Seibu Media Communications Presents Immersive EnTaMe
梁邦彦&AKIHIDE Moon Sketch -first moon-
2025年6月20日(金)品川プリンスホテル クラブeX
新たな始まりの瞬間のクリエイティブなエネルギーをたくさん浴びる至福の時間となった。と同時に、ゴールデンコンビ誕生の瞬間に立ち会えた幸運を深く感謝したくなった。品川プリンスホテル クラブeXで6月20日に開催された『梁邦彦&AKIHIDE Moon Sketch -first moon-』と題されたコンサートのことだ。
ピアニスト・音楽プロデューサーの梁邦彦とBREAKERZのギタリストとしても活動するAKIHIDEの初共演のステージとなるため、観客はもちろんのこと、演奏する本人たちにとっても未知の世界であるに違いない。もともとは、ディスクガレージのスタッフの勧めで、AKIHIDEが梁のライブを観に行ったのがきっかけで、今回の共演が実現した。コンサートタイトルにある“Moon Sketch”は、梁が『Piano Sketch』というコンサートを開催していることと、AKIHIDEのソロ作品の多くで、月をモチーフとしていることから付けられた。さらに、初共演となるため、“first moon”というサブタイトルが付いた経緯がある。
ステージの下手側にピアノ、上手側には4本のギターが置かれていた。ガットギター(Jose Ramirez 4N-CWE)、セミアコースティックギター(Gibson ES-335)、フルアコースティックギター(Gibson ES-175)、アコースティックギター(Taylor 814e)という構成だ。AKIHIDEによると、「フル装備」「フルスペック」とのこと。梁邦彦とAKIHIDEが登場して、それぞれの所定の位置についてコンサートが始まった。
オープニングナンバーは梁の楽曲「Song of Moonlight」だ。月明かりのようなかすかな照明の光の中で、梁のピアノの音色とAKIHIDEのフルアコースティックギターの音色が柔らかく混ざり合っていく。ノスタルジックな響きを備えた二人のアンサンブルが染みてくる。それぞれのソロのパートもある。ユニゾン、ギターのトレモロなど、楽器の混ざり方も多彩だ。それぞれが豊かな表現力を駆使しながらも、テクニックを誇示するようなところは一切なく、すべてがナチュラルに融合して心地良く響く。続いてはAKIHIDEの楽曲「待雪草」。梁のピアノで始まり、AKIHIDEのガットギターがソロを奏でて、その後、二つの音色が混ざり合っていく。風に揺らぐ待雪草が見えてきそうなイマジネイティブな演奏に体が揺れる。
最初のMCコーナーで、「僕は今日、みなさんに挨拶をする前からすでに楽しくてしょうがないです」と梁が語ると、「出だしから心地良かったです」とAKIHIDEが同意した。「今日は新しい体験なので、新しい世界をお見せ、お聴かせできたらと思っています」と梁が挨拶すると、「梁さんという広大な海で遊ばせていただいているサーファーの気分です」とAKIHIDEが続けた。すかさず、「イケメンサーファーですね」と梁が語ると、会場内が笑いに包まれた。この日が初共演の二人だが、演奏だけでなく、MCの呼吸も最初からぴったり合っていた。
「僕は普段、ループペダルを使って自分の演奏をその場で録音〜再生して、ひとりでアンサンブルを重ねるライブをやっています。今日は、梁さんにも加わっていただいて、新しい世界を描いていくので、一緒にスケッチしてください」というAKIHIDEのMCに続いては、彼の楽曲「蛍火」が演奏された。まずはAKIHIDEがアコースティックギターを弾き、ハーモニクスやスラム奏法を駆使して音を重ねてループさせながら世界を構築していく。闇の中で蛍が光を発しながら飛んでいる景色が見えてきそうだ。そこに梁のピアノが加わると、さらに景色が立体的になっていく。月明かりに照らされながら、蛍火があたりを舞っている気配を感じた気がした。AKIHIDEが曲の途中でフルアコースティックギターに持ち替えると、さらに世界が広がり、緩やかな風が吹いていくようだった。オクターブ奏法も交えた演奏が気持ちいい。曲の終わりは密やかな梁のピアノだ。梁の楽曲「Steppin' Out」が始まると、会場内の空気が一変した。たとえるならば、夜が明けて朝が訪れたような、もしくはモノクロがカラーに変わったような、鮮やかな変化だ。ピアノとギターが一体となって躍動感あふれるグルーヴを奏でている。観客も途中からハンドクラップで参加して盛り上がった。緩急自在、“静と動”も“明と暗”も見事に表現していくゴールデンコンビだ。
続いてはAKIHIDEのソロコーナー。「月に住んでいたうさぎたちが主人公の物語で、彼らは幸せを探しに地球に降りてきましたが、幸せは月にありました。でも戻りたくてももう月には戻れません。月を眺めながら、郷愁を抱く彼らの気持ちを綴りました」というMCに続いて、「月と星のキャラバン」を披露。故郷には二度と戻れないせつなさと悲しみが染みてきた。続いての「Lost」はループペダルを使い、アコースティックギターの演奏で披露。アルペジオとカッティングを駆使して起伏のあるドラマティックかつエモーショナルな物語の世界を見事に表現していた。
梁のソロコーナーではメドレーも含めて、4曲が披露された。「ソロデビューアルバムに入っている曲です」との言葉に続いて演奏されたのは「永遠の夏」だ。夏の青空とそよ風のようなみずみずしいエネルギーを内包したピアノの旋律とリズムに体が揺れた。さらに、アニメとドラマのために制作された曲「英国恋物語EMMAのテーマ」と「ゴールドサンセット」がメドレーで演奏された。“物語を紡ぐピアノ”と形容したくなった。続いての梁のオリジナル曲「Wish To Fly」は本来は鳥の飛翔する景色が見えてくる曲だが、AKIHIDEの「月と星のキャラバン」を聴いた後だったため、月を見上げていたうさぎたちが長い耳を翼として、飛翔して月へと戻っていく光景を思い描いてしまった。梁とAKIHIDE、二人の音楽に共通しているのは、物語を喚起させる力があるということだ。その二人の奏でる物語が時に並行し、時に交錯する瞬間があった。
「今日が初めてですが、すでにゴールデンコンビです」という梁の紹介によって、AKIHIDEが再びステージに登場して、タンゴの名曲「リベルタンゴ」をピアノとガットギターで披露した。AKIHIDEのギターで始まり、すぐに梁のピアノが入った。ギターのカッティングとともに客席からハンドクラップが起こり、梁の指が鍵盤の上を舞うようにして華麗な旋律とリズムを紡ぎ出す。まるでピアノとギターが手を取り合ってステップを踏み、タンゴを踊っているかのようだ。情熱とロマンあふれる演奏によって、会場内も熱気に包まれた。
続いて、梁の楽曲であるNHKアニメ『十二国記』の「夜想月雫」が演奏された。ピアノの繊細かつ優美な調べによって、神秘的な月が空にかかる景色が目に浮かぶようだった。ディストーションのかかったセミアコースティックギターの音色は、朧月を連想させた。続いては、梁の楽曲でWOWOWのパラリンピックドキュメンタリー番組のテーマ曲である「WHO I AM」が演奏された。梁の陰影のあるピアノの演奏に、AKIHIDEがアコースティックギターのカッティングとボディで刻んだパーカッシブなリズムのループが加わり、凜としたグルーヴが生まれていく。ピアノとギターとループペダルが雄々しくもダイナミックな世界を生み出していく。梁とAKIHIDEがアイコンタクトを取りながら、フィニッシュ。梁がまるで自分の生み出すグルーヴのように自在かつ自然に演奏する様子は見事のひと言だ。
「ループペダルを使うと、僕のリズムになってしまうから梁さん、やりづらいかなと心配しました」とAKIHIDEがいうと、「いやいや、僕らゴールデンコンビですから」と梁。アンサンブルだけでなく、グルーヴにおいても、一体感あふれる演奏を展開するところが素晴らしい。とても初共演とは思えないが、これはまさに“ゴールデンコンビ”だからこそだろう。
本編最後の曲はAKIHIDEの楽曲で、青い宝石という意味のある「Lapis Lazuli」だ。AKIHIDEの生み出すループペダルのグルーヴに乗って、梁が軽やかに、そして楽しげにピアノを演奏していく。ピアノとアコースティックギターとのセッションがスリリングだ。会場内の天井からはミラーボールが二つ下がっていたのだが、そのミラーボールに照明が当たる様は、まるで二つの月が輝いているようだった。ステージ上と天井とに同時にゴールデンコンビが現れていた。梁が体を揺らしながらリズミカルにプレイしている。AKIHIDEがステップを踏みながら、ギターを弾いている。演奏が終わった瞬間に、熱烈な歓声と盛大な拍手が起こった。
アンコールではまずAKIHIDEの代表曲のひとつで、テレビアニメ『名探偵コナン』エンディングテーマにも起用された「RAIN MAN」が演奏された。梁のピアノが雨音のように降り注ぐ中で始まり、続いてAKIHIDEがフルアコースティックギターでせつないメロディを奏でていく。オリジナルはAKIHIDEのボーカルが入っているが、ここではピアノもギターも見事に“歌っていた”。哀愁を帯びたギターの演奏と、そのギターを包み込んでいくようなピアノの深みのある演奏が染みてきた。なんとヒューマンな演奏なのだろう。
「こうなったら、ゴールデンコンビはセカンド(ムーン)に向かうしかないよね」と梁が語ると、客席から同意を表す歓声がたくさんあがっていた。「スケッチしてみるまで、どんな景色が見えるのかと思っていたんですが、ステージに立たせていただいて、梁さんと描く音のスケッチの筆先が華麗で美しくて。みなさんがスケッチを温かく受け入れてくれて、僕たちの筆先もよりすべりがよくなりました」とAKIHIDEが語ると大きな拍手が起こった。
アンコールのラストを飾ったのは梁の楽曲「Everlasting Truth」だった。ピアノとフルアコースティックギターによって、躍動感あふれるグルーヴが生まれて、観客もハンドクラップで参加した。会場内全体にハッピーなエネルギーが充満していく。AKIHIDEが梁に近づいて、プレイする瞬間もあった。構築することだけでなく、瞬間瞬間に生まれるものを音楽として表現できるところも、二人の共通点だろう。曲の終わりでは梁も立ち上がってのフィニッシュとなった。コンサートが終わった瞬間に温かな気持ちになったのは、心優しき二人がゴールデンコンビを組んで、創意工夫に富んだ演奏の数々を繰り広げたからだろう。フレンドリーであることと、クリエイティブであることが見事に両立したステージだ。初めての『Moon Sketch』、さまざまな月の光景が描かれた夜となった。おそらく描かれていない月の景色がまだまだたくさんあるに違いない。早くも、次なる共演で描かれる“月の光景”を観るのが楽しみになった。
SET LIST
01. Song of Moonlight
02. 待雪草
03. 蛍火
04. Steppin' Out
05. 月と星のキャラバン(AKIHIDEソロ)
06. Lost(AKIHIDEソロ)
07. 永遠の夏(梁邦彦ソロ)
08. 英国恋愛物語EMMAのテーマ〜「ゴールドサンセット」(梁邦彦ソロ)
09. Wish To Fly(梁邦彦ソロ)
10. リベルタンゴ
11. 夜想月雫
12. WHO I AM
13. Lapis Lazuli
Encore
01. RAIN MAN
02. Everlasting Truth