
今年結成15周年を迎えたfox capture planが、結成から2021年までに発表したオリジナルアルバム10作品を、完全リマスタースペシャル盤として、自主レーベルCapturisM.より順次リリース。5月の第一弾に続いて、4thアルバム『BUTTERFLY』、5thアルバム『FRAGILE』、6thアルバム『UИTITLƎD』が7月22日に発売され、「Supersonic」、「エイジアン・ダンサー」、「Cross View」の新録バージョンは配信でもリリースされる。初期の3作でピアノトリオとしてのベーシックを築いたのち、ストリングスや電子音を取り入れてより強烈なオリジナリティを獲得するとともに、『カルテット』をきっかけにドラマや映画の劇伴を数多く手がけるようになるなど、現在の唯一無二のポジションを準備した非常に重要な時期について、メンバー3人に語ってもらった。
──2015年は1年に3枚アルバムをリリースしていて、4月に『UNDERGROUND』、7月に『COVERMIND』、そして、11月に4作目のアルバム『BUTTERFLY』を発表しました。
カワイ ヒデヒロ(Ba)foxとしての劇伴の仕事が初めて入ったのが2015年の4月クール(『ヤメゴク〜ヤクザやめて頂きます〜』)で、そのあとぐらいに『BUTTERFLY』のレコーディングをしたのかな。「Butterfly Effect」はレコーディングとPV撮影を1日で、今はなきスタジオグリーンバードでやって、その曲で初めてストリングスを入れました。ピアノトリオの編成で最初の3作を作ってきて、ここからは新たな何かが欲しかったので、ストリングスを入れたデモを作って、みんなに聴かせた気がします。
岸本 亮(Pf&Key)「Butterfly Effect」のデモを聴いて、すごく斬新だったんですよね。当時のクラブジャズとかポストロックのシーンだと、ギター、パーカッション、ホーンセクションがいるのはなんとなく想像がつくんだけど、ストリングスを使う時点でちょっと新しかったし、しかもバイオリン一人とかじゃなくて、カルテット編成で分厚いアンサンブルなのが新しかった。あと「Butterfly Effect」の曲自体がすごく、ポップスらしい構成と、強いメロディーラインを持っていて、聴いた瞬間にもう次のアルバムのメインになる曲だなと思ったのは覚えてますね。
井上 司(Dr)『ヤメゴク』の劇伴でバンドサウンドとストリングスを合わせたら、意外と自分らの音楽に合ってるのがわかって、そこから「次のアルバムはストリングスを入れよう」みたいな話が出てきて。そこからバンドの雰囲気が少しずつ変わっていったので、変革の時期というか、その始まりのアルバムっていう感じですかね。
──『ヤメゴク』の劇伴を担当したのはそもそもどういう経緯だったんですか?
カワイ僕がもともと制作会社と仕事をしてて、何かの作品の打ち上げがあったときに、「最近fox capture planっていうバンドをやってて、こっちでも劇伴がやりたい」みたいな話をしたら、「じゃあ、営業します」って言ってくれて。そうしたら、その2ヶ月後くらいには「取れました!」って、割と早かったんですよね。
岸本『trinity』、『BRIDGE』、『WALL』を聴いた堤幸彦監督が「これ面白いじゃん」みたいに思ってくれたみたいで。
カワイ「既存の劇伴作家じゃない人に頼みたい」というのがあったみたいです。それプラス、普通の劇伴も作れるっていうので多分引っかかったと思うんですけど。
──カワイさん個人ではすでに劇伴を手掛けられていたわけですけど、岸本さんと司さんは「バンドで劇伴をやる」ということに対してどう思いましたか?
カワイ最初はあんまりピンと来てなかったと思う。
岸本そうですね。「なんか面白そうだな」ぐらいの感じ。最初は慣れてないし、大変そうだなと思いましたけど。
井上でもいざやってみると、映像と混ざっていく形を目の当たりにして、世界が広がっていく感じがしました。
岸本初期3作品はピアノ、ウッドベース、ドラムで、他のゲストミュージシャンは入れずにやってたけど、そういう制約一切なしで音楽を作れたのが、ちょうどタイミング的に良かったんじゃないかなと思います。
──今でこそ割と普通だけど、当時はバンドが劇伴をやるのは珍しかったですよね。
カワイ珍しかったですね。僕らがやって、その何年か後ぐらいに周りのインストバンドもちょっとずつやり出す、みたいな流れはありましたけど。
──カワイさんは叔父さんが数多くの劇伴を手掛けられている作編曲家の川井憲次さんで、もともと劇伴仕事に興味があったわけですか?
カワイそうですね。もともとはバンドマンより劇伴作家を目指してたので。
──それが結果的にはfoxのオリジナリティにつながりましたよね。
カワイバンドだけをやってたらなかなか経験できない仕事の一個ではあると思うので、それを経験して、バンド活動に活かすことができたのはラッキーだなと。
──今回のリマスター盤の特徴である新録曲は「Butterfly Effect」ではなく「Supersonic」ですね。
カワイ「Butterfly Effect」のトリオバージョンはもう録ってあるので(『completeplan』に収録)、じゃあ別の曲にしようか、ぐらいの感じなんですけど。
岸本「Supersonic」は、「Butterfly Effect」みたいな人力ドラムンベースと、「疾走する閃光」みたいな速い四つ打ちロックの中間みたいなイメージで書いた曲かも。
カワイ「2026 NEW TAKE」は全般的にライブでやって育ってきた曲をもう一回録るみたいな感じになると思うので、「Supersonic」も割とライブバージョンに近いです。
井上録音はすぐに終わりましたね。ジャストすぎない感じもあるし、ライブアルバムに入ってそうな感じ。
──初期のピアノトリオ三部作がありつつ、そこにストリングスも入って、最初の完成形が『BUTTERFLY』でできた感じがしました。
岸本そうですね。いまだに特別なライブのときはストリングスをサポートに入れてやったりしますし。昔bohemianvoodooの木村イオリがライブの感想で言ってたんですけど、ピアノ、ドラム、ベースは音が減衰するのに対して、ストリングスは音が一直線に伸びるから、その対比がすごく面白いと。それはなるほどなと思って、だからサウンド的な相性がいいのかなと思いますね。
──2016年はアルバムのリリースはありませんが、Keishi Tanakaさんとのコラボや『color & monochrome 2』があり、フジロックや東京ジャズへの出演があったりと、活動自体はとても活発でした。そして、2017年の1月に5作目の『FRAGILE』がリリースされています。
井上『BUTTERFLY』のツアー中かツアーが終わった後くらいに、大分でリハと本番の間に3人でフラフラしてたんですよね。そのときに「『BUTTERFLY』でストリングスをやって、次のアルバムは何をやったらいいかな?」みたいな話をしてたのはめっちゃ覚えてる。
岸本さっきも言いましたけど、ギター、パーカッション、ホーンセクションとかはいろんな人がやってるから、それ以外で考えたときに、初期から人力ドラムンベースや人力ダブステップをやってたり、みんな打ち込みの音楽も好きで聴いてたので、そっち系が相性いいんじゃないかなと思って。それでサウンドコンセプト的に「電子音」とか「シンセサイザー」っていうキーワードが出てきてた気がします。
──「エレクトロニカ」とか。
岸本でもベーシックは生のベースとドラムで、メロディーも基本はピアノ主体でやったら、今までの音楽性を継続しながら、新しい聴かせ方ができるんじゃないかなって。「変化しないといけない」みたいな気持ちが、今以上にあったかもしれないですね。
──前回の取材でロバート・グラスパーの話をしましたけど、この頃になると日本でもその影響を受けた、ジャズとヒップホップ混ぜたようなアーティストも増えてきた中で、foxはそこでもなく、また違うところに行った印象を受けました。
カワイ「クリス・デイヴっぽいドラムはあえてやらないようにしよう」みたいな話はしてた気がする。
岸本単純に向き不向きもあるかもしれないですけど、より違うアプローチでっていう風に考えてました。
──その一方で、イギリスからはゴーゴー・ペンギンが出てきたりして。
カワイゴーゴー・ペンギンとは対談したことあるよね(「JAZZ JAPAN」2018年4月号掲載)。
岸本ゴーゴー・ペンギンは初めて聴いたときに衝撃的でしたね。音源のミックス感というか、アンビエント感というか。対談したときにE.S.T.にすごく影響を受けたと言ってましたけど、音作りの緻密さがすごくて、これは日本人の感覚とは全然違うなと思ったのを覚えてます。そういうのもあって、より自分たちならではのオリジナリティを意識していた時代かもしれない。
カワイ当時はまだ変拍子とかを意識的にやってた時期で、「これに電子音を入れたらどうなんだろう?」みたいな、『FRAGILE』はちょっと実験的な曲が多い印象なんですよね。 2016年にKeishiくんとかとコラボしつつ、曲の構想を一年ゆっくり練れたのが大きかったのかなと思います。「作って、寝かせて」みたいなことをじっくりやれた。
──この時期は並行して『カルテット』の劇伴を制作していたことも重要で。それがアコースティックな雰囲気だったから、『FRAGILE』はそことの対比もあっての電子音、みたいな感じもありましたよね。
カワイ『カルテット』は「逆にストリングスを使わない」みたいな作品で。
──ドラマ自体が弦楽四重奏のドラマだから、劇伴だけどストリングスは使わない。
カワイなので木管楽器の四重奏にしたりして、でもそっちで電子楽器は使わなかったからこそ、『FRAGILE』でやったら面白いんじゃないかっていうのはあった。
岸本『FRAGILE』と『カルテット』のサントラはかなり対極かも。自分たちのオリジナルではストリングスや電子音を使って、『カルテット』ではストリングス以外の生楽器をいろいろ使うっていう、そこは対比になってますね。『カルテット』は我々としては劇伴の2作目なんですけど、やっぱりあの経験があるから、いまだに指名していただくことが多いのかなと思います。2作目でいきなりストリングス封印っていう、変わった作品ではあったけど、それもいい経験になりました。
井上『カルテット』の劇伴でさらにいろんな人に広がったし、僕も『カルテット』のサントラぐらいからちゃんと楽器を使って曲を作るようになって、作曲の楽しさがやっとわかってきた時期ですね。打ち込みの曲とか作り溜めてたり。
カワイつかっちゃんはミュージックビデオ(「Prospect Park」)でパンこねてたよね(笑)。
井上2017年の初仕事があれでした(笑)。『FRAGILE』のときはMVを3人の監督にお願いして、三者三様の、今までにない試みをやったんですよね。
岸本アートワークも実写は初めてかな。
井上確かに、あのライトは実際に作って、それを撮影していて。
カワイライブ会場に飾ったりしてたもんね。
岸本アートワークのミーティングをしたら、アートディレクターの須田(悠)さんが前のめりで「これをやりたい」って、アイデアを出してきたのを覚えてます。
──新しいサウンド感とイメージ的にもすごく連動していて、印象的なアートワークでしたよね。新録は「エイジアン・ダンサー」で、オリジナルから大きく変わっています。
岸本「エイジアン・ダンサー」はライブで尺を短くしてやることも多かったので、そのイメージです。あとはストリングスのラインをシンセサイザーで表現してみました。レコーディングで電子音を入れるときはあらかじめ入れて、それを聴きながら演奏することが多いんですけど、今回は先にトリオだけで一回組み立ててから、後でダビングで、アフタープロダクション的に入れていて、シンセは3〜4種類くらい重ねてるので、オリジナルより電子音が強調されてる方向になってますね。最初エンジニアにダビングデータを渡して、電子音が入ってないミックスが上がってきて、それでも十分成立してる感じもあったので、ライブ感もちゃんと表現できたと思います。
井上オリジナル版とはフィルとかも結構変わってたり、いろいろ変えてます。オリジナルのときはデジタルっぽさとか打ち込みっぽさを意識してレコーディングしてるんですけど、今回はだいぶ生っぽいので、全然違う雰囲気でやりました。
岸本つかっちゃんのドラムのアプローチがその当時と今とで変わってるのは、時代性もあるのかもしれないですね。この10年くらいでテクニカルなドラマーとかアプローチが増えてきた気がするけど、あえてシンプルに叩くっていうのは、そういう時代的な背景を無意識で反映させてるのかなって。
──ドラムンベースも2010年代前半〜中盤は割と珍しかった気がするけど、2020年代に入ってまた流行ってきて、めっちゃやる人増えましたよね。
カワイドラムンベースとかツーステップとか、最近みんな使うようになった。
岸本若い人がやってるイメージがありますね。
──そこを当時からやってたのは、やっぱり他とは違うものを、自分たちらしいものを常に探していたことの一つの表れかもしれない。
岸本それはもうファーストアルバムから、コンセプトとしてずっとあるというか、音楽性の斬新さと、印象的なメロディーを共存させる曲っていうのは、今も一貫して意識していることですね。










