BONNIE PINK、デビュー30周年記念日当日に開催した「30th Anniversary LIVE “Grand Kitchen”」をレポート

ライブレポート | 2025.10.07 18:00

BONNIE PINK 30th Anniversary LIVE “Grand Kitchen”
2025年9月21日(日)LINE CUBE SHIBUYA[渋谷公会堂]
ゲストミュージシャン:鈴⽊正人(Bass) / 奥野真哉(Keyboards) / 八橋義幸(Guitars) / 白根賢一(Drums) / 真城めぐみ(Chorus)

BONNIE PINKが9月21日(日)にLINE CUBE SHIBUYAで行なった「30th Anniversary LIVE “Grand Kitchen”」。Grand Kitchenというワードからは洋食から和食まで幅広いジャンルのメニューが開放的な空間に取り揃えられている様子をイメージすることができるが、このライブもBONNIEが30年の間に世に送り出してきた色とりどりの曲が取り揃えられたものだった。その並びにルールや法則はなく、いろんな時代の曲、いろんなタイプの曲を我々は美味しく食することができた。20年前の曲も30年前の曲も今の調理の仕方で出され、どれも新鮮だった。このライブの時点ではまだ配信されていなかったホヤホヤの新曲もふるまわれた。そうしてBONNIE PINKの過去と現在がGrand Kitchenでひとつになった。

バンドメンバーによるエレクトロ味とサイケデリック味の混ざったスケール感ありの音が会場に広がるなか、水色のチュールのガウンを纏い、手にはマジシャンのスティックのようなものを持って王冠を被ったBONNIEがステージに登場。オープナーはファンの間で最高傑作と言われる2009年作品『ONE』に収録された「Rock You Till the Dawn」で、スティックを回しながら彼女は歌った。始まりにこの曲をもってくることを予測した人は恐らくひとりもいなかっただろう。続いてアンコールで歌われることも多い2008年のシングル曲「鐘を鳴らして」。この夜のBONNIE、声の出力も伸びもとてもいい。始まり方も彼女のライブにしてはショーアップされていて、このライブがスペシャルなものであることが伝わってくる。

「こんばんは、BONNIE PINKです! 9月で30周年を迎えました。ありがとう。今日はその30年の感謝の気持ちを1曲1曲に込めてみんなに届けたいと思って、気合いを入れてまいりました。ちょっと長いけどたっぷりやりますので、最後まで楽しんでいってください」と、2曲を終えてまずは挨拶。続けて「今日は水色のいでたちで来たんですけど、私はよくミュージックビデオで水攻めに遭うんですよ(笑)。水に降られるとか浸されるとかが多くて。だからここからは水にまつわる曲を何曲か聞いてもらおうと思います」と話し、「So Wonderful」「冷たい雨」「Tonight, the Night」と3曲続けて歌唱。確かに雨や水にまつわる曲(とMV)が彼女には多く、晴れやかな空を歌った大ヒット曲「A Perfect Sky」のMVも水に浸ってのものだったことを思い出す。アコギを弾いて歌った「Tonight, the Night」の伸びやかなファルセットがホール全体に広がっていった。

「30年分の中から選曲を考えるのに苦労したんですけど、次は2年前に出したアルバムのタイトル曲を聴いてもらいたいと思います」。そう言って次に歌われたのは、2年前に発表した最新アルバムの表題曲「Infinity」だ。この曲は彼女が子育てをするなかで「子供には無限の可能性がある」ことを実感し、そのことに励まされながら作った曲であり、「自分に制限をかけずにもう一度音楽をやっていこう」との思いをそこに伴わせていた曲。ここでのBONNIEの“みなぎる無限愛”が表出した歌唱に胸をうたれた。とりわけ大きな拍手が起きていたのもそういうことだろう。そして7曲目は「カイト」。「Infinity」と続けて歌われたことでハッとしたのだが、そう、この曲も「無限の可能性」が歌われた曲だった。

「BONNIE PINKのイメージって、みなさんどんな感じなんでしょうかね。初期はピアノで書いた曲が多かったし、途中からはギターで書いた曲ばっかりになったりしましたけど。本当は私、ダンスミュージックでデビューしたかったんですよ。そう見えないかもしれないけど、私の根本には踊りたいという欲求があって。だけどプロデューサーさんにとめられたんです(笑)。今は踊りながら歌う人がすごく増えて、羨ましいなと思って見てたりするんですけどね。なので、ここからはダンサブルな曲を何曲かやってみようと思います」と、そんな話をするBONNIE。大学生の頃にレニー・クラヴィッツの来日公演を観に行った際、2階席後方で曲に合わせて踊りまくっていたらレニーがステージからそれを見つけ、スタッフを通して楽屋に呼ばれた……というのはわりと知られたデビュー前の彼女の逸話だが、そんなことも思い出しながら観ていると、「おおっ!」となるようなカヴァー曲の演奏が始まった。マイケル・ジャクソンの「Black or White」だ。ここ数年のライブでBONNIEは毎回、かつて夢中で聴いていた80年代あたりの洋楽曲を1曲カヴァーし、今年4月のライブではジャネット・ジャクソンの「Escapade」を取り上げていたものだったが、今回はその兄の曲。ヒッヒ~っとMJばりのファルセットも出しながら激しめにダンスして歌い、中盤ではラップも。「こんな一面もあったのか?!」と思った人もきっといたことだろう。

ダンス曲繋がりで次に演奏されたのは、曲紹介こそされなかったが、「こんな曲もやっちゃうんだ?!」という驚きのある曲だった。1995年のデビューアルバム『Blue Jam』に収録されていた「Too Young To Stop Loving」だ。真城めぐみのソウルフルなコーラスが曲に広がりを与える。これ、まさしく30年前の曲だが、その曲の持つファンキー成分を生かしたまま今にアップデートさせていて、かなりかっこいい。この曲の途中でメンバー紹介もあり、名前を呼ばれたミュージシャンたちは軽くソロを披露しながら曲を展開させていった。続いての「スキKILLER」では、ギターの八橋義幸とベースの鈴木正人とBONNIEが70年代のディスコ曲のように揃ってステップを踏んだりも。さらに2006年公開の映画『嫌われ松子の一生』のテーマソング(この映画でBONNIEは映画初出演を果たした)「LOVE IS BUBBLE」が続いて大きく盛り上がり、このライブの最初のピークが訪れた。

「久しぶりのダンシング・タイム、どうでしたか? 汗かきましたか、みなさん」とBONNIE。そして「30年、あっという間に経ってしまいましたけど、最初の頃は“作曲って何?”みたいな感じで何もわかっていなくて。鼻歌から曲に仕上げる日々でしたけど、でも何も考えてなかったことが面白さを生み出したり、あの頃のナイーブさが出ていた曲もあったなと思って。今からそんな古い曲を聴いてもらおうと思います」と話し、ここからは赤毛だった初期の曲がメドレーで演奏された。まずはピアノバラード「Evil And Flowers」。BONNIEのアルバムのなかで一番好きだという人も少なくない1998年発表の3rdアルバムの表題曲だ。続いて1997年の2ndアルバム『Heaven’s Kitchen』収録の「Mad Afternoon」と、同作収録の「It’s gonna rain!」。この曲の終わりで一旦BONNIEがステージをはける。その間、バンドがインストゥルメンタルで「Forget Me Not」と「Do You Crash?」を演奏し、次の名曲「金魚」のイントロが始まったところで衣装チェンジをしたBONNIEが再びステージに現れた。観客たちはここでこの日一番の驚きの声をあげた。なぜなら彼女の髪の色がデビュー当時を思わせる鮮やかな赤だったからだ。赤毛に白いフリルのブラウスと赤いパンツ。昔のテレビの歌番組での衣装を再現する格好でそこに現われ、3rdアルバムからのシングル曲「金魚」、続いてそれと近い時期のシングル「犬と月」を歌うBONNIE。どちらも屈指の名曲であり、あの時代に彼女の歌を熱心に聴いていたファンにとって、これはたまらないものがあったはずだ。

その2曲を歌い終えると「赤BONNIE、いかがですか? 懐かしい感じ? 今日のためだけに、はりきって昨日染めてまいりました。やってみたら意外とまわりのみんなから“違和感ないね”って言われて(笑)」と彼女。客席から「かわいい!」と声が飛ぶと、「ほんと? 大丈夫? 無理してるって思われたらどうしようって思ったんだけど」と嬉しそうに応えていたが、実際のところ違和感など少しもなく、25年振りの赤毛だというのが信じられないくらいだった。そして「じゃあここで、みなさん参加型のコーナーをやってみようかなと思うんですけど。みなさんの携帯のライトのキラキラに包まれて歌いたいという願望があって……」と言うと、観客みんながそれに応えて携帯のライトを。「あ、最高です! 星空みたい。次の曲はこの景色がぴったりだと思うんです」と言って、これも名曲中の名曲である「流れ星」を。ここで彼女はステージの階段を下りて、歌いながら客席の通路をゆっくり歩きだした。ハイタッチを求めるファンのひとりひとりに応えながら、「私の星はこのレールの先にあるんだ」とその曲の歌詞を丁寧に歌うBONNIE。この幸福な瞬間は星のように急いで流れていくものかもしれないけれど、今こうして携帯のライトをつけている観客たちが確かに笑顔でここにいるという事実が、30年歌ってきた彼女にとってのひとつの答えなんじゃないかと、そんなふうに思ったりもした。

続いて「流れ星」同様2010年の11作目『Dear Diary』に収録された「Morning Glory」を歌い終えると、「大切な曲を今から歌います。新曲を!」とBONNIE。それは10月6日から放送開始となるアニメ『暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが』のEDテーマソングとして書き下ろされた曲で、タイトルは「Like Gravity」。これぞBONNIE節といったメロディ展開でありながらエレクトロをまぶした無重力サウンドは完全に“2025年もの”で、昔と今が線で繋がったような感覚もそこにはあった。30周年記念ライブをただの集大成とするのではなく、新曲初披露で“ここから”の意志も表わす。それはBONNIEの拘りであり、矜持でもあったかもしれない。

「光るアスファルトのように 強く新しくなるよ」と歌われる「Change」、そしてみんなが知っている大ヒット曲の「A Perfect Sky」と「Heaven’s Kitchen」を続けて歌って本編が終了。「A Perfect Sky」の高い声はまさしく空に向かって伸びていくようだったし、「Heaven’s Kitchen」のボーカルは当時と変わらぬパワフルなもので、彼女がシンガーとして今、非常にいい状態にあることがよくわかった。子育てなどでしばらく音楽活動を休んでいた時期もあったが、この数年でまた精力的にライブ活動を行なうようになり、今はここからの新章に気持ちが向かっているんだなと、そうも思わせるボーカルの充実度合いだった。

鳴り止まない拍手に応えてのアンコール。彼女はこう話した。「30年、あっという間だったかなと思ったけど、やっぱり私にもいろんな時代があって。度胸のない私がいつまで続けられるのか全然わかってなかったけど、気づいたらここまでこれました。みんなに笑顔で見守ってもらって、それが私のパワーになって続けてこたれんだなと、さっき客席を回って歌いながら感謝の気持ちが湧き出てきました。だからもう少し歌っていこうかなと思っています。BONNIE PINKはまだまだ終わりません。これからもよろしくお願いします」。そして、これも大名曲の「Last Kiss」、最後の最後に「Private Laughter」。インストゥルメンタル2曲を含んだ全20曲、計2時間10分の“Grand Kitchen”。それは特別感のあるセットリスト、ハイクオリティのパフォーマンス、最高のバンドアンサンブル、そしてこれまでの思いとここからに対する意欲も合わさった素晴らしいライブだった。ここからのBONNIEの表現がますます楽しみになった。

SET LIST

01. Rock You Till the Dawn
02. 鐘を鳴らして
03. So Wonderful
04. 冷たい雨
05. Tonight, the Night
06. Infinity
07. カイト
08. Black or White
09. Too Young To Stop Loving
10. スキKILLER
11. LOVE IS BUBBLE
12. 赤毛時代メドレー[Evil And Flowers / Mad Afternoon / It’s gonna rain! / Forget Me Not / Do You Crash? / 金魚 / 犬と月]
13. 流れ星
14. Morning Glory
15. Like Gravity
16. Change
17. A Perfect Sky
18. Heaven's Kitchen

ENCORE
01. Last Kiss
02. Private Laughter

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