Kaori Kishitani Live Tour 2023「56th SHOUT!」
2023年12月3日(日)日本橋三井ホール
“56th SHOUT!”と題した、今回のバンド・ツアーを世界中の誰よりも心待ちにしていたのは、岸谷香だろう。この日のMCで話していた彼女自身の表現を借りれば、「このバンド・ツアーのスケジュールを無理くり捩じ込んだ」そうだが、ライブに明け暮れた56歳の1年を締めくくるのは最愛のメンバーとのバンド・ツアーしかないと思い定めていたのだろう。その強い思いが弾け、そして渦になり、オーディエンスも巻き込んで、みんなで次に向かう新しいエネルギーを生み出すステージになった。
まず会場が暗転し、メンバーが登場してくると、客席は当然のように総立ちとなり、盛り上がる気分が客席にたちまち充満していく。そんななか登場した岸谷が客席からの前のめりな空気に両手を挙げて応えると、準備は整った。ドラムスYuumiの溌剌としたカウントに続いて、ギターのYukoがヘヴィなリフを聴かせ、そこにベースHALNAの太い低音が加わるといきなり会場はロックな世界へ。岸谷はハンドマイクで、ツアーのタイトルの通り、彼女の今をそのまま響かせるようなシャウトで客席の熱をさらに煽っていく。ギター、ベース、ドラムという3つの音だけで過不足ない重厚さとドライブ感を感じさせるバンドの演奏は印象的で、2曲目のイントロではギャルバンならではとも言える3声のコーラス・ワークも聴かせて、最初の2曲で早くもバンドの現在の充実ぶりを確認させる展開だ。
最初のMCで岸谷は、「弾き語りツアーの反動がたまらなく出ている」と表現したが、弾き語りならではの自由がある一方で弾き語りだからこその孤独があるわけで、その「反動」はバンド・メンバーとの相互作用をより増幅させるということだろう。つまりは、仲間と一緒に音を鳴らすとすごぉく楽しい!ということなのだが、加えて一人の演奏では表現し難いサウンドのダイナミックレンジの広さもバンド・アンサンブルの醍醐味で、その醍醐味を十分に表現しうる状態にあることはすでに冒頭の2曲で明らかだ。岸谷は先の言葉に続いて「Unlock the girlsを体で感じて、楽しんで」と話したが、確かに頭で理解するのではなく、体で感じたい音を彼女たちは鳴らす。3曲目からは岸谷もギターを抱え、テレキャスターらしいパキッとした音でバンドの音のメリハリをさらに際立たせて、ますます体で感じたいサウンドになった。5曲目「あいのうた」のたっぷりとしたエンディングは、もちろんそのサウンドをオーディンエンスに届けようとするものだったが、もしかするとその気持ち以上に彼女たち自身がそのバンド・アンサンブルをたっぷり楽しみたいという思いもあったのではないか。
果たして、岸谷がそのエンディングを終えて最初に口にした言葉は「バンドはいいのぉ」。それは、バンドというものの楽しさを「現在進行形で味わってます」という素直な告白であると同時に、バンドというものの楽しさを十全に表現でている自分たちについての自信の表明でもあったような気がする。MCタイムになると座席に腰を下ろしていたオーディエンスに、「挑発的だね」と笑いながらも「座ってられるかな?」と話したのは、単にその次の曲がアッパーな曲だからというだけでなく、“そういう曲をこのバンドは思い切り楽しく演奏するのに座ってていいの?”という気持ちの現れだったはずだ。しかも、それに続くのが“そして人生は続く”という意味深なタイトルでマイナー調の新曲、さらにはプリンセス プリンセスのナンバーからマニアックな選曲「GLASS HEAVEN」だったから、終わって振り返れば、ここは聴かせどころのパートだったのかなと気づく。が、そのことを終わってから気づくのは、その後にもクライマックスと思えるシーンが続いたからだ。
例えば、岸谷自身が「取材みたいに語っちゃってるね」と笑ったくらい長い時間を使って、K-POPにハマったのをきっかけにトラックメイカーとの共作という曲作りのやり方を知り、それを実践してみたらすごく楽しい経験になったことまでを伝えた上で披露したその新曲「Beautiful」の、現代的なビートをバンドで表現したカッコ良さ、あるいは名曲「Signs」の堂々たる演奏、さらには誰もが知るプリプリの大ヒット曲「Diamonds<ダイアモンド>」をしかしUnlock the girlsの曲と言ってもおかしくないくらい手の内に入れた演奏で聴かせるなど、岸谷がライブ前半で「私たちはやる気満々だからね」と語った、その「やる気」が単なる気合いの話ではない、バンドとしてのパワーを感じさせるステージだった。
加えて、アンコールで披露された「DING DONG」も含め、プリプリ時代の曲から来年リリース予定の新曲までを並べたセット・リストは、来年デビュー40周年を迎える岸谷の、ソングライターとしてのキャリアと楽曲の魅力を、彼女の本領というべきバンド・スタイルで楽しめる貴重な機会でもあった。
アンコールでは来年2月の岸谷の誕生日に開催されるライブの情報もアナウンスされ、アニバーサリー・イヤーへの期待感もいよいよ高まる一夜だった。
SET LIST
01. RELAX
02. デロリアンドライブ
03. キッチン
04. Unlocked
05. あいのうた
06. バタフライ
07. AND THE LIFE GOES ON
08. GLASS HEAVEN
09. Beautiful<新曲>
10. BOY
11. Signs
12. A VISITOR
13. Singing
14. Diamonds<ダイアモンド>
15. STAY BLUE
16. WAR
Encore
En1. DING DONG
En2. レミニセンス