兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第190回[2025年7月後半・GRAPEVINE、女王蜂、クリープハイプ等の7本を観ました]編

コラム | 2025.08.19 17:00

イラスト:河井克夫

音楽などのライターである兵庫慎司が、自分が観たすべてのライブのレポを、半月に一回書いてアップしていく連載の190回目=2025年7月後半編です。3年ぶりに、フジロックに、行きませんでした!とにかくもうそれに尽きる7月後半でした。

7月19日(土)18:00 ROTH BART BARON @ Spotify O-EAST

毎年恒例の、言わばROTH BART BARONのワンマン・フェス=『BEAR NIGHT』。2022年の日比谷野外大音楽堂と、2024年のLINE CUBE SHIBUYAは、DI:GA ONLINEにレポを書きました。今年は、ぴあ音楽に書きました。
ROTH BART BARON『BEAR NIGHT 2025』、Hana Hope、吉澤嘉代子らゲストと共に音楽の森を創造
なお、2022年と2024年のレポはこちら。
2022年 ≫ ROTH BART BARON「日比谷でやれて本当によかった、来てくれてありがとう!」 月明かりの中、歓喜の余韻を残し終演
2024年 ≫ ROTH BART BARON、今年も豪華ゲストを招き「BEAR NIGHT 5」開催!過去最大規模の動員を記録し、真夏の夜を彩る

7月20日(日)15:00 『LOVE SOFA SHIMOKITAZAWA』 @ 下北沢ADRIFT

今年で25周年の、Sundayカミデが大阪で続けているイベント『LOVE SOFA』、近年は東京でも行われている。あいにくいつもタイミングが合わなかったが、今回は直前に「あ、行ける日だ!」と気がついて、初めて足を運ぶことができた。会場は、2021年に下北線路街にできた、広くてきれいなハコ、ADRIFT。
UEBO、DJやついいちろう、TENSAI BAND BEYOND、TOKYO No.1 SOUL SET(アコースティックセット)、ワンダフルボーイズが出演。それらの間をDJ陣=松田“CHABE”岳二、アチャコプリーズ、アツムワンダフル、櫻井喜次郎、toyoboowyがつなぐ、というラインナップだった。
「自分の曲である『トロピカル源氏』をかけて、お客が盛り上がってない!と怒って曲を止めて説教してやり直す」という、もう何回観たかわからないお約束のムーブで、こんなに大笑いさせられるんだから、やっぱりやついいちろうってすごいんだな、と、改めて思ったり。
この日が、今年初めてのライブだったという、ボーカル&ギター奇妙礼太郎、ベースSundayカミデ、ドラム松浦大樹のTENSAI BAND BEYONDが、演奏も歌もトークも、相変わらず才能爆発しまくりだったり(「ピアノの音が出なくなった」というトラブルひとつで、あんなに笑いを取れる人たちは他にいないと思う)。
川辺ヒロシの代わりに三星章絋が参加した、アコースティック編成のTOKYO No.1 SOUL SETを観たの、自分は初めてだったので、とても新鮮だったり。
トリのワンダフルボーイズ、その演奏にも、Sundayカミデの歌にも、パフォーマンスそのものにも、陽性のパワーが満ちあふれているさまに圧倒されて、「音楽ってこういうものであるべきよね」とかいうようなことまで考えたり。
そんな楽しい時間でした。

7月21日(月・祝)17:00 GRAPEVINE @ 横浜Bay Hall

ニューアルバム『あの道から遠くはなれて』(略称アミーチー)のリリース・ツアーの横浜公演。横浜でのワンマンは9年ぶり、と、1曲目に入る前に田中和将が明かした。
『アミーチー』の曲を、生でたっぷり聴けることを楽しみにしていたので、10曲全部やってくれてうれしい限り。そして……あ、そうか、このツアー、日程が前編と後編になっていて、この横浜Bay Hallまでの11本が前編で、1ヵ月空いて、後編が5本、あと「extra show」として、日比谷野音(東京)・日本特殊陶業市民会館(名古屋)・大阪城音楽堂(大阪)もあるんだった。
じゃあセットリスト、あんまりネタバレしちゃまずいか。じゃあ、えーと、そうね、『アミーチー』からの曲も、それ以外の曲も、いちいち最高だったけど、『アミーチー』の中でも自分が特に好きなあの曲、なかなかやらないな、いつやるんだろう、と思いながら観ていたら、本編最後に配置されていて、「うわあ、きたあ!ここかあ!」と、それはもうテンションが上がりました。ということぐらいにしときます、書くのは。8月30日(土)の日比谷野音も行く予定。

7月23日(水) 19:00 女王蜂 @ ガーデンシアター(有明)

「女王蜂単独公演『強火』」と題されたアリーナ・ライブ。このDI:GA ONLINEにレポを書きました。
女王蜂、予想を超えたセットリストと美しいステージ演出で魅せた東京ガーデンシアター

7月24日(木)18:30 クリープハイプ @ 日本武道館

ニューアルバムを出して、その全国ツアーが終わったあとで、福岡・東京・名古屋・大阪を回った「クリープハイプ アリーナツアー2025『真っ直ぐ行ったら愛に着く』」のファイナルの日。
東京公演は、6月12・13日と7月23・24日の日本武道館4デイズでした。当然のように完売。すごいね。4日とも平日だし。
で、女王蜂と2日続けて観たもんで、その2バンドに共通点があることを、観ながら感じた。
ファンにとって「このバンドじゃなきゃダメ」な存在である、ということだ。「女王蜂は好きなバンドのひとつ」とか、「AもBも好きでクリープハイプも好き」とかじゃなくて、「女王蜂じゃなきゃダメ」「クリープハイプ以外にはいない、他と置き換えが効かない」。という関係性を、ファンと築いているように見えるのである。ものすごい信頼。
アメリカやイギリスの大物アーティストが来日して、東京ドームでライブをやったりすると、芸能人とか有名人とかがいっぱい観に来て、そのさまがカメラに抜かれたりするじゃないですか(10月のOASISもそうなるだろうな)。ああいうような「話題だから観に来ました」みたいな感じとは、対極に位置するファンが集まっている、というか。
ざっくり言うと、「売れる」ということは、薄い人まで巻き込める、そういう力を楽曲が(あるいは本人たちが)持つ、ということだ。ファンでいるのはこの1曲だけかもしれないし、この1年だけかもしれない、みたいな層まで引きつける、イコール「売れる」、という。
が、この2バンドは、その逆のことをやっている。で、東京ガーデンシアターとか、日本武道館4デイズとかいう規模になっても、その「関係性の濃さ」を、維持している……いや、「維持」じゃないな、どちらも。その濃さをキープしているんじゃなくて、規模が大きくなるのと比例して、さらに濃く、さらに強くしながら、現在に至っているので。
というようなことを考えながら、23曲を堪能しました。あと、12曲目と13曲目、「百八円の恋」と「ナイトオンザプラネット」、自分の大好きな2曲が続いたところが、特にうれしかった。どっちも映画の曲。

7月26日(土)15:00新日本プロレス『G1 CLIMAX 35』 @ 大田区総合体育館

今年は、3年ぶりに、フジロックに行かないことに決めた。そして、フジのAMAZONプライムの配信、とにかく観ないぞ!ということも、決めた。観たら「ああああ!悔しい!行けばよかったあ!」と、精神が乱れまくること必至だから。どうしてもがまんできない場合は、最終日=27日の夕方以降の「今から行こうとしても間に合いません」という時間になってからのみ、観ることを許す。というルールを己に課した。
で、「そうだ、フジの1日目と2日目はこれがあるじゃないか!行こう!」ということにしたのが、これです。大田区総合体育館、新日本プロレスが毎年夏に行っている『G1 CLIMAX』全19日の日程のうちの、5日目と6日目。6日目の方=土曜に足を運んだ。
全部で9試合のうち、後半の4試合が『G1 CLIMAX』のBブロックの公式戦。その第7試合=エル・ファンタズモvsザック・セイバー・Jrと、第9試合=鷹木信悟 vs KONOSUKE TAKESHITAが、名勝負だった!ザックが変形ドラゴンスリーパーでファンタズモからギブアップを奪った試合と、TAKESHITAが変形チキンウィングフェイスロックで鷹木を捕らえ、レフェリーストップで勝った試合である。
特に後者、「おおっ!」とか「うわあ!」とか声を挙げながら観戦していて、どうもメガネが曇るなと思ったら、滂沱の涙を流していました、無意識のうちに。
ファンの多くがそう思っているだろうが、今年のG1の優勝者は、KONOSUKE TAKESHITAだと僕は読んでいる。あらゆる意味で、今年はこの人が優勝なのが、新日にとっても、お客にとってもジャストなので。そう思いながら観ているのに、泣いちゃう、という。つくづく、来てよかったです。
あと、第1試合の前に、7月24日に亡くなったハルク・ホーガンを偲んで、追悼セレモニーが行われた。棚橋弘至社長とホーガンの写真を持った元レフェリーのタイガー服部(ホーガンと親交があった)がリングに上がり、他のレスラーたちはリングを囲む形で、お客さんもみんな立ち上がって、10カウント・ゴングを聴きながら黙祷した。
なお、フジロックは、3日目の夕方を過ぎてから、AMAZONプライムで観ました。
※追記:8月17日(日)有明アリーナで、新日本プロレス「G1 CLIMAX 35」の決勝戦が行われ、KONOSUKE TAKESHITAが優勝しました。

7月31日(木)19:00 板歯目 @ 新代田FEVER

福岡・高松・宮城・大阪・名古屋・東京を回るツアー(で、大阪と東京はワンマン)のファイナル。本人たちも「FEVERがソールドアウトするとは」と驚くほどの超満員。
「今のロックの歌詞ってこういうもの」というフォーマットとか前提とかにのっからず、言いたいことを言いたい言い方で言いたいように言っている歌詞がいい。3人それぞれのプレイがいい。それらが合わさった時の傍若無人なグルーヴがいい。などなど魅力満載だが、この日はギターとベース(サポート)とドラムの3人とも、楽器の音の良さが際立っているバンドなんだ、ということに、改めて気がついた。
同じギターで、同じエフェクターをかまして、同じ音色に設定しても、同じドラムで同じチューニングにしてあっても、弾く人、叩く人によって、全然違う音が出るもんじゃないですか、楽器って。という意味で、3人が3人とも「己の楽器からものすごい音を出す能力」が異様に高い、と感じた。特にライブだと、まずそれにやられるなあ、という味わい方をしました。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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