花譜「神椿代々木決戦二〇二四」 DAY2
花譜 4th ONE-MAN LIVE「怪歌」
2024年1月14日(日) 国立代々木競技場第一体育館
彼女はこれまでも、自身で作詞作曲した「マイディア」や「リメンバー」をライブで披露するなど、制作欲求を我々に明かしていた。浮かび上がる疑問は「なぜもうひとつ名義を作ったのか」ということだが、とてもシンプルなことであるとも思う。我々は友達、仕事相手、家族、恋人に見せる顔が異なることがほとんどだ。ひとつのSNSで趣味ごとに複数のアカウントを持つ人も少なくない。だがその顔のどれもが、その人自身である。複数の顔を持っているのはとても自然なことだ。彼女が音楽活動をするうえで花譜と廻花を分けたのも、広く言えばそれと同義ではないだろうか。花譜としての自分も、廻花としての自分も、彼女にとってはどちらも侵したくない領域だったと推測する。
ワンマンライブ「怪歌」は、彼女の成長の軌跡が丁寧に綴られた内容だった。街一帯に“怪歌”を咲かせるオープニングムービーとポエトリーリーディングの後、彼女のハミングで織り成すSEにバンド&ストリングスチームが音を重ね、「青春の温度」で幕を開ける。草木が太陽に向かって伸びるように、爽やかでエネルギッシュなムードに溢れる花譜の歌声とサウンドスケープ。「代々木歌って!」と呼び掛けたり、耳の後ろで手を広げるなどして、観客のテンションを高めていった。
序盤6曲は、去年5月にKAMITSUBAKI STUDIOを卒業したソングライターのカンザキイオリとのタッグで生まれた「不可解」シリーズ時代の楽曲を届ける。今抱えている苦しい気持ちを吐き出すようだった歌唱はこの日、未来へと凛々しく熱い眼差しを向けているようだった。なかでも「世惑い子」の語り掛けるような優しい歌声、「それを世界と言うんだね」で巻き起こしたシンガロングは胸に迫った。「この先自分の中で、花譜の歴史の中で、道標のような曲であり続けると思います。」と言い披露した「邂逅」は、これまで得てきたエネルギーを総動員するような迫力ある歌声で圧倒する。それは固く結ばれたカンザキとの信頼関係を体現するようでもあった。
ライブ中盤はゲストアーティストとのコラボレーションのセクションへ。佐倉綾音を招いた「あさひ」は楽曲に綴られた物語と主人公をその場に立ちのぼらせるパフォーマンスを繰り広げ、ホロライブ所属のMori Calliopeを招いた「しゅげーハイ!!!」はMoriがラップと歌唱の歌詞の一部を英訳し、ネイティブなギミックによりさらにゴージャスな仕上がりへと進化する。#KTちゃんとは梅田サイファーのpekoがトラックを手掛けた「ギミギミ逃避行」を初披露。リアルアーティストとのコラボシリーズ「組曲2」の第1弾として2月28日にリリースされる同曲は、花譜が初めてリリックとフロウ作りに挑戦し、#KTちゃんと完成させたという。同世代のふたりの掛け合いで紡がれる若者ならではの青春や友情が、きらめきとともに躍動した。
リミックス×VJとダンサーによる「KAF DISCOTHEQUE」の後は、地上波TV放送された『バーチャルシンガー花譜の廻れ!!MAD TV』で花譜がデザインした衣装に身を包み、“音楽的同位体”の可不とともに同番組の主題歌「CAN-VERSE」と、「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」を披露する。似て非なるふたりのボーカルも、動きがシンクロする様子も隅々までキュートであり、邪念のなさに心があたたまる。極上のエンターテインメント空間に会場も興奮を見せた。
可不を見送った花譜は、バーチャルヒューマンへと変身。ステージのバックモニターには彼女の頭からつま先までが映し出された。不協和音が心地よさを生む「蕾に雷」はバーチャルヒューマンの演出によりその不可思議な世界に磨きがかかり、長谷川白紙のひりついたキーボードプレイがそれを加速させる。MONDO GROSSOの大沢伸一のDJプレイで披露された「わたしの声」は神秘性に輪をかけ、会場を音の深淵へといざなった。
再び3Dモデルに戻った花譜は特殊歌唱用形態「扇鳩」に変身し、感傷的な透明感の「スイマー」、バンドサウンドとストリングスがスリリングに交錯する「アポカリプスより」、繊細なボーカルがたゆたう「ホワイトブーケ」、遊び心たっぷりでありながらもほのかにダークな「ゲシュタルト」と新曲を畳みかけると、演奏チームの艶やかなインスト演奏のソロ回しを挟んでGuianoがステージに登場。彼が手掛けた新曲「この世界は美しい」を披露する。高い純度とエモーションがほとばしるふたりの歌声は観客の心を揺さぶり、ネクストフェーズへと進んだ花譜の祝祭のようにも響いた。