DUSTCELL TOUR 2024「光」Final
20024年10月10日(木)Zepp Haneda (TOKYO)
EMAは同公演の前日に「今回のツアーは私たちにとって一番大切で、皆に伝えたいことがある」と発信していた。チケットはソールドアウトしていたが、ひとりでも多くの人々に届けたいという思いから、ライブは全編YouTubeにて無料生配信された。DUSTCELLがその決断をした事実からも思いの強さは伝わってきたが、当日のステージではさらにそれをダイレクトに感じることとなった。
開演前、ステージ前方に設置されたLEDモニターの両脇にQRコードが映し出されていた。それをスマートフォンで読み込むと、ステージのモニター上に自分が指定した色と形の光をスワイプで投げ入れられるサイトにアクセスできた。ステージは観客の放つありとあらゆる光で絶えず華やぐ。その光景は、ふたりの居場所を観客があたためているようにも見えた。
定刻で暗転し、先ほどまで光が舞っていたモニターにオープニングムービーが流れる。その映像が消えると、モニター越しにDUSTCELLがサポートメンバーとともに姿を現した。1曲目「GAUZE」からバンドとともにドラマチックかつエモーショナルな歌と演奏を届け、「火焔」ではMisumiもフロアを煽り、観客もそれに応えるようにクラップやコールで熱量高くレスポンスをする。鮮烈で迫力のある映像演出も相まって、炎の熱がこちらに襲い掛かってくるような錯覚に陥った。
ステージ背面には縦長で4本のLEDモニターがそびえ立ち、光を体現する演出が施される。LEDモニターは透過型のため、映像が消えるシーンや背景が透過の際はステージを覆った壮大なステージセットにも成り代わった。金属の隔たり越しに見る、音に身を任せるように衝動的に身体を振り動かしながら切迫感と優美さを併せ持った歌を響かせるEMAの姿は、どこか危うくも美しい。視覚と聴覚を刺激するステージが、会場全体をDUSTCELLの内部へと取り込んでいく。
「Nighthawk」の後のMCで、EMAは「ツアーファイナルが来てしまったことが寂しい」と名残惜しさを明かし、Misumiはステージから見えるペンライトが揺れるフロアが夜の波のきらめきのようだと感動をあらわにすると「僕らにとってあなた方が光だから、あなた方にとっても僕らがそうでありたい」と語る。観客と軽やかにコミュニケーションを取る様子からも、この日をこの場にいる全員で作り上げたいという意志が感じられた。「蜜蜂」「FRAGILE」と閉塞感と爽やかさが同居した楽曲を立て続けに披露すると、「PAIN」「帰りの会」ではさらにソリッドな歌と音で魅了する。潔さが前面に出たステージは、観客のテンションをより高めた。
ステージがDUSTCELLのふたりのみになると、「堕落生活」「DERO」とディープなラップ曲でダークかつユーモラスな不可思議空間に染め、「可笑しな生き物」では闇を巧みに操った光の演出も相まって宇宙の中に佇むような神秘的なムードで包み込む。サポートキーボードを加え3人編成で届けた「無垢」は、内省的かつ感傷的な歌声と演奏が高揚感を生み出した。その後のMCによると同曲は、今回のアルバムでEMAが最後に書いた曲であり、彼女が『光』の制作中に音楽に対して前向きになれない時期があったこと、それについてMisumiとマネージャーに話したときのこともしたためられているという。彼女が「この曲を今日この場で大勢の人に披露できてうれしかったです」と頭を下げると、会場からもあたたかい拍手が沸いた。
再びバンドメンバーが現れると、豊かなメロディが映える「Void」、ドラマチックに展開する「izqnqi」とたたみかけ、「透明度」や「雨の植物園」では楽曲の舞台を彷彿とさせる映像演出が音にさらなる奥行きを持たせる。「足りない」から「Caffeine」につなぐとフロアからは歓声が沸き、クラップやコールが華やぐと、アウトロではEMAの煽りで晴れやかなシンガロングが起こった。ステージとフロアの放つ光が乱反射するような光景は、ふたりがDUSTCELLの5年間で一つひとつリスナーと信頼関係を培ってきたからこそ生まれたものだろう。
その後は初のアニメタイアップ曲である最新曲「表情差分」、Misumiがクラップを煽りEMAが感情的に歌い上げる「フラッシュバック」とラストスパートをかける。逆光でも、フェンス越しでも鮮やかに見えるほどのふたりの身のこなしからも、歓喜の念が伝わってきた。「命の行方」「独白」と感情を解放するように届けると、本編ラストは「STIGMA」。目まぐるしい光のなかで身体を振り絞りながら歌い叫ぶEMAから目が離せなかった。
アンコールでデビュー曲「CULT」とバラード「優しい人でありたい」を披露すると、EMAの「とても大切なお知らせがあります」という言葉の後、LEDに映像が流れる。これまでのライブを振り返るダイジェストムービーの最後に、2025年3月3日(月)の日本武道館公演が発表された。会場が歓声と拍手で包まれるなかEMAは「ついにここまで来ました!」と涙ぐむ。そしてDUSTCELLを結成する際に、Misumiとともに初めて事務所を訪ね「いつか必ずDUSTCELLを大きな舞台に連れて行きます。必ず大きな景色を見せます。たくさんの人に歌を届けられるようになるのでDUSTCELLをやらせてください」と頼んだことを振り返った。
さらに自分の歌にまだまだ改善点があることを前置きし、「DUSTCELLの歌が難しいことを(パフォーマンスが落ちることの)言い訳にしたくない」「Misumiさんの作った曲の思いをできる限りみんなに伝えたくて、このツアー中も何度も壁にぶつかった」と歌にかけるポリシーを明かすと、「今日は今まででいちばん声が真っすぐ出たんじゃないかな」と照れながら伝える。「みんなが見守ってくれて、一緒に歌ってくれたことが心強かった」と観客に感謝を告げると、会場からは大きな歓声が沸いた。歌に対する譲れない信念があるがゆえに、なかなか自分を認められないEMAを支えてきたのはチームだけではなく観客も同様だった。彼女が困難を乗り越えられたのは、周囲の人の愛情があってこそなのだろう。この日の彼女の歌が、こちらに訴えかけてくるような熱意に溢れていたことも腑に落ちた。
EMAがバンドメンバーとMisumiにも感謝を告げると、Misumiも「高校時代に運動部に入るはずだったけど、前の座席にいたクラスメイトに軽音部に誘われてドラムを始めて、そこから今までいろんなことがあって……続けていると報われる日が来るんだなと、いまこの瞬間実感しています」「僕らと一緒に武道館で素敵な景色を見ましょう」と思いを明かした。「いろいろ寄り道をしてきたけど、死ぬまでDUSTCELLで歌っていきたいと心から思っています」とEMAが再度決意を語ると、ツアーの締めくくりにアルバムの表題曲「光」を届ける。この日一番真っすぐで純度の高い歌と、柔らかくあたたかい演奏だった。
EMAはアウトロで涙を拭い、ステージを去る際にMisumiは彼女の肩に手を置いた。DUSTCELLが動き出してからの5年間は、我々が知り得ない様々な出来事があったのだろう。ふたりが苦しみながらもそれを共に乗り越え、アーティストとして成長を続け、他者からの愛情を自分たちの力にできるようになったのは、音楽に対してどこまでも純粋であるからに他ならない。ふたりの音楽への思いが明確にステージに表れた、人間味あふれるツアーファイナル。日本武道館への布石として申し分のない、情熱的な一夜だった。
SET LIST
01. GAUZE
02. 火焔
03. Nighthawk
04. 蜜蜂
05. FRAGILE
06. PAIN
07. 帰りの会
08. 堕落生活
09. DERO
10. 可笑しな生き物
11. 無垢
12. Void
13. izqnqi
14. 透明度
15. 雨の植物園
16. 足りない
17. Caffeine
18. 表情差分
19. フラッシュバック
20. 命の行方
21. 独白
22. STIGMA
ENCORE
01. CULT
02. 優しい人でありたい
03. 光