the pillows 30th Anniversary Thank you, my highlight vol.05
"LOSTMAN GO TO YOKOHAMA ARENA"
2019年10月17日(木) 横浜アリーナ
素晴らしい夜だった。the pillowsの30年の歩みが刻まれたライブだった。
「集まってくれてありがとう。今夜はthe pillowsの集大成だ。俺たちは30年間、ロックンロールバンドを続けてきたんだ。今夜はその俺たちの音楽を受け止めてくれよ」
山中さわおのこの言葉通り、まさにこの夜は彼ら自身の「集大成」で、その演奏は3時間近くに及んだ。「自分たちを見たい人みんなに見てほしいから、絶対に売り切れない規模の会場で」との理由で選んだ横浜アリーナだったが、フタを開けてみれば追加席も発売されることとなり、会場は平日にも関わらず約1万2千人の熱気で充満しっぱなしだった。
開演して最初にヴィジョンに映されたのは佐藤シンイチロウ、真鍋吉明、そして山中の子供の頃から現在までの写真と、3人それぞれの母親の言葉だった。3人の幼児期のかわいい姿や青春時代からの変貌ぶりには会場中がどよめきや笑い声に包まれ、母親たちの思い出話とバンドのファンに向けられた言葉は観客ひとりひとりの心に響くものがあったはず。
それが終わるとライブの1曲目「この世の果てまで」の演奏が山中のアカペラから始まった。この流れは「俺たちは人生のすべてを懸けてここまでやって来て、そして今ここにいる」という意思表示のように感じた。
序盤から「アナザーモーニング」、それに「スケアクロウ」と名曲が続く。サポートベースの有江嘉典を含むメンバーたちは次々と演奏するばかり。「20歳だった俺が50歳になってしまった(笑)。だけど俺は、今でもサリバンになりたい!」……山中がそう言って唄った「サリバンになりたい」は初期のナンバーで、ギャング映画『汚れた顔の天使』の主人公がモチーフだ。続く、映像や照明にサイケデリックな演出をほどこした「LAST DINOSAUR」は長い時間をサヴァイヴした恐竜の思いを綴った曲。いずれも孤独の中で歯をくいしばる姿が印象深い歌で、そう、それはかつてのthe pillowsの姿そのままである。今夜のような大舞台が作れているように、彼らの頑張りが実った瞬間もある。ただ、このバンドは、基本的には世の中の潮流や時代の趨勢とはあまり関係のないところで自分たちの流儀を貫きながら音を鳴らしてきた。それは今も変わらない。
その流れで「Please Mr.Lostman」、会場中で拳が突き上げられた「No Surrender」がプレイされると、いよいよもってわが道を進んできたバンドの影が見えてくる。この直後、とめどない「さわおさーん!」というファンの声援を受けた山中が「今日は30年間で一番人気があるな。もしかしたら売れるかもしれない(笑)」とリアクションし、それを聞いた真鍋が笑ったのには、こうした楽曲が続いたことが関係していたのではと思う。
ライブは名シーンの連続。これも孤独と戦う感情が照射された「1989」では、山中のヴォーカルが次第に熱を帯びていき、オーディエンスから大きな声が返る。最新アルバム収録の「ニンゲンドモ」で描かれているのは、今の社会の中で感じる居心地の悪さだ。
こうして彼らの30年間の歌を生で聴いていると、その間に時代や状況はかなり変化はしたものの、山中の心の中にある孤独や疎外感は大きく変わってはいないことがわかる。そしてthe pillowsは、そんな魂を持つ者に勇気を与えるような歌を唄ってきたのだ。
「10年ぶりに唄うよ」と告げて演奏された「雨上がりに見た幻」は、ライブ冒頭の映像の中で山中の母親が好きだと挙げていた曲である。この歌に通じるような味わいを持つ「サード アイ」も心に刺さった。
ここでメンバー紹介。シンイチロウは今回のライブについて電話で話した母親が横浜アリーナと横浜スタジアムの区別がついてないという話で笑わせた。真鍋は「この先何があっても、今日のことを思い出したらいい気分になれるようなライブにしたいので、最後までよろしく!」と話し、その後にはファンやスタッフ、関係者への謝辞を述べた。
で、この後、「Swanky Street」に入ったのだが……ここでイントロの演奏中に妙な間が空いてしまう。まさかの演奏ミス。笑いに包まれる会場で、山中が言う。「そんな、横浜アリーナでやるようなバンドじゃないってことか? (真鍋に向かって)お前が柄にもなく感動的なこと言うから、こっちはいろいろ食らってんだよ!(笑)」。一瞬、空気がくだけた。
ここから「About A Rock'n'Roll Band」「LITTLE BUSTERS」「Ready Steady Go!」と続いたクライマックスは、むしろバンドのテンションがグッと引き締まり、そのまま突っ走った爽快感があった。シンプルでストレートなギター・ロック。その歌の中には、叙情性もありながら、実は複雑な感情も入り混じっている。