バーチャルシンガーソングライター“廻花“発表
5曲連続で新曲を披露した彼女の進化と深化はこれだけではなかった。扇鳩に姿を変えた彼女が街を飛び回りその数を増やしていくブリッジムービーが流れると、「バーチャルシンガーソングライター“廻花“」の文字が躍り、モニターには逆光でシルエット姿の廻花が現れる。3Dモデルでもバーチャルヒューマンでもない、花譜の衣をかぶっていない姿である。彼女が歌い出した瞬間に、会場はどよめいた。喜びと戸惑いがない交ぜになっていた。だが会場が彼女の声と姿に見とれたのも確かで、少ししてから拍手が起こった。初めて見た姿だが、佇まいや立ち回りからはこれまで見慣れてきた花譜の存在が浮かび上がる。それは明確に、花譜と廻花がシームレスな関係であることを物語っていた。
「ターミナル」を歌い終え、「いま初めて廻花として皆さんの目の前に立って、すごく緊張しています。今まで自分の心を見つめて作ってきた曲を歌います」と告げると、高校2年生の頃に制作したというノスタルジックなミドルナンバー「ひぐらしのうた」へ。彼女の言葉や“シンガーソングライター”という肩書どおり、廻歌は彼女が作詞作曲をした楽曲を彼女の姿で歌う表現方法であることを把握する。「スタンドバイミー」は、知っているはずの彼女の声で歌われるのに、どこか初めて聴いたような声だったのが印象的だった。自分の言葉とメロディだからこそ歌える彼女の歌があることを目の当たりにする。
自身が転校生だったときのことを思い出して書いた「転校生」の後、あらためて彼女は廻歌の活動に至るまでの心境を正直に一つひとつ言葉にする。そしてあてどない誰にも言えないことを言えること、気持ちをぶつけられることが自分にとっての歌であり、だからこそ周りの人を傷つけずに済んでいること、自分の感情がわからないときに自分から生まれる曲を聴きたいと思い曲作りを始めたこと、花譜の活動で自分の輪郭が少しずつ見えてきたことを明かした。
「花譜になってからずっと、“自分は何者なんだろう”と探し続けてきました。ようやく気付いたのは、表現を通して自分というものを花譜が形作ってくれたり、友達が形作ってくれたり。廻花もそのひとつで、全部わたしなんだと思います。歌や何かを作ることを通して、自分の形を少しずつ捉えられるようになりました」「今日から廻花という名前、形でも、みんなとつながっていきたいです」と告げ、最後に「かいか」を届ける。MCで話した内容が、より純度高く音楽に昇華された、とてもあたたかく勇敢な歌だった。
自分の歌を居場所にしてくれる人がいることが救いになっていたと話す彼女は、「花譜、廻花、どちらもわたしです。どんな歌も楽しく自分らしく歌っていく花譜。より自分自身の内側から湧き出るものだけで形作る廻花。これからは自分なりの歩幅でふたつの活動を続けていきたいと思います。どちらの歌も、誰かの居場所、わたしたちの居場所になるようにこれからも歌っていきたいです」と真摯に語り、観客に「つまづいても、泥だらけになっても、何度だって立ち上がって生きていきましょう。皆さんはわたしの大切な人です。みんな愛してる!」と呼びかけた。
花譜と廻花、ふたつのクリエイティブを持った彼女は、より多くの人と関わり、自分自身と向き合うことでさらに己の存在を確かにしてゆくだろう。花譜も「組曲」第2章の始動、4thアルバム『寓話』の制作開始やリミックスアルバム『狂想γ』のリリースなどが発表され、勢いはとどまることを知らない。新しい表現方法を持った彼女がこの先、どんな可能性を広げ、どんな花を咲かせるのか。まだまだ彼女の進化と深化は止まらなさそうだ。
SET LIST
01.青春の温度
02.人を気取る
03.未観測
04.世惑い子
05.それを世界と言うんだね
06.邂逅
07.あさひ feat. 佐倉接音
08.しゅげーハイ!!! feat. Mori Calliope
09.ギミギミ逃避行 feat. #KTちゃん
10.KAF DISCOTHEQUE
11.CAN-VERSE feat. 可不
12.トウキョウ・シャンディ・ランデヴ feat. 可不
13.蕾に雷 feat. 長谷川白紙
14.わたしの声 feat. 大沢伸-(MONDO GROSSO)
15.スイマー
16.アポカリプスより
17.ホワイトブーケ
18.ゲシュタルト
19.この世界は美しい feat. Guiano
20.ターミナル
21.ひぐらしのうた
22.スタンドバイミー
23.転校生
24.かいか