首振りDolls———。
彼らの音を知って、そこに可能性と未来を感じるまで、全く時間を要さなかった。それは、説明のつくものではなく、とても感覚的であり直感的なもの。きっと彼らの音を聴き、ライヴを観れば誰もが間違いなく、このストンと堕ちた感覚を共有するのではないかと言い切れるほど、それは、すばらしく生々しい感情が乗った、血の通ったロックン・ロールだ。
今年の4月にキングレコードからアルバム『真夜中の徘徊者~ミッドナイトランブラー』でメジャーデビューを果たした彼らは、北九州出身北九州在住のロックン・ロールバンドである。九州といえば、1970年代から1980年代にかけて福岡市などを中心に勃興した『めんたいロック』と呼ばれ、日本の音楽シーンに本格的なロックを根付かせるきっかけとなったロックムーブメントを巻き起こした、いわばロックの聖地。幼い頃から自然とその土地に根付いたロックを聴いて育った彼らの音は、それを遺伝子レベルで受け継ぎ、そこを原点としながら各自が貪欲に音楽を掘り下げていったのだろう他にはない音楽への特有のリスペクトと“此処にしかない個性”を感じさせるのだ。
首振りDollsのメンバーは、ハードコアやロックン・ロール、昭和歌謡をルーツとし、寺山修司、江戸川乱歩、夢野久作を愛読する文学青年でもあるメインコンポーザーとして楽曲と歌詞を手掛けるドラムボーカル担当のnaoと、KISSやAC/DC、AEROSMITH 、New York Dolls やグラム・ロックをルーツとして上げ、そこへのリスペクトを感じさせるいなたく奥行きのあるギターサウンドを響かせるギタリストのJohnny Diamondと、洋楽のハード・ロックやヘヴィ・メタルがルーツであると聞いて納得のスキルと緻密な運指で華やかにサウンドを彩るベースのJohnだ。(※12日のワンマンライヴはサポートギターとしてRakuカワサキとVJを担当したTRASH ART WORKSが参加)
近年、“ミクスチャー”という都合のいい言葉に乗っかり、同期で塗りつぶされ生のバンドサウンドが掻き消されてしまっている音楽が数多くシーンに溢れることを少し残念の思っていた中で、彼らの音は実に生々しく、ロック特有の如何わしさを、これ見よがしに見せつけてくるのである。
2018年10月12日。彼らは大阪FANDANGOで、5月に行われていたメジャーアルバムを引っ提げた全国ツアー『MIDNIGHT COLORS -真夜中の極彩夢-』の追加公演を行った。
ここ、大阪FANDANGOは、彼らが大阪でライヴができるようになるきっかけを作ってくれた場所でもあるという。九州バンドの首振りDollsが活動を始めたばかりの頃から、その音楽性の高さと音楽に対する真っ直ぐな想いを高く買い、積極的に受け入れてくれていたのが、大阪FANDANGOだったのだという。
そんな思い入れの強いハコだったこともあり、メジャーデビューツアーには真っ先に組み込みたかったのだというが、京都磔磔でのワンマンが先にフィックスした流れから、泣く泣く外すことになってしまったのだとか。しかし、大阪の地から追加公演を希望する多くの声が上がっていたことや、彼ら的にもメジャーデビューを果たしたこのタイミングで、どうしても実現させたかった特別な場所であったことから、今回、追加公演という形で大阪FANDANGOに帰ってきたのである。そう。彼らにとっては1つの恩返しの形だったのだろう。
オープニングSEであるThe Zanies の「The Mad Scientist」が会場に響きわたると、下手にある階段からメンバーが勢い良くステージに流れ込んだ。
JohnnyとJohnがステージの定位置に付き、ステージから身を乗り出してオーディエンスを煽り、フロアの温度を高めていった次の瞬間、ファンから贈られた大きな薔薇の花束を胸に抱えたnaoが、いつもの香水の香りを漂わせながらゆっくりと階段を降り、ステージ中央にセッティングされたドラムセットの前に腰を下ろした。フロアに残された残り香がオーディエンスを欲情させる中、naoのシャウトと力強いドラミングから1曲目に選ばれていた「ティーネイジ」が放たれた。
インディーズアルバムのオープニングを飾っていたこの曲は、激しくいなたいロックン・ロールナンバーだ。サウンドに絡み付く渦を巻くような極彩色のVJが毒々しくメンバーを包み込み、いつも以上に色濃く提示された首振りDollsの世界観がオーディエンスをロックン・ロールSHOWへと誘った。
「始めるぞ、大阪っ!」(nao)
naoの叫びと畳み掛けられるドラムから、曲は「金輪罪」へと繋げられていった。怨念をも感じる狂気が実に上手くサウンドに落とし込まれた攻め曲に、オーディエンスは力強い拳を振り上げて応えた。プレイ中に体を反らせ、揃ってネックを上げるJohnnyとJohn。歌謡曲を彷彿させるメロディラインを宿した「ピンクの実」では、目の前で繰り広げられているライヴ映像とこの曲のMVが混ざり合わさったトリッキーなVJでフロアを巻込んでいった。
ガレージなサウンド感に女性以上に女性の性を唄った歌詞が乗った「赤ヰ猫」や「猫騙し」は、レトロな昭和歌謡の香りが色濃く絡み付く切なさが聴き手の胸を締め付けていく。女言葉で唄われるnaoの歌詞も首振りDollsの大きな魅力の1つと言っていい。淫靡ながらもとことん純粋な愛を感じさせるnaoの感性は、彼の哀愁を佩びた声で唄われることによって、さらに聴き手を引き込んでいく。JohnnyとJohnとnaoの音で構築されるいなたいサウンドと哀愁を佩びた声を武器とする唄声とシャウト。その絶妙なバランスが首振りDollsというロックン・ロールSHOWを作り上げていくのだ。
naoがドラムから離れ、花を抱えて愁いに沈んだ表情で唄い届けるワンマンライヴでしか見ることのできない「菊の変」では、ここまでの盛り上りを嘘の様に静寂へと変えた。真っ赤に染上げられたステージの上で、深く沈む暗くも美しい神秘な世界が演じられていく———。極端に音の少ない世界の中で、感情を吐き出す様に唄われていくnaoのボーカルはとても不思議な空間へと聴き手を誘った。その音は終盤に向かうにつれて重なり合い、乱れ狂う業のように激しい音像へと変わっていった。静寂と喧噪のコントラストがとても美しく描かれた瞬間でもあったといえる。
間髪入れずに届けられたのはおどろおどろしいイントロのギターフレーズが印象的な「鏡地獄」。首振りDollsの過去の代表曲ともいえるこの曲は、江戸川乱歩の著した短編怪奇小説を思わす世界観。それはまさしく、寺山修司、江戸川乱歩、夢野久作らが綴り上げてきた世界に魅了されたnaoの文化的背景が伺える歌詞世界と彼独自の哲学と思想が絡み合ったインテリジェンスだ。
「鏡地獄」明けには、往年のロックライヴではオキマリであったギターソロが届けられた。ここまで、VJと全体照明で魅せてきた照明演出だったが、ここではギターソロを弾くJohnnyにスポットが当てられ、古き良き時代のロックライヴを彷彿とさせる演出でオーディエンスを唸らせたのだった。
Johnnyがメインボーカルを取り、Johnのベースがフィーチャーされるイントロを設けた「コールガール」から「野良犬のメロディ」と、跳ね感のあるアッパーなザッツ・ロックン・ロールナンバーでここまでの景色をさらに塗り替えると、“もう1人の首振りDolls”として知られるサポートメンバーRakuカワサキ(Guitar)をステージへと呼び込み、ロックン・ロールと歌モノの融合である「ニセモノ」「境界線」へと繋げていった。さらに厚みを増したサウンドとコーラスでのハモリの相性の心地よさにオーディエンスは体を揺らして応えた。ダンスフロアと化したその場で、オーディエンスは完全に手放しで彼らの音を浴び楽しんでいた。