KAMITSUBAKI FES 2023 <DAY1>シンギュラリティのひ
2023年3月30日(木) 豊洲PIT
多種多様な次世代のクリエイターが所属するYouTube発のクリエイティブレーベル「KAMITSUBAKI STUDIO」が、初のフェス「KAMITSUBAKI FES ’23」を2023年3月30日(木)31日(金)に東京・豊洲PITにて開催した。
同フェスは2日間にわたりKAMITSUBAKI STUDIOに所属するバーチャルシンガー、シンガーソングライターら総勢9組のアーティストと、バーチャルシンガーと音声創作ソフトウェア「CeVIO AI」のプロジェクトから生まれた“音楽的同位体”も集合。さらにKAMITSUBAKI STUDIOの姉妹レーベル「SINSEKAI STUDIO」からも多数のゲストが参加するという、“お祭り”の名に相応しい非常にプレミアムな内容となった。
DAY1「シンギュラリティーのひ」は、メインアクトの花譜、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜、また彼女らが所属するバーチャルシンガーグループV.W.P(※もう1名のメンバーである理芽は留学中のため欠席)に加え、V.W.Pメンバーの歌声を元にした音楽的同位体、V.I.Pも出演。最先端のテクノロジーを駆使し、さらにギター、ベース、ドラム、キーボード、チェロ、バイオリンの6人編成のサポートバンドとともに、視覚のみならず聴覚でも高次元のライブ空間を作り上げた。
オープニングアクトは、2019年末に開催されたKAMITSUBAKI STUDIOのオーディション「神椿市異住定獣課」で見出されたシンガー・CIEL。陰のあるムードと芯の強さを併せ持ったボーカルが1曲目「少年漫画」をたちまち鮮やかに色づける。手拍子をうながしたり手を左右に振るなどして観客を盛り上げ、「窓を開けて」では透明感とエネルギーに満ちた歌声で青空を表現。オープニングアクトとしての役目を堂々と全うした。
第一部は花譜、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜のステージ。トップバッターは春猿火。10代、20代の若者が抱える思いを歌とラップに込めるという特性を生かし、語感が小気味よい「自由までの距離」や憂いのあるメロディが際立つ「潜む自信」と、リズムを巧みに操りながら情熱的かつユーモラスなムードを作り出していく。
今年8月にリリース予定の音楽的同位体“羽累”とともにツインボーカルで「テラ」をパワフルに披露し、ラストは「ペンライトを黄色にして待っててね!」と告げ「百花繚乱」。リズムに身を任せて躍動的に声を繰り出す姿は、きらめきに満ちていた。終始存分にステージを楽しんでいた彼女。そのパフォーマンスに目が離せなくなった人も多かったのではないだろうか。
美しいロングトーンが魅力のバーチャルロックシンガー・幸祜は、1曲目の「Mayday」のイントロから観客へと積極的に呼び掛け、軽やかに盛り上げていく。ファルセットや地声、声色を巧みに操るだけでなく、吐息も効果的に用いるボーカルテクニック、全身で曲を使えるしなやかなモーションは、ライブの場でより映えていた。
英語詞曲「Abstractions Void」をスタイリッシュかつセンチメンタルに届けると、「さらけ出してぶつけていくぞ!全員でひとつになるぞ!」と笑顔を浮かべ、最新曲「ミラージュコード」を今年1月にリリースされたばかりの音楽的同位体“狐子”とともに披露。自然体かつ凛とした佇まいでステージを謳歌しながら、多彩な表現力で観客を圧倒した。
幸祜が去った後のステージには、小柄な身体に白いロングのウェーブヘアをなびかせた背中が覗く。シンガーとしてだけでなく、イラスト、ナレーション、声優などマルチに活躍するヰ世界情緒だ。「パンドラコール」のどこか不穏なオルゴールの音色に彼女がダークな歌声を乗せると、会場からは大きな声援が湧いた。
「ヰ世界の宝石譚」は音楽的同位体“星界”とともにパフォーマンス。繊細なボーカル、ふたりの掛け合いや切ないメロディと踊れるリズムのコントラスト、ふたつのミラーボールが放つ光なども相まって刹那的な美しさを作り出していた。サプライズで新曲「そして白に還る」を披露し、壮大なミドルナンバー「かたちなきもの」でフィニッシュ。願いを込めるように歌詞を噛み締めながら歌う無垢でたくましい歌声に、会場一帯がじっくりと聴き入った。
第一部のラストを飾るのはPIEDPIPERがKAMITSUBAKI STUDIO設立するきっかけともなった重要人物・花譜。1曲目の「ニヒル」から曲に宿る力強さを声でもって届け、「大好きな仲間とこのステージに立てることがうれしいです。この2日間楽しみましょう!」と高らかに叫ぶと、「海に化ける」「人を気取る」へとなめらかにつなげる。歌詞に込められた切実な思いを色づける彼女のボーカルは、一言一句が実態を伴って迫りくるような錯覚すら起こした。
音楽的同位体“可不”をステージに招くと、最新アルバム『狂想』から高揚感と焦燥感がない交ぜになった「青春の温度」へ。歌唱中に花譜と可不がアイコンタクトを取るシーンも楽曲の興奮を高め、可不がステージを去る際にふたりで手を振り合う瞬間も胸をくすぐった。ラストはライブ初披露の「邂逅」。心の奥に閉じ込めた感情を掘り出すような、情感に満ちた歌声は、最後まで諦めることなく必死に生きることを訴えるようだった。
花譜がステージから去ると、KAMITSUBAKI STUDIOに関連する楽曲のリミックスをつなぐDJとVJで構成された「KAMITSUBAKI DISCOTHEQUE」へとなだれ込む。なかでもMAISONdes「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ feat. 花譜, ツミキ」や春猿火によるカンザキイオリの「命に嫌われている」のカバーでは熱いコールが起こるなど、演者不在ながらに大きな盛り上がりを見せる。
するとステージに登場したのはV.W.Pの音楽的同位体たち。音楽的同位体5体による合成音声ソフトユニット“V.I.P -Virtual Isotope Phenomenon-”の初お目見えだ。可不を用い制作されたツミキのヒットソング「フォニイ」を全員で届けると、フロアからもコールやシンガロングも起こる。さらにV.I.Pの面々は、オリジナル曲「Penumbra」をサプライズ披露。突然の展開に観客は驚きながらも、新たなプロジェクトが誕生した喜びを全身で表現していた。
第二部が終わると、理芽からのビデオメッセージが流れる。英語の発音からも、語学留学が順調なことがうかがえた。彼女がメッセージの締めくくりで「今日はわたしが会場に行けないということで、次の曲ではわたしの代わりにあの子がピンチヒッターで参加します!」と告げると、ステージには第一部でソロステージを繰り広げた4人と、理芽の音楽的同位体“裏命”の姿が。5人でV.W.Pのステージを繰り広げた。
裏命がセンターを飾り「玩具」を歌唱すると、続いての「秘密」ではセンターに入った幸祜が間奏で観客をスマートに盛り上げていく。センターのヰ世界情緒が歌い出した瞬間にフロアから歓声が起こった「変身」では、5人のハーモニーが毅然と響いた。
V.W.P の4人がお互いのパフォーマンスやファンを目の前にしたライブに感動したことを語り合うと、バンドメンバー紹介から「電脳」につなぎ、同曲をV.I.Pの5名を加えた9名で歌唱する。それぞれの音楽的同位体とともに歌うシーンや、9名の声で織り成す重厚なボーカルで魅了し、ラストの「定命」まで全員でエネルギッシュに駆け抜けた。
エンドロールの後はV.W.Pが今年夏に1stフルアルバム『運命』をリリースすることや、V.I.Pの始動、花譜のコラボレーションプロジェクト“組曲”の第十二弾としてズーカラデルとタッグを組んだ「秘密の言葉」のリリースなど、数多くのインフォメーションが発表された。バーチャルテクノロジーを駆使したDAY1「シンギュラリティーのひ」。音楽とエンターテインメントの最先端を、五感すべてで吸収する1日となった。
SET LIST
<OPENING ACT>CIEL
01. 少年漫画
02. 窓を開けて
春猿火
03. 自由までの距離
04. 潜む自信
05. テラ(春猿火&羽累)
06. 百花繚乱
幸祜
07. Mayday
08. 閃光の彼方
09. Abstractions void
10. ミラージュコード(幸祜&狐子)
ヰ世界情緒
11. パンドラコール
12. ヰ世界の宝石譚(ヰ世界情緒&星界)
13. そして白に還る
14. かたちなきもの
花譜
15. ニヒル
16. 海に化ける~人を気取る
17. 青春の温度(花譜&可不)
18. 邂逅
19. KAMITSUBAKI DISCOTHEQUE
V.I.P (可不/裏命/羽累/星界/狐子)
20. フォニイ
21. Penumbra
V.W.P(花譜/春猿火/ヰ世界情緒/幸祜) with 裏命
22. 玩具
23. 秘密
24. 変身
V.W.P vs V.I.P
(花譜/春猿火/ヰ世界情緒/幸祜)
(可不/裏命/羽累/星界/狐子)
25. 電脳
26. 定命