幻~『サーカス団パノラマ島へ帰る』再現ライブ
2026年4月28日(火)CLUB CITTA’
【Support Member】Pf.三柴理 / Dr.長谷川浩二
2020年にこの2作品の再現ライブは計画されていたが、コロナの第一波による自粛期にあたり、中止を余儀なくされたという経緯がある。
それから時間が経過し、4月には大槻ケンヂの第三詩集である『幻と想 03-25 大槻ケンヂ自選詩集』が上梓され、さらには今年、大槻ケンヂと内田雄一郎が還暦を迎え、ここしかないというタイミングで実現した。
まずは、4月18日(火)にソールドアウトとなったCLUB CITTA’で行われた「筋肉少女帯 幻~『サーカス団パノラマ島へ帰る』再現ライブ」の模様をレポートする。
ステージ正面のバックドロップには、『サーカス団パノラマ島へ帰る』のジャケットに描かれたクラウンがいて、何とも言えない表情でこちらを見ている。客電が落ち、オーディエンスが手にした色とりどりのペンライトが鮮やかな光を放つなか、アルバム導入部SEが流れ、まず本城聡章と橘高文彦が登場し「サーカスの来た日」を12弦ギターで切ないフレーズを奏で、それに乗せてオーケン、内田、サポートの三柴理(Pf)と長谷川浩二(Dr)が現れ、ブレイク後「ビッキーホリディの唄」へ。
ちなみにオーケンの手にしている杖は、後ほどMCで「厨二病みたいでいいでしょ」と言っていた、「元祖 高木ブー伝説」のMVで使用していたものと同タイプによるセルフオマージュだ。
再現ライブは、決して過去を再現するためにあるのではない。むしろ、現在という時間を克明に表現するためのフォーマットのように思える。そこには、リリースから36年という長い時間が含まれ、バンドの歩んできた平坦とは言えない道のりに、オーディエンスの人生が重なり、ここにいるすべての人たちの物語がぐるぐるとゆっくり混ぜ合わされていく。その様を表すのに「幻と想」という言葉以外にはちょっと考えられないような気がした。
「詩人オウムの世界」に続いてMCでオーケンがアルバムの発売された年を改めて言うと、会場から「えー、うそー!」と一様に驚きの声が上がった。まるで1990年から一瞬で36年後の世界に連れてこられた集団みたいな反応だ。「東西ドイツの統一」「サッチャー首相が辞任」といった、もはや歴史の教科書の記述としか思えない出来事がオーケンの口から発せられるたびに、「やめてくれ!」と、それが呪詛の言葉でもあるかのように小さな悲鳴が起こるのもおもしろかった。
このライブのMCでは、『サーカス団パノラマ島へ帰る』がリリースされた1990年当時の思い出、および作品にまつわる記憶を断片的に振り返っていくという内容がメインとなっていた。曰く「還暦が昔を思い出す脳トレ、あるいは還暦が思い出話をしながらたまにライブをやるスタイル」だ。まずは最初のMCで判明したのは、当時の記憶がいかに曖昧かということだ。オーケンが、「人気の出始めた1990年当時、東京はお客さんがたくさん入ったけど、地方はあまり入らなかった」と言えば、橘高が「そんなことはなかった」、内田も「たくさん入っていた記憶がある」と食い違うこともしばしば。本当のところがどうだったかはわからないが、大切なのは、メンバーの記憶が違っていることでMCとして盛り上がっている今がある、ということだ。
「いいこともあったし、悪いこともあったし、いろんなことを思い出して明日につなげてくださいよ今日は!」とオーケンが回収して、「労働者M」へ突入していった。本城のカッティングが冴えわたり、最後にサイレンが鳴り響き、ゆったりと怪しげなキーボードのフレーズに導かれて「アメリカン・ショートヘアーの少年」の世界がそっと幕を開ける。
つくづく、『サーカス団パノラマ島へ帰る』というアルバムが、当時として全くメインストリームの音楽ではなかったことがわかる。というかわざとそこを外したようにさえ思える(それなのにオリコン3位という結果に表れたポピュラリティのすごさがわかる)。プログレッシヴ、サイケデリック、インダストリアル、ブギーとかなりバラエティに富んだサウンドとアレンジに、オーケンの幻想的な歌詞が乗ることで強烈なまでにオリジナルな世界観を形成している。だからこそ2026年の今聴いても古いとか新しいといった時間の洗礼から逃れることに成功している。
「いきなり予想外に売れてしまって、自分の本当にやりたいことは何だったんだろう?みたいな迷いや葛藤が歌詞にも込められていて、このアルバムの詩は暗いんだよね。でもそこがいいよね!」とオーケンが言えば、すぐさまオーディエンスは盛り上がる――そのあからさまな共犯関係が心地よい。「そこを乗り越えて何枚かすると『おサル音頭』(『UFOと恋人』収録)になる。そしてその次になると『レティクル座妄想』になって、躁と鬱が繰り返される」
そこで橘高がこう言った。
「結局最後は楽しいことしかなくなる」
なんと素敵な真理だろう。やり続けたロックバンドのご褒美はこれなんだなと妙に納得する。
「23の瞳」の演奏へ行こうとして、内田がまだベースを持っていないことに橘高が気づいて指摘すると、「前はもうちょっと(MC)を引っ張っていたよね」と内田が言ってのんびりベースを構える。ドラムのカウントが入り、グッと引き締まったアンサンブルがオーディエンスを魅了する。いい塩梅のバンドだなと改めて思わされる。
「電波Boogie」から「パノラマ島へ帰る」という音楽キャラ的に落差のある曲を、後者はオケをバックにオーケンのみでパフォーマンスするという手法を取り、両曲の違いを際立たせることでライブ仕様にアップグレードさせていたのが印象的だった。



再びメンバーが勢揃いし、ここでまた各楽曲の振り返りをしていった。『サーカス団パノラマ島へ帰る』のミックスとマスタリングはニューヨークのスタジオで行われた。「バブルだったんだよなー」とオーケンは当時を振り返る。そのときのエピソードとして、マンハッタンでメンバーの写真を撮っていたら、現地のニューヨーカーに「Are you LOUDNESS?」と聞かれたというネタみたいな話を披露した。
オーケンがアコギを弾きながらバンドとともに演奏するアコースティックセットの「航海の日」は、36年前にはなかった光景だ。続けてパフォーマンスした「また会えたらいいね」が終わると一度メンバーは捌けて、十分な間を空ける。三柴のピアノによる「お別れの日」が会場をしっとりと包むと、その余韻をぶち破るように「元祖 高木ブー伝説」のイントロが始まった。元々この曲はアルバムに収録する予定ではなかった、という事実もありつつ、だからブレイクを挟んで「お別れの日」も含めて「元祖 高木ブー伝説」を独立させるような形の構成にしたのだろうか――バンドの意図はわからない。しかし、この後に続く「くるくる少女」「君よ!俺で変われ!」「ディオネア・フューチャー」という『サーカス団パノラマ島へ帰る』以降に発表された楽曲のつなぎめに「元祖 高木ブー伝説」を持ってきて、つまりは筋肉少女帯が初めて世間に認知された曲からまた始めるという構成は、時が螺旋を描くような快感も味わえ、これしかないよなと思えた。
「全て意味があったよね。ロックっていうのは何かって言うと、さっきわかったんだけどね、生き様を見せるのがロックですよ。若い頃に訳もわからずにいろいろとやってきて、そういう連中が還暦を越えて今、満員のお客さまの前に立っている、この生き様が全てなんだよ。なんか生きてて大変だなとか思うところがある人もいるかもわからないけど、結果的にはいいことしかない――と、思わせるのが、ぼかぁロックだと思うんだよね」
アンコールの「サンフランシスコ」を聴きながら、そう言えばさっき何かオーケンがすごいグッとくること言ってたよなと思いつつ、今は思い出さないでただこの演奏に身を任せておこうと思った。
SET LIST
01. サーカスの来た日
02. ビッキー・ホリディの唄
03. 詩人オウムの世界
04. 労働者M
05. アメリカン・ショートヘアーの少年
06. 23の瞳
07. 電波Boogie
08. パノラマ島へ帰る
09. 航海の日
10. また会えたらいいね
11. お別れの日
12. 元祖 高木ブー伝説
13. くるくる少女
14. 君よ! 俺で変われ!
15. ディオネア・フューチャー
ENCORE
16. サンフランシスコ


















