インタビュー:翡翠
シンガー・ソングライターのkainatsuが11月19日に、デビュー10周年を記念したライブ「kainatsu 10th anniversary LIVE『きょうの私でうたう歌』」を品川プリンスホテル クラブeXで行う。ギターの田口慎二、ベースの堀越武志、ドラムの小宮山純平とおなじみのメンバーに、新たにバイオリンの三国茉莉を加え、節目を祝う。「みんなとお祝いしたい!」と話す記念ライブのこと、そして10年の歩みの中で見えたもの、今後について聞いた。
10周年イヤーに突入することをきっかけに、月に1回、ライブをすることを決めました。実は、10周年に向けて自分への試練でもあったんです。
──11月8日にデビュー10周年を迎えられますね。
はい。2015年4月に子どもを産み、産休をいただいていたのですが、昨年11月に10周年イヤーに突入することをきっかけに、月に1回、カウントダウンの意味も込めて下北沢にある「Com.cafe 音倉」で第2土曜日にライブをすることを決めました。実は、10周年に向けて自分への試練でもあったんです。産休の間は、音楽から少し離れていたので、「またステージに立つ覚悟があるのか」「なぜステージに立つのか」など、再開前は自問自答しました。毎月違うコンセプトで見せることも試練の一つ。一緒にステージに立ってみたい人には、自分で声をかけるなど、企画やブッキングも自分でやっていました。月に1度って、意外にすぐに来てしまうので、準備に追われていましたね。
──これまでのマンスリーライブはどんな内容で行っていたのでしょうか。
歌はもちろんですが、絵本を朗読をしたり、ファンの人に「理想のセットリスト」を募って、希望通りに再現したり。普段はライブをする私以外の人は知らない曲順を知っている人が客席にいるということは不思議な体験でしたし、自分の気持ちだけではなくて、その曲を選んだ方の思いを乗せて歌うことは緊張しました。仲良しの(タイナカ)彩智ちゃんとは、2014年から続けているパノラマライブ(360°ステージ)もやりました。毎月、頭に描いたものを再現していて、その集大成が11月19日の品川です。マンスリーライブは基本的にアコースティック編成でしたが、品川は10周年をお祝いするパーティーにしたいと、バンド編成でステージに立ちます。田口さんなど家族のような仲間、そして茉莉ちゃんとは初めて共演するので、どんな化学反応が起こるのか楽しみです。
──その中で発見したことはありましたか。
インディーズ時代に出した2枚のミニアルバム「夕暮れワルツ」(05年)、「ソラシド」(06年)から、今までの曲を聴き直して、中学時代の自分が持っていた思いと向き合いました。実は幼い頃から、意味もなく不安な気持ちになることが多くて、1日が終わることも寂しくて泣いてしまうような子どもだったんです。学校には友だちもいましたし、思春期には彼氏もできて、孤立するようなことはなかったけれど、心の中にある寂しさをいつも埋めることができなかった。そして中学生の時、私は人に自分の気持ちを伝えることが苦手な人間なんだって気がついたのですが、殻を破ることも難しくて。言えなかった思いを、ノートに書きとめるようになったんです。ノートに向かったのは、小学生の低学年頃からの活字病だったことが要因かなぁと思います。自宅にあった「日本文学全集」を持ち出して通学の合間に読んだり、小説の中の主人公に自分の気持ちを重ねて、孤独感をほぐしたりしていましたから。
今も本は大好き。江國香織さん、吉本ばななさんなど女性作家の作品が好きですね。女性の作家さんの作品は、ほわっとしているけれどすごいことを書いていたり。いきなり切り裂かれるような展開になったり。江國さんが作品の中で使う擬音も好きです。私の曲にも擬音が出てくるのですが、これは江国さんの影響です。寂しいという感情を、心がさわさわすると表現したり。詩的な表現が好きですね。
10周年を迎えるにあたり、積み重ねを振り返る。