TRAVEL&Lush Music presents
ASKA&DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023
2023年3月16日(木)ぴあアリーナMM
出演者 : ASKA(ヴォーカル&ギター) DAVID FOSTER(ピアノ)
宮﨑薫(ヴォーカル) ASKAバンド&Get The Classics Strings
音楽のミラクルな化学変化をたっぷり堪能した。デイヴィッド・フォスターに対するASKAのリスペクト、ASKAに対するデイヴィッドのフレンドシップ、そしてASKAとバンドとストリングスとのチームワーク、さらにはミュージシャンたちの音楽に対する情熱や探究心の相乗効果により、魔法のような瞬間が出現した。『ASKA&DAVID FOSTER PREMIUM CONCERT 2023』の3月16日、ぴあアリーナMM 。この共演は合計3ステージが行われたのだが、この日が初日だった。つまり、どんなステージになるか、やってみないとわからないことがたくさんある。真っさらなキャンバス上で絵筆を走らせて、新たな風景を描いていくようなステージだ。
場内に期待感と緊張感が漂う中でのオープニングナンバーは、CHAGE and ASKAの代表曲中の代表曲「SAY YES」だった。いきなりハイライトという豪華な始まり方だ。ASKAが場内の空気を確かめるように、丁寧に言葉を紡いで歌っている。1曲目から6曲目まではASKAとバンドとストリングス(Get The Classics Strings)によるステージ。バンドのメンバーは澤近泰輔(Piano)、江口信夫(Dr)、是永巧一(Gt)、鈴川真樹(Gt)、 荻原基文(Ba)、一木弘行(Cho)、 SHUUBI(Cho)の7人。ほとんどのメンバーが直近のツアーを一緒に回っていることもあり、最初から一体感あふれる歌と演奏を展開。ASKAの歌声も艶やかで伸びやかだ。今回の共演についてのインタビューで、「日本のミュージシャンはこんなものかと思われたくない」とASKAが発言していたが、その言葉を裏付けるような気合いの入ったステージだ。続いての「憲兵も王様も居ない城」も、歌とバンドとストリングスの連携が見事だった。ASKAの歌声からは確固たる意志も伝わってきた。楽しいステージであると同時に、身が引き締まるような感触がある。
「デビューして7、8年目、自分の立ち位置を固めつつあると感じていたときに、デイヴィッド・フォスターの音楽を知り、自分の曲の作り方を根底から覆されました。自分の音楽が赤子のようだと感じて、この人に影響されてみようと決めました」とのMCもあった。影響を広言したことが、この日の共演へと繋がったと言えそうだ。ASKAの言葉と歌声の力を実感するステージでもあった。さらに「共謀者」「迷宮のReplicant」、デイヴィッドに影響を受けたことによって誕生した「はじまりはいつも雨」「MY Mr. LONELY HEART」などが演奏されていく。デイヴィッドがステージに登場する前から、その存在の大きさを実感する構成だ。
そしていよいよ夢の共演が実現。ASKAによる紹介で、デイヴィッド・フォスターが登場し、2人がこぶしを付き合わせて挨拶。互いに「ユー!」と指さしている。「僕らに寄り添ってくれて、複雑なスコアを書いてくれて、みんなでリハーサルをして、今日ここで演奏します」とASKA。日本語のMCに対して、「英語で話して」とデイヴィッドが突っ込んでいる。登場してわずか数分で、フレンドリーで気さくな彼の人柄の魅力も伝わってきた。
共演の最初の曲は「You Raise Me Up」。アイルランドの音楽グループ、ケルティック・ウーマンの曲だが、デイヴィッドのプロデュースにより、ジョシュ・グローバンのカバーがヒットした経緯がある。タイトルを直訳すると、“あなたが私を高めてくれる”といったところだろうか。互いを高め合うような今回の共演にふさわしい曲だ。デイヴィッドのピアノで始まり、ASKAの歌が加わると、歓声が起こった。穏やかさと厳かさを備えていて、賛美歌のテイストも感じ取れる曲だが、曲が展開するほどに力強さが加わり、揺るぎない歌と演奏が場内に響き渡っていく。デイヴィッドによる丹念さと壮大さを備えたアレンジとASKAのソウルフルな歌声との相性も抜群だ。デイヴィッドのピアノの音色も、一瞬で観客の耳を惹きつけるようなエレガントな魅力を備えている。歌、演奏、アレンジの美しい調和を堪能した。
「Love Theme From St. Elmo's Fire」はASKAもフェイバリットソングとして名前をあげていたデイヴィッドの代表曲である。印象的なストリングスによるイントロが始まった瞬間に、客席から拍手が起こった。みずみずしいピアノと端正なストリングスの調べが絶妙にマッチしている。この曲ではサプライズもあった。デイヴィッドとも親交の深いケニー・GとのVTRによる共演が実現したのだ。LED画面にケニー・Gの演奏風景が映し出されていた。彼のたおやかな音色のソプラノサックスにもうっとりしてしまった。デイヴィッドとASKAも「アメージング!」と拍手。
シカゴの名曲「Hard To Say I'm Sorry(素直になれなくて)」は、コンサートならではのやりとりが楽しかった。デイヴィッドが弾き語りをしながら、観客に一緒に歌うように促したのだ。世界的な大ヒット曲ではあるが、日本人が英詞を一緒に歌うのは、ハードルが高い。観客のシンガロングの声が小さいと、デイヴィッドがやり直しをさせる場面もあった。さらに同じくシカゴの「You're the inspiration」やホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」の一節をピアノの弾き語りで披露し、ASKAも一緒に歌で参加。オープンなところもデイヴィッドの魅力の1つだろう。デイヴィッド作曲のピーター・セテラへの提供曲「Glory of Love」の演奏中に映画『トップガン』の映像が流される演出もあった。実はこの曲は映画『ベスト・キッド2』の挿入曲として1987年のアカデミー賞歌曲賞にノミネートされたのだが、『トップガン』の挿入歌「Take My Breath Away」によって受賞をはばまれた経緯がある。“「Glory of Love」が『トップガン』の挿入歌だったらオスカーを取れていたはずだ”とのデイヴィッドの発言もあり、あたかも『トップガン』の挿入歌であったかのような演出で映画のシーンを流しながらの演奏となったのだ。デイヴィッドのユーモアセンスは筋金入りだ。
「日本には素晴らしいシンガーがいる。スペシャルゲストを紹介します」とのデイヴィッドの紹介に続いて、シンガーソングライターであり、ASKAの娘である宮﨑薫が登場。ステージが一気に華やいだ。「何年も前に、セリーヌ・ディオンに『To Love You More』というラブソングを書きました。今夜やりたいんだけど」とデイヴィッドが英語で語り、「アイ・ラブ・ザット・ソング」と宮﨑が答え、彼女のボーカルをフィーチャーして、「To Love You More」が披露された。アコースティックギターとストリングスによるイントロに続いて、彼女のしなやかな歌声が加わり、曲が進行するほどに、ボーカルがエモーショナルかつドラマティックに広がっていった。デイヴィッドが彼女の歌声を聴きながら、うなずくように演奏している。凜とした強さと透明感とを備えた歌声で、彼女はこのスケールの大きなラブソングを見事に歌いきった。歌い終わった瞬間に会場内から大きな拍手が起こった。そして「ベリーグッド! イエス!」とデイヴィッドが彼女の歌を讃えていた。ASKAは「サンキュー」と控えめな反応。
「ここだけのメロディのアドリブをやります」とのことで、ASKAとデイヴィッドがアドリブで一緒にメロディを作るサプライズもあった。まず澤近がメロディをつけて、ASKAがそのメロディに対して歌メロをつけて英語まじりで歌い、続いてデイヴィッドがサビのメロディをつけ、ASKAが歌う展開。このアドリブのメロディは、ステージ上の彼らの関係性とシンクロするように響いてきた。麗しい関係が生み出す麗しいメロディだと感じたからだ。「ブラボー! ファンタスティック!」とデイヴィッド。「2度と歌えない!」とASKA。ミラクルなアドリブに盛大な拍手が起こった。グラミー賞15回受賞の世界的な作曲家と天性の歌い手であるASKAと数多くのミュージシャンの作曲を手がけてきた澤近との3人による創造の瞬間を目の当たりにするのは贅沢な体験だ。
ここからの3曲はCHAGE and ASKA、ASKAのオリジナル曲をデイヴィッドが編曲し、ピアノを演奏し、ASKAが歌うスタイルの共演だ。「Man and Woman」はデイヴィッドのエレガントなピアノで始まった。ASKAのニュアンス豊かな歌声が素晴らしい。デイヴィッドのアレンジによって、この曲の優美さが際立っていることも実感した。「next door」ではボーカル、ピアノ、バンド、ストリングスが一体となって、気持ちいい流れを作っていた。「PRIDE」は、大胆なアレンジが施されていた。ゆったりとしたテンポで始まり、2コーラス目に入るところで、デイヴィッドのピアノに導かれてシカゴの「Hard To Say I'm Sorry」へと自然に繋がっていったのだ。そしてまた「PRIDE」へ戻ってのエンディング。会場内から大きな拍手と歓声。ASKAとデイヴィッドがこぶしとこぶしを付き合わせている。してやったりというところだろう。ここで、デイヴィッドはいったんステージを下りた。
「アメリカのエンターテインメントに対する考え方は素晴らしくて、“来てくれた全員を驚かせて喜ばせて帰ってもらうんだ”という意識が根底にあります。僕の音楽もそうです。時代は回ると言いますが、“90年代のいい時代をもう一度”と願っても、戻ってはきません。あの時とは違う形で、あのエンターテインメント性を持ったステージを、この先どこかでやれると僕は信じています」とのASKAの言葉にも盛大な拍手が起こった。
ファイティングスピリッツを凝縮したようなASKAの強靱なシャウトに胸が熱くなったのは「RED HILL」だ。メンバー紹介を挟み、「けれど空は青~close friend~」へ。赤い丘が見える光景から、一転して空の青さが染みてくる景色へと誘われていく。会場内に熱気が充満して、「リハーサル」、「晴天を誉めるなら夕暮れを待て」へ。通常のASKAのコンサート終盤と同様に観客も立ち上がり、ハンドクラップしながら盛り上がった。さらに「YAH YAH YAH」へ。ASKAと一木とSHUUBIのコーラスに観客の歌声も加わっていく。客席からはたくさんのこぶしが突き出されている。ここ数年見ることができなかった光景が目の前に広がっていた。林立するこぶしは、エンターテインメントによる狼煙のようでもあった。演奏が終わった瞬間に、拍手とともに歓声とどよめきが起こっていた。
「本当にいい体験をさせてもらいました。何よりもうれしかったのは、“とてもいいメンバーと一緒にやっているね”と(デイヴィッドから)言ってもらったことですね」とASKA。その信頼するメンバーたちと息のあった演奏を披露したのは「Be Free」だ。ASKAの素直な歌声と、そのボーカルを包み込むよう包容力のある演奏が染みてきた。ASKAとメンバーとの絆の深さが見えてくるような演奏だ。
「最後にもう1回、デイヴィッドにつきあってもらおう」というASKAの言葉に続いて、デイヴィッドが再登場して、いきなりピアノを弾きながら、「YAH YAH YAH」を歌い出す場面もあった。気さくでユーモアあふれる彼の人柄が、こんなところからも伝わってきた。最後の曲は「僕のwonderful world」。ASKAの歌声とデイヴィッドのピアノとバンドとストリングスが1つになっていると感じた。終演後、ASKA、デイヴィッド、宮﨑薫、バンド、ストリングスチームが整列して挨拶していた。この光景こそがまさにwonderful worldだ。4月1日からは『ASKA Premium Concert Tour -Wonderful World- 2023』も始まる。共演ライブとはまったく異なるベクトルのステージが展開される予定だ。さらにこの日のMCで、これまでライブを行ったことのない国での海外公演という目標も示された。デイヴィッドとの共演によって“夢を実現した”と満足するのではなく、この経験を糧として、さらなる高みを目指すということなのだろう。未知への挑戦が次なる挑戦へと繋がっていく。ASKAの音楽にはゴールはないのかもしれない。雨のち晴天、夕暮れはまだまだ先だ。