世良公則、「DOORS “ヨロコビノトビラ”」に向けたロングインタビュー【前編】多岐にわたる表現でエネルギッシュに展開するライブに込める想い。ゲスト・佐藤浩市からメッセージも

インタビュー | 2025.09.11 18:00

(バンドは)エネルギーの出口が増えて、しかも、それが水ではなくガソリンで、もっと燃えちゃうみたいな(笑)

──世良さんにはバンドスタイルでのライブもありますね。
GUILD 9やJET ROXは、僕ひとりでは賄えないドラム、ベースがいて、ギターを野村義男くんや松本タカヒロくんが弾いてくれる。GUILD 9では神本宗幸がキーボードをプレイするっていう。普段は自分の車にアコギを積んで会場へいっているイメージに対して、側面に“GUILD 9”、もしくは“JET ROX”って書いた12トントラックに楽器を積み込んで仲間と出かけている感じがありますよ。そういうスケール感の中でメンバーの演奏に僕の力をぶつけて、メンバーもそれを受け止めて返して来る、という。あと、バンドがいるから自分は自由にスタンドマイクを振り回せるとか(笑)。例えば、ステージ上の一番近くで野村義男のギターを堪能できるとか。それぞれ今日はどんな感じで来るんだろうといった楽しみが、メンバーの人数だけ増えるんです。ドラムカウントはこのタイミング来いよ、とか、パッと目が合った時にベースがブーンって唸ったりすると、そうそうこの感じとか。エネルギーの出口が増えて、そこからの放水を一気に浴びているような感じ。しかも、それが水ではなくガソリンで、もっと燃えちゃうみたいな(笑)。そういうエネルギーをバンドでは感じますね。

世良公則 // MASANORI SERA+JETROX LIVE2021 @NAMBA-HATCH(OSAKA)

──固定メンバーだからこそのエネルギーの循環、音の会話も楽しみのひとつですね。さらに、2021年12月に倉敷市民会館、2022年9月24日にヒューリックホール東京で開催のデビュー45周年記念コンサートで掲げられた『DOORS “ヨロコビノトビラ”』というシリーズがあります。
『KNOCK KNOCK』がシンガー、ミュージシャン、アーティストとの出会いが元になっていて、部屋が通じている感があるのに対して、『DOORS “ヨロコビノトビラ”』は“ヨロコビノトビラ” という名の異ジャンルの扉。その扉を開いた向こうにまったく違った世界──宇宙になっているとか、古代になっているとか、湖になっているといった世界が広がっていて、なにが待っているんだろう?って感覚があるライブです。だから例えば、佐藤浩市さんは役者であり、『役者唄』というステージで音楽をされていて、役者から見た音楽といった切り口をお持ちだし。僕や竜童さんはミュージシャンでありながら俳優としての経験があって、そっちの世界も知っている。そういう我々が異次元を繋ぐ扉をお互いに越えて、こっちに来てよ、僕たちもいくよ、みたいな。だから、ミュージシャンと繋がるドアよりも、ますますやってみないとわからないし、僕自身、読めない世界。そういう予定調和のないものを楽しむところに踏み出したいって想いから始めました。キャリアを重ねてどこかに落ち着くのかな、と思ったら、逆にこの年齢になっても尽きない好奇心を求めているんですよ(笑)。

"佐藤浩市「役者唄」KOICHI SATO "YAKUSYAUTA / 愛の讃歌 "Live at Blue Note Tokyo" 2023

──初回の倉敷公演では、異ジャンルのゲストとして村雨辰剛さんを迎えられていますね。
村雨くんはスウェーデンから日本に帰化されて、普段は庭師として活動されているし。暮らしも七輪でさんまを焼くとか、日本の文化に精通された方なんですね。そんな彼と僕という異なる世界で生きる者が『カムカムエヴリバディ』で出会って。村雨さんは'70年代、'80年代の世良公則を知らないわけですよ。それでも、僕は陶芸をしていたりするところからシンパシーを感じて、よく話すようになるうちにお互い、こんな人なんだ!とか驚きがあったんです。その村雨くんにトークゲストとして来てもらってミュージシャンではない彼とどんな空気が生まれるんだろうと、新しい扉を開こうと試みたんですね。するとステージ上での対談で、音楽以上に文化が交流するし、彼の持っている人間力とか日本の文化の素晴らしさが伝わっていって。さらに、そのトーク後に僕の音楽があって日本語の歌詞が乗る。結果、スタッフにも足を運んでくださった方にも喜んでいただけました。この経験を経た第2弾の45周年記念コンサートではもう少し音楽に近づけるという想いから、佐藤浩市さんをお招きして。俳優から見た音楽、ミュージシャンから見た俳優の世界観みたいなものを合体させることをコンセプトに選曲して一緒に音を鳴らしてみたわけです。そうすると、本当にいい緊張感が生まれたんですね。『役者唄』と掲げられて、自分は役者で、その役者が表現する歌だよ、というスタンスをベーシックに置いていらっしゃるから、やっぱり歌詞の捉え方とか空気感がシンガーやミュージシャンの方とまるで違いますし、その佇まいを感じながら横でギターを弾いたりするのは面白かったです。

世良公則 × 佐藤浩市

浩市さんからは“あのステージで演奏した音楽がいつまでも自分の中に残っている”といったメッセージをいただいていて

──その佐藤浩市さんと、先ほど挙げていただいた宇崎竜童さんをゲストに迎えた『DOORS “ヨロコビノトビラ”』の第3弾が10月11日、東京・EX THEATER ROPPONGIで開催されます。
前回、浩市さんとやってから、まだ先にいけるでしょう!とずっと思っていたんです。浩市さんからは“あのステージで演奏した音楽がいつまでも自分の中に残っている”といったメッセージをいただいていて。俳優って役に深く入るとなかなか抜けないとよく聞くんですが、そういうことが起こっていたんでしょうね。そこで明日もやりたいよね、とか話をしていたんです。でも、浩市さんもお忙しくて。ここならスケジュールが合う!ということでやっと実現しました。浩市さん自身、竜童さんのことをリスペクトされていて、お2人は音楽を一緒にされているんです。そこで、前回の『DOORS “ヨロコビノトビラ”』の後に竜童さんと、浩市さんの話をしていたり、TVの特番で木梨憲武くんと竜童さんと浩市さんが音を奏でているのを観て、僕は木梨くんとも繋がりがありますから、そこに入れてほしいな、と思っていたこともあって(笑)。「今度、『DOORS “ヨロコビノトビラ”』をやりますから、竜童さんも入ってください」とお伝えさせてもらいました。
──お話にあったように、ミュージシャンであり役者もされる世良さんと竜童さん、役者であり歌も歌われる佐藤さんの歌心の違いや、そのお3方が音を鳴らした時のエネルギーは見どころのひとつになりそうですね。
前回、浩市さんが歌う歌に思わずからんでいったんですね(笑)。
──思わず(笑)。
本番中。僕がギターでバッキングしながら浩市さんの歌に刺激されて急にハモったり、リフレインで歌ったり、歌の隙間に“Yeah〜〜”って声を重ねて埋めていったり、スキャットで埋めていったりしたんです。リハーサルではやってなかったのにね。お芝居では相手の呼吸感とかで、変わっていくところがありますから。それが音楽に入り込んでいったみたいな感じですよね。そこで、ミュージシャン同士のアドリブと異なる浩市さんの歌心みたいなものに引っ張られる感覚が体験できて楽しかったんですよ。それに対してご本人は終演後に「緊張しました」とおっしゃっていましたけど。ミュージシャンと役者が音楽でセッションしている緊張感が生む独特の世界観や空気が会場を包んでいた感じがよくて。さらに今回は、竜童さんがいらっしゃるわけですから、どう変わっていくんだろうといった興味があります。ただ、リハーサルが1日できるかどうか、それも数時間という感じになりそうで(笑)。それでも、絶対になんとかなるから、っていうね!
──きっと10月のライブでは、前回の経験から本番でアドリブが来る、という意識を佐藤さん自身お持ちでしょうし。2回目ならではの呼吸感の読み合いがありそうです。
そうですね。それに前回と違う曲も歌ってほしい気持ちがありますから、歌いたい曲はないですか?とか、逆に僕のほうからこの曲はどうですか?と投げかけてみようかな、と考えているところです。今は、打ち合わせまでいかないものの、将棋で言うところの“歩”をひとつ動かすみたいな、角のところか、飛車のところを開けるのか、いや桂馬かな、とワクワクしながら、初手を打っているところです。

浩市さんが歌うと、醸し出す空気とか曲の理解の仕方とかがミュージシャンのそれとはまた違ってカッコいい

──既に結構語っていただきましたが、改めて音楽を一緒に奏でてみて感じた佐藤さんの魅力はどこでしょう?
やっぱり圧倒的な存在感です。歌であれ、お芝居であれ、表現者として持っている価値観とか美学みたいなものが出てくる。音楽の世界に来ているということで、リハの時とか恐縮していらっしゃるんだけど、それでもそういったものが、最初に音を出した瞬間から感じられるんです。さらに、僕のデビューアルバム『世良公則&ツイスト』に収録した「酒事-さかごと-」を弾き語りで歌って、それを参考資料としてお渡ししつつ歌ってもらったんですね。すると、僕が22歳の頃に作ったその曲が、浩市さんが歌うと既に数十年寝かした古酒の薫り、味わいがしたんですよ。「初めて歌う曲で、難しい歌ですね」なんて浩市さんは言いながらも、ポロっと歌い始めると美学や彼が培ってきたものが滲み出て、酔える歌になっている。醸し出す空気とか曲の理解の仕方とかがミュージシャンのそれとはまた違ってカッコいい。ブルースになっているっていうね。それが最初に合わせた時のイメージでした。そういう意味でももっといけるでしょう、と思いますし。あの時は僕のギター1本だったからより鮮明に浩市さんの歌の力がでてきたところもありつつ、今回は伴奏を別につけて僕自身より遊べるようにしようかとか画策しているところです。バッキングをやると自分はほぼ遊べないですから(笑)。
──最低限のバッキングは鳴ってないと、ですからね(笑)。
そうそう。ソロを弾きたくなっても、それをやってしまうとバッキングの音がなくなるという。ただ、今回は竜童さんもいらっしゃるので3人で合わせるのか、はたまた別々にして僕と浩市さん、僕と竜童さんのセッションを楽しんでもらうのか、いろんなことが浮かんでいるんです。そういったアイデアがどこに着地するのか、自分でも楽しみですよ。
──因みに、佐藤さんとの出会いはいつだったんですか?
浩市さんは真田広之さんと同じ世代で。僕は真田さんと若い頃から交流があって、彼から浩市さんのお名前はよく聞いていたんです。だから、前々から気になっていたし、竜童さんとブルースをやっておられるのを観ていたりして、いつか一緒に歌ってみたいなと思っていたんですよ。すると、echoesの辻仁成くんが監督の映画『中洲のこども』に、浩市さんも僕も出演して。実際に共演する場面はなかったんですが、衣装合わせで浩市さんが終えられて、僕が次ということがあって、衣装部屋の玄関先でたまたま会ったんですよ。そこが初になります。その時にお互いに挨拶した後、浩市さんが「いつもカラオケで世良さんの歌を歌わせていただいています」って言ってくださって。僕は「今度、歌を聴かせてくださいよ」とお伝えしたんですね。浩市さんは社交辞令と思っていたかもしれないけれど、後日、お声がけさせていただきました。

後編に続く

MESSAGE FROM 佐藤浩市

自分が中学生の頃に観て聴いた世良公則さん、宇崎竜童さんとまさか同じステージに立って唄う時が来るとは思いませんでした!
しかも60を過ぎて。
なにが起こるかわからない人生の一瞬を皆さんと一緒に楽しみたいと思います!

PRESENT

世良公則 直筆サイン入りポストカードを3名様に!

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