
想~『月光蟲』再現ライブ
2026年5月22日(金)なかのZERO 大ホール
【Support Member】Pf.三柴理 / Dr.長谷川浩二
筋少がもっとも忙しかった1990年(平成2年)にリリースされた(『月光蟲』は11月21日)、バンド史上においても名作とされる2作品を二ヶ月連続で再現しようという試みの第二夜にあたるこの日、もちろんチケットはソールドアウトとなった。
中野駅南口を出た線路沿いの道を「筋肉少女帯」と刺繍の入った特攻服やゴスロリ系の衣装、バンドTといった、どれも黒を基調とした衣服の人たちがゾロゾロと歩いている。普通に考えたらいささか奇妙に映る光景だが、中野という街にはどんな人も受け入れてくれる懐の深さのようなものがある。さすが、大槻ケンヂと内田雄一郎の感性を育んだ街だ。スポーツクラブTACを過ぎ、島忠が見えたらその向かいが目指す場所だ。
SEが会場に流れるとメンバーが登場、少し後からオーケンが現れ、大きな歓声と拍手に包まれる。1曲目はもちろんアルバム『月光蟲』のオープニングナンバー「風車男ルリヲ」。冒頭、オーケンがアコギを弾きながら歌う。〈確かな事は解らないけれど……〉という哀切さと不気味さが言葉にならない余韻を引きずるリフレインにドラムのカウントが重なると、凄まじい轟音が脳天をかき混ぜる。ステージに向かって左側に本城聡章、右側に橘高文彦、真ん中にオーケン、その右隣に内田、そして後方から三柴理(Pf)と長谷川浩二(Dr)が支える魔法陣のような完璧な布陣がオーディエンスを熱狂させていく。その興奮の高まりは次の「少年、グリグリメガネを拾う」で、もはやピークなのか!?と思えるほどに高まっていく。
MCでは、まず中野地元トークが展開されたのだが、ライブの興奮が頂点に達しているオーディエンスは、オーケンが「(小学生のときに通っていた)スイミングスクールTACの帰りだけカールを買ってよかったんだよ!」という言葉に、ギャー!という悲鳴のような歓声を上げるという、ビートルズがやって来た状態とでも言おうか、すごいことになっていた。「島忠!」「イェーイ」というコール&レスポンスが普通に成立してしまうくらい狂熱の地元凱旋ライブなのだが、『月光蟲』は中野のマルイの裏にかつてあったスタジオでレコーディングしたそうで、兎にも角にもこのライブが中野で行われていることは必然であった、というわけだ。
また、この日のライブでは、『月光蟲』に収録されている各楽曲の仮タイトルが明かされ、曲にまつわるエピソードも語られた。(※1 仮題に関しては、この日のライブで触れられたものをレポートの後半にまとめているので、なぜそのような仮タイトルだったのかを想像しながらアルバムを聴き直していただきたい)
さて、3曲目「デコイとクレーター」はミステリアスなムードのバラードだ。その前が激し目のナンバーだったことを思えばその落差はかなりあって、ライブの構成的には難しさが伴う。しかし、このアルバムを聴きまくって体に染み付いている多くのオーディエンスからすれば、その落差も含めての『月光蟲』。映画のようなストーリーと明るい曲調が特徴の4曲目「サボテンとバントライン」も、この流れで聴くからこその悲しさとおかしさがある。
5曲目「夜歩くプラネタリウム人間」と6曲目「僕の宗教へようこそ」では、見せ物パンク一座「ストロベリーソングオーケストラ」の釵刺灯(カンザシ アカリ)がゲストボーカルとして参加。とくに「夜歩くプラネタリウム人間」のオリジナルでは、故・久保田安紀さんの歌唱が印象的なのだが、歌唱の難易度が高く、オーケンも長年歌うのを封印していたという。
筋少のメンバーも鳥肌が立ったという釵刺灯の歌声に、オーディエンスから感嘆の声が漏れた。久保田さんに声質が似ているのだ。まさかこんな形で“再現”が叶うとは誰も思ってみなかっただろう。
「やっと聴けたよこの曲が。本当に再現しがいがあったよ」(内田)
MCでまたオーケンと内田による中野思い出トークが繰り広げられるなか、2人の記憶は微妙に違っていて、さらに『月光蟲』の制作合宿の帰り、高速道路で当時メンバーだった太田明の車が故障で止まったというエピソードもオーケンと橘高の話が食い違っていることが発覚し、そのあたりも時を経た再現ライブの妙として楽しめた。
チャーミングな味わいのある7曲目「悲しきダメ人間」は、その太田が作曲したものだ。ライブはそのままロッカバラードの8曲目「少女の王国」へと続いていく。さらに9曲目「イワンのバカ」は言わずと知れた筋少のライブにおいては今もよく披露される名曲のひとつだ。橘高によるイントロの速く美しいメロディアスなフレーズが厳寒のツンドラを吹き荒ぶ風になって会場を旋回する。
アルバム最後に収録されているのは10曲目「少女王国の崩壊」。オリエンタルな雰囲気をまとったインストナンバーだ。この曲も、まさか再現されることになるとは、といった驚きがあった。おそらくこういう機会でもない限り、こうしてライブで披露されることはなかっただろう。本城は指揮棒のようなものでエレキギターの弦を叩いて独特の音をアクセントに加え、内田はベースを置いてコンピューターのオペレーションをしつつペンライトを振ってオーディエンスを盛り上げる。橘高はエレキギターとアコースティックギターを交互に弾き分けていく。筋肉少女帯というバンドの奥深さを改めて見せつけられたような気がした。
昔はできていたことが、今はできなくなっていることがある。でも逆に、昔はできなかったことが、今ならできるということだってある。どうせだったら後者の方を数えてこれから先も生きていきたいものだ。
「過去があったから今もあるし、未来もあるんだっていうさ、そういう力を中野のもみじ山で、僕たちは共有できたんじゃないかな。60を過ぎたら、筋肉少女帯はステージ上でいいことを言うバンドになろうと思ったんだよね」(オーケン)
ここからは『月光蟲』以外から選曲してライブは盛り上がりを見せていった。「週替わりの奇跡の神話」、そして「Live House」では本城がメインボーカルを取り、本編ラストは「バトル野郎〜100万人の兄貴〜」で締めた。道を極めるのも、我を悟るのも、まだまだできるような気はしないが、だからこそ生きる力が湧いてくるというものだ。
アンコールは「暴いておやりよドルバッキー」に続いて「カーネーション・リインカーネーション」。最後に筋少楽曲においてもっともハードな曲を持ってきて、この日のライブがぐるっと一周してまた「風車男ルリヲ」「少年、グリグリメガネを拾う」に戻っていくような幸福な輪廻にとらわれたまま、会場を出て島忠を正面に見、TACの前を過ぎて、皆それぞれの道へと帰っていった。
「メガデス拓郎」(「風車男ルリヲ」)
「回転すし人間」(「デコイとクレーター」)
「PINK CLOUD人間」(「夜歩くプラネタリウム人間」)
「ホッタイモイジルナ」(「僕の宗教へようこそ」)
「天空」(「悲しきダメ人間」)
「キメてやる!今夜」(「少女の王国」)
「インドメタシン」(「イワンのバカ」)
「ドイツのインドモスラ」(「少女王国の崩壊」)
SET LIST
01. 風車男ルリヲ
02. 少年、グリグリメガネを拾う
03. デコイとクレーター
04. サボテンとバントライン
05. 夜歩くプラネタリウム人間
06. 僕の宗教へようこそ
07. 悲しきダメ人間
08. 少女の王国
09. イワンのばか
10. 少女王国の崩壊(Inst)
11. 週替わりの奇跡の神話
12. LIVE HOUSE(Vo.本城聡章)
13. バトル野郎〜100万人の兄貴〜
ENCORE
14. 暴いておやりよドルバッキー
15. カーネーション・リインカネーション



















