、まず「コーラスいっさい無し」ということでやってみたんですけど、そうするとわたしの音楽は成立しないんですよ。じゃあ、ということでボコーダーみたいなものを使ってエレクトロな感じに男の子の声を加工してやってみたんだけど、何か違うな、と。さらに、普通の声で、女の子だったら3度上でハモるところをオクターブ下げて6度下、ということでやってみるんだけど、なんか地味…みたいな。本当に、いろいろやってみたんです。それで、女の子に入ってもらったら、「なんて落ち着くんだろうね!」という感じだったから、確かにコーラスは大きいと思います。ただ、それ以上にというか、女の子だとスネアの音ひとつ取っても、なぜかちょっと明るい、ということがあるんですよね。ギターやドラムも、基本的には野太いし、歪ませればちゃんと歪むんだけど、どこかキラッとしてるっていう。そういうところを、わたしは感じるんです。Yuumiのドラムなんて、“これを叩いてる人はニコニコしてるに違いない!”みたいな感じがするから(笑)。だから、わたしが求めている音楽というのは、どこかキラキラしてるものなんでしょうね。ロックは好きだから、音が太いのもいいし、ゴリゴリしてるのも大好きなんだけど、でも表面的にはキラッとしててほしい、というのがあるみたいなんですよね。
──メンバ−4人が女の子である上に、さらに“女の子濃度”が高くなっているのは、作詞で木村ウニさんが参加していますよね。もしかしたら、香さんが全部歌詞を書くより女の子濃度が高くなったかもしれないとも思うんです。
その通りだと思います。しかも、それが大正解で、今回音の面では踊れるちょっとエレクトロなサウンドがやりたくて、歌詞の部分では恋の歌を歌いたかったんですけど、わたしが一人で詞を書いてると、わたしは作詞家じゃないから、今の自分のスタンスを前提にした世界しか書けないんですよ。恋の歌は不倫になっちゃうし、そうじゃなかったら「どうやって生きていくか?」みたいな内容になっちゃうんで、そこは困ったなと思ってたんです。で、ウニちゃんには他人とは思えないくらい深く感じるものがあるので、この2年くらいはわたしがどうしても見てほしい景色とか、どうしても感じてほしい何かとか、いまの自分を語るのに知っておいてもらいたいことについては、一緒に行動して見てもらったり感じてもらったりしてたんです。だから、今回もUnlocks the girlsというバンドなんだけど、プロジェクトと考えてるところもあって、彼女もその一員なんですよね。
──いまのお話からすると、アルバムの3曲目「BOY」という曲は、エレクトロなサウンドと若い女の子の失恋という、今回のテーマが凝縮した1曲ですね。
あれも、わたしが書くと離婚の話になっちゃうと思うんだけど、彼女が書くと、同棲してた男の子が出て行っちゃったという話になってますよね。だから、うれしくて(笑)。確かに、わたしがやりたかったことの典型的な1曲かもしれないですね。
──冒頭の、彼と並んで立つベランダという景色は、若者が住んでいる賃貸アパートをイメージさせますよね。
そうそう!そのあたりもすごくウニちゃんと話したんですよ。♪彼の横に立った♪なんだよねって。横に座れるほどベランダは広くないんですよ。だから、どちらかと言えば「神田川」だよねって言ったら、ウニちゃんは「神田川」という曲がわからなかったっていう(笑)。そういう会話をいたるところでしてるんだけど、そういう小さなことが音楽ではすごく重要になるから、仮に♪彼の横に座った♪としたら、そこでもう同棲感は失せちゃうのかもしれないし。だから、今回はウニちゃんやメンバーに囲まれて、かつてのそういう感じが蘇ってる、みたいなところもあって、それがたまらなくうれしいですね。