ここまでの演奏を浴びながら、僕は今夜に向けての意気込みを彼らが語っていたのを思い出していた。メンバーはこの横浜アリーナに並々ならぬ思いで臨み、最高の演奏を聴かせるとさんざん気合を入れていたのだ。それだけに緊張もしていたはずだが、本番ではそれが気負いという形でなく、演奏への集中力に見事に表れていたと思う。そしてそれこそが、このバンドらしさだとも感じた。
歌に込めた感情をしっかり表現することと、そのための最高の演奏をすること。30周年のお祝いの場ではあるが、決してお祭り騒ぎではない。いわばロックバンドとして当たり前のことを当たり前にやるその姿勢は、じつにストイックだ。だけど、それはこのバンドが30年ずっと続けてきたことでもある。そんな矜持が見てとれたライブだった。
3回のアンコールのところどころで山中は心の内を明かした。「俺たちみたいなヘンテコなバンドが横浜アリーナのステージに立って、そこにこんなに集まってくれて、不思議だよ。俺は音楽業界を信用しない。でも君たちのことは信じたいよ」。プライドを持ちながら走ってきた思いがうかがえる言葉だった。
2回目のアンコールでは、いつものように缶ビールで乾杯。「あんなに練習したのにね(笑)。やっぱ俺たち、ポンコツだわ。こんな感じの(大きな)ステージで、曲、途中で止まるって、ある?(笑)」。明るい笑顔がハジけた。そして「Funny Bunny」の1コーラス目のサビ、<キミの夢が叶うのは/誰かのおかげじゃないぜ/風の強い日を選んで/走ってきた>のところはオーディエンスだけが唄い、それに山中がマイクを外して「ありがとう!」と叫んだ瞬間もまたひとつのハイライトだった。
そして3回目のアンコールで、山中は言った。「若者だった自分を救ってくれたのも、そして50代になった今でもバンドを救ってくれているのも、普遍的なもの……新しいも古いもない世界。それがロックンロールだ!」。最後の最後の曲「Locomotion, more! more!」が高らかに鳴り響いた。荒々しく、しかし気高いビートが疾走していく。痛快な終幕だった。最高の夜だった。
30年という時間を超えても、きっとthe pillowsはこのまま走り続けるだろう。そしてそうあってほしいと願う。
そしてこんなふうに戦い続けるバンドがいることを、今まだ彼らのことを知らない人たちや、これからの新しい世代の人たちにも、どうか知ってほしいと思う。孤独な思いを抱えている人間は、この世にたくさんいる。その思いが実ることだってあるんだ、って。
SET LIST
1. この世の果てまで
2. MY FOOT
3. Blues Drive Monster
4. アナザーモーニング
5. スケアクロウ
6. バビロン 天使の詩
7. I know you
8. サリバンになりたい
9. LAST DINOSAUR
10. Please Mr. Lostman
11. No Surrender
12. Kim deal
13. ぼくは かけら
14. 1989
15. ニンゲンドモ
16. 雨上がりに見た幻
17. サード アイ
18. Advice
19. Swanky Street
20. About A Rock’n’Roll Band
21. LITTLE BUSTERS
22. Ready Steady Go!
ENCORE
23. ストレンジ カメレオン
24. ハイブリッド レインボウ
ENCORE 2
25. Ride on shooting star
26. Funny Bunny
ENCORE 3
27. Locomotion, more! more!
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