インタビュー/フジジュン
──2017年前半は、音楽との向き合い方を取り戻すべく、自分の原点に戻る為、約半年かけて19カ国を巡る旅に出ていたナオトさん。旅を追ったドキュメンタリー映画『旅歌ダイアリー2』前編が昨年11月に公開され、後編が1月5日(金)より公開となります。今回旅に出たキッカケとして、多忙な日々に追われて「このままでは3年、5年もたないかもしれない」と思ったそうですね?
もたないというのは精神面もそうなんですけど、人気がもたないと思って。「このままだと3年後、ここにいられないな」と思ったんです。曲のストックはたくさんあるし、リリースしろと言われたら、曲はいくらでも作れるんですけど。いま考えてみると、どこか飽和してたところもあったのかも知れないし。一つひとつにもっと時間を掛けたいけどやらなきゃいけないことが多すぎて、それが出来ないことに違和感を感じて。それが心の不健康にも繋がってて、作り手としてよくないと思ったんです。
──自分の納得する作品が出来なくなるんじゃないかという不安もあった?
作品は妥協せずに作れていたんですが、歌詞や曲から、アレンジ、プロデュースと全部を自分でやる分、一つひとつにかける時間や精神力も凄いし、時間に対しての量がトゥーマッチになってたんです。でも無我夢中でやってきたこの6年間は、絶対に必要な期間だったと思っているし、この位置にたどり着くのに必要な6年だったと思うし。それが無かったら、2017年の旅も無かったと思うんです。デビューして2~3年で、「ちょっと疲れちゃったんで、旅に行ってきます」じゃ成り立たないですからね。
──いざ旅に出て、多忙な日々から開放された時の気持ちはいかがでした?
去年の12月15日、名古屋の日本ガイシホールのライブが終わって、ひとつ区切りが付いた時の開放感は凄かったです!その後、リリースもライブもテレビ出演も何も決まっていなくて、「この自由さはなんだ!」と思いました。
──旅先でも予定を決めず、行き当たりばったりの自由な旅だったんですよね?
自由でしたね。基本、起きてから「今日どうすっかなぁ」って決めますから。そんな幸せなことないですよ!目覚ましをかけないで起きる喜びなんて、ここしばらく体験してなかったから。心がどんどん開いていくのを感じました。
──不安はないですか?
不安って、何が不安なんですか(笑)?
──いや、日本人の生真面目さもあると思うんですけど、いざ自由を手に入れてみると、何をして良いのか分からなくなって、逆に不安になったりするじゃないですか?
あ~、全くないです。ワクワクしかない(笑)。やりたいことがありすぎて、追いたいことがありすぎて、旅をしてても結局、時間が足りないくらいでした。
■映画『ナオト・インティライミ冒険記 旅歌ダイアリー2』前編・後編 予告編【公式】
──そんなご自身の旅を、改めて映画で見ての感想はいかがでしたか?
面白かった!ただただ面白かったです。自分はただ旅をしてるだけで、それを客観的に見る機会なんて、なかなか無いですからね。それが今回、1,000時間カメラを回してるんです。80TB、DVD16,000枚分ですよ!(笑)。しかし、本当にありがたいですよね。人は忘れていく生き物なので、せっかく旅をして素敵な体験をしたり、色んな感情があってもほとんどのことを忘れてしまいますから。いつでもあの時に戻れる体験と感情のタイムマシンとして、映像が残っているのは本当にありがたいことだと思います。しかも映画だけでなく、文字で起こした旅日記も本になって。ただ旅したことを自分の中で記録として残しておけるだけでなく、ファンのみんなにも楽しんでもらえる。普通、旅するだけでそれにまつわる付属物がこんなに生まれることはなくて。自分は幸せ者だなぁと今回、痛感しましたね。だって、ただ旅してるだけなんだもん(笑)。
──映画の制作側も賭けですよね。1,000時間追いかけて、何も起こらない可能性もあって。
本当ですよ。何も決めてないんだから、ただ歩いてメシを食ってで終わってしまう可能性もあって。「ここに行って、出会いのシーンを撮って」みたいなお仕事だったら成り立つけど、ただ旅してただけで映画になり、本になり、CDになり、ツアーへと繋がるって凄いことですよね。4次元パッケージですよ!(笑)。 だから、自分のことを周りが面白がってくれて、こうやって形にしてくれるっていうのも、これまでやってきたことのひとつの成果だと思うし、周りの人にはただただ感謝しかないですね。
──インプットってところでも、旅での体験や感じたことが活かされて、『旅歌ダイアリー2』のコンセプトアルバムは全28曲入りのボリュームになりました。
帰国してから、曲がものすごい溢れ出して。「7~8曲でいい」と言われてたのに28曲入りになりました(笑)。旅先では現地の人とセッションもするし、リズムやメロディを体感することで、色んな刺激や影響を受けました。いまはYoutubeやiTunesで世界中の音楽が聴けるから、それ風なことはいくらでも出来るけど、やっぱり体感することが重要で。体感しておけば楽器の音や鳴りを知ってるから、それをモダンな音楽にまぶしたり、上手く使いこなすことが出来るんです。だから、いまはやりたいことが溢れてて。どこから形にしてリリースすれば良いか分からないという、すごくありがたい状況なんです。自分ひとりでは生涯で歌いきれないってことも分かって。楽曲提供やプロデュースを増やして、自分以外の人に歌ってもらう機会も増やさなきゃなと思ってるくらいですからね。
──旅に出る前は「3年、5年もたないかも知れない」と思っていたのに、すごい成果でしたね!あと“音楽は国境を超える”と言いますが、言葉も通じない人に音楽を伝えたいと思った時、よりシンプルに原始的になっていくんじゃないか? と思ったんですが。
う~ん、両方かな?ものすごいぬくもりのある歌と、最新の世界のトレンドも取り入れたLAのクリエイターと作る音楽。この一年でその振れ幅を手に入れたのは、作り手としてすごく大きかったですね。今までは最新の世界のトレンドも、本当にヒットしたものなら普通に生活してても耳に入ってくるけど、シーン全体を見てトレンドを掘っていくという時間が無かったから。シーンの流れもキャッチ出来るし、それが分かることで違和感のある物もぶっ込める。だから、とにかく制作が楽しいんです。ナオト・インティライミのパブリックなイメージって、まず明るくて元気の良い兄ちゃんみたいなのがあると思うんですけど。今回の旅とか現在の状態とか見ても、自分は本当に作り手なんだなと思うし、そこが自分のほとんどを占めてて。その上で明るいキャラやライブでの自分があるって感じなんです。そこはお茶の間にあまり見えづらい部分だと思うんだけど。
──でもお話聞いてても、全てが旅から帰って来てからの作品作りに帰結してるわけですし、そもそもがそのための旅だったわけですからね。
そうですね。今までもこだわり抜いてやってきたけど、今回の旅で自分でもようやく作り手としての自分に向き合えたかなと思ってます。
今回の旅で一番印象に残っていることは?