女王蜂全国ツアー2019 「十」-火炎-
2019年7月11日(木)新木場Studio Coast
女王蜂の全国ツアー“女王蜂全国ツアー2019「十」-火炎-”の最終公演が7月11日、東京・新木場Studio Coastで行われた。今回のツアーは、追加公演の新木場を含む17公演すべてがソールドアウト。新木場Studio Coastのフロアを埋め尽くした観客からも、開演前から溢れんばかりの期待と熱気が伝わってきた。
ステージの幕が開き、まずはルリちゃん(Dr)、ひばりくん(Gt)、やしちゃん(Ba)、サポートメンバーのみーちゃん(Key)が登場。続いてアヴちゃん(Vo)がステージ中央の奥から姿を見せ、「Are you ready?」と呼びかけた瞬間、凄まじい大歓声が沸き怒る。オープニングナンバーは「DANCE DANCE DANCE」。さらにアルバム『十』の2曲目に収められた「火炎」が放たれ、フロアは早くもダンスホールに変貌する。「金星」はアヴちゃんのアカペラから。1番を歌ったところでアンセム「デスコ」につながり、ライブの興奮は一気にピークへと向かっていく。
「催眠術」でジャケットを脱いだアヴちゃんは、美しいハイトーンボイス、攻撃的な低音デスボイスを自由に行き来しながら、あまりにも豊かな歌を響かせる。ファンク、ディスコ、ヒップホップ、ヘビィロック、エレクトロ、歌謡曲などを貪欲に飲み込んだバンドサウンドもさらに進化していた。ほとんどインターバルを取らず、DJのように楽曲をつないでいく構成もきわめて刺激的。アルバムと同様、ハイブランドにチープなアクセサリーを合わせたような、ゴージャスにして抜け感のある音楽世界がリアルに立ち上がり、観客の興奮を引き出していった。
セットリストはアルバム『十』の楽曲だけでなく、前作『Q』に収められた「しゅらしゅしゅしゅ」「超・スリラ」、さらにこれまでのキャリアのなかで生み出されてきた代表曲もふんだんに取り入れられ、壮大にして深遠なストーリーを描き出していた。快楽的なダンスミュージックとしての機能、そして、生と性を刻み込んだストーリー性を同時に感じさせてくれる女王蜂の音楽は、舞台の上でこそ真価を発揮する——ライブが進むにつれて、そのことを改めて実感することができた。少年性をテーマにした『Q』から、自らの運命を受け入れ、未来に向かって進んでいく決意を描いた『十』への流れがリアルに体現されていたことも、今回のツアーの大きな収穫だったと思う。
12曲を続けて披露し、メンバーがいったんステージを去る。ここでアヴちゃんはニューアルバムのタイトル曲「十」をアカペラで歌う。夜行バスに乗り都会に出てきたひとりの少年/少女が、“これでよかったと言える日”を夢見るーーそんなストーリーを持った歌が生々しく綴られ、会場全体に大きな感動が広がった。
「一緒に歌って踊れる? そんじょそこらの踊りじゃダメやで」(アヴちゃん)という言葉、ひばりくんのギターとアヴちゃんの歌で始まり、途中からバンドが加わった「催眠術」からライブは後半へ。ずっしりとした重みを感じさせる「HALF」(TVアニメ「東京喰種:re」エンディングテーマ)でフロアの高揚は一気に最高潮。「もう一度欲しがって」ではアヴちゃんが「Don’t be shy!」と観客を煽り、大合唱が響き渡る。さらにアヴちゃんは観客からジュリ扇を受け取り、艶やかに踊るシーンも。音楽を介した純度の高いコミュニケーションによって、フロアとステージの一体感が強まっていく。「Zeppツアーはやりたいことの一つでした。今回、夢が叶ってすごくうれしいです」という言葉も心に残った。
ラストもインパクト十分。まずアヴちゃんが「Introduction」が映画「東京喰種 トーキョーグール【S】」の主題歌に起用されたことに触れ、「主人公がブッチギリ系ですけど、私たちもブッチギリ系ですから。これからもブッチギっていくのでよろしくお願いします」と語り掛けると、フロアから大きな歓声と拍手が起きる。その後披露されたのは、アルバム『十』の収録曲「聖戦」(映画『貞子』主題歌)。壮大にして神聖なサウンドスケープ、ドラマティックなメロディライン、“いつか笑える日が来るさ”という祈りにも似た歌詞がひとつになったこの曲は、アルバムの精神性を象徴していると同時に、今回のツアーのクライマックスにふさわしい風格を備えていた。
ここでライブは終了……と思いきや、観客の歓声とコールに応えてか、メンバーが再びステージに登場。「初披露するよ?」(アヴちゃん)と「Introduction」を放つ。“はじまらないからはじめた それだけ”というフレーズが響き渡るなか、ライブはエンディングを迎えた。
前作『Q』、そして新作『十』と傑作を次々とモノにし、ライブのクオリティが向上するとともに観客動員も着実にアップ。8月8日(木)に行われる女王蜂単独公演「蜂月蜂日 〜Q.5〜」(東京キネマ倶楽部)、11月から始まる初のホールツアー「女王蜂全国ホールツアー2019 「十」-聖戦-」でも女王蜂は、ハイブリッドかつゴージャスな音楽性、奥深い精神性をたたえた歌を濃密に描き出してくれるはず。進化を続ける女王蜂はここから、さらなる充実期に向かっていくことになりそうだ。