津軽三味線奏者の川嶋志乃舞が、2020年にスタートした新プロジェクト「CHiLi GiRL」が2022年6月10日にファーストアルバム「MEBAE(メバエ)」をリリースする。アルバムの発売を記念したライブ「LOVE SPiCE CLUB」は、7月10日に渋谷WWWで開催が決定。一夜限りの特別公演『CHiLi GiRL 1st album「MEBAE」release live LOVE SPiCE CLUB 芽生えるワンマンショー』には、アルバムにゲストとして迎えた倉品翔(GOOD BYE APRIL)やGIVE ME OWなどのシンガー・ソングライターも出演する。DI:GA ONLINEは、新プロジェクトが生まれた経緯や、アルバムに込めた思いをCHiLi GiRLにインタビュー。後半は、発売記念ライブで共演する倉品翔、GIVE ME OWも交え、出会いからステージへの意気込みを聞いた。
──CHiLi GiRLのインタビューがDI:GA ONLINEで公開されるのは今回初めてです。2020年6月にスタートした新プロジェクトについて、発案の経緯などからお話をいただけますか。
CHiLi GiRLはい。CHiLi GiRLは、津軽三味線奏者「川嶋志乃舞」がソロで始めたプロジェクトです。2014年に川嶋の名でデビューしてから6年、ポップスを交えた活動を続けてきました。伝統文化関連のイベントや海外に招かれた際には、ポップスだけではなく民謡を求められることがあるのですが、そうすると自分のやりたいことがピュアにできないなと…。“伝統芸能奏者”川嶋志乃舞としては制限があったことを表現する場所として立ち上げたのがCHiLi GiRLです。
──CHiLi GiRLという場所で表現したいことはどのようなことですか。
CHiLi GiRL川嶋としては制限があった「ポップなことを純にやるということです」。実は、CHiLi GiRLという場を作らなければ、心が壊れそうだった時期がありました。キツネをかぶり始めたのは、最初に渋谷のWWWでデビューライブを主催した後から。三味線以外にもトレードマークが欲しいと思って、仲間と話をして決めました。キツネとチューリップが大好きだったので、この2つをトレードマークにしています。キツネはヘアスタイルなので、もこもこしていますが、夏もこのままいきます。
倉品翔暑さ対策もしないとね。
CHiLi GiRLうん、そう。涼しくなる工夫もあるよ。中にアイスノンを入れられるようになっているから、大丈夫。これをかぶってチューリップを手にした時、CHiLi GiRLとしての“スイッチ”が入るんです。
──帽子から両耳がちょこんと出ているのがかわいいですよね。なぜキツネとチューリップなのですか?
CHiLi GiRL私が生まれ育った茨城県の笠間市には、日本三大稲荷としても知られる笠間稲荷と言う名所があるんです。稲荷大神のお使いのキツネが設置されている境内は、身近な遊び場。親しんでいたものを身に付けたいと思いました。チューリップは通っていた東京藝術大学(東京都台東区)の側にあった上野公園や、祖母の家の庭に咲いていた思い出がありました。自分のルーツとして大切にしている場所で目にすることができた花だったので、大切にしたいと思っています。
──大切な思いが込められていたのですね。今回、CHiLi GiRLとしての新しい活動はもちろんなのですが、CHiLi GiRLを生み出した川嶋さんのことも掘り下げてみたいと思っています。音楽や三味線に興味を持ったきっかけなどからうかがわせてください。
CHiLi GiRLはい。私が三味線と出合ったのは3歳の時でした。地元のお祭りで演奏をしているのを聴いて、「私もやりたい」と父に伝えたそうです。津軽三味線奏者の佐々木光儀に弟子入りして、最初は三味線ではなく唄と鳴り物から教わりました。太鼓に当り鉦、日本独特のリズムやメロディーなどの基礎を学びながら、民謡などの曲を仕込んでいただきました。子ども用の三味線を初めて弾いたのは5歳の時。たくさんの人から注目を集める三味線文化を「かっこいいな」と思って夢中でした。全国大会に出場した小学校1年生ごろには、「サッカーでもピアノでもない。私にしかできないものは、三味線と民謡だ」と自信を持っていました。
──プロになりたいと思い始めたのはいつ頃でしたか。
CHiLi GiRL小学校2年生の時です。教室の後ろに「将来の目標」を書いた紙を貼っていたのですが、すでに「将来の夢は三味線でプロになること」と書いていたそうです。同じ年に、祖父母が新車の軽自動車1台を買うことができるくらいの値打ちがある津軽三味線を贈ってくれたこともあって、心が決まったというか。期待されているんだという使命感も生まれました。良い音の楽器に早い時期に触れることができたことは、大会での勝因にもなったと思いますし、ありがたく思っています。今日、持ってきたのもこの時に買ってもらった三味線です。
──全国大会で4度の優勝に輝くなど、色々な経験を重ねてきた三味線は、どんな存在ですか。
CHiLi GiRL私のところにやってきて20年。本当に使い慣れた相棒です。ちょっとだけお酒を飲み過ぎた時に、壊してしまったことがあるのですが…。
──150万円ですよね?!
倉品僕も自分のギターを酔っ払って壊してしまったことあります…。
GIVE ME OW私も落として壊してしまったことはありました…。
CHiLi GiRL私は、自分の腕のように思っているところがあって…。私が痛みに強い方なので、このくらいは大丈夫かな…。と思って触ってしまっているところが、壊してしまうことに繋がるのだなと思います。もちろんまた使えるように直しますし、大切な存在であることには変わりはありません。最近は「もう、またなの!!」と声が聞こえてくるようになりました。気を付けます…。
──どんな時も側にいた相棒ですから、これからも長く一緒に音を生み出して欲しいです。小学校時代から“天才三味線少女”として注目されてきた川嶋さんですが、CHiLi GiRLを生み出さなくてはいけないほどの葛藤と言うのは、いつ頃から抱えておられたのでしょうか。
CHiLi GiRL自分で口にするのはおこがましいですが、パイオニア的なことをし続けてきました。立ち三味線と言う形も当時は珍しくて。でも家元の佐々木、兄弟子の上妻宏光もジャズやラテンの曲を津軽三味線で表現するなど自分だけの道を切り開いていたので、私も違うものを取り入れてみようと。当時流行っていた「千本桜」を高校生の文化祭で演奏したら、大ウケしたんです。拍手を聞いた時、民謡だけじゃなくて色んなことをやっていいんだと思えました。民謡は大人数でやるものというイメージを持たれている方も多いと思いますが、団体ではなくソロで好きなことを表現しようと勇気づけられたのもこの時です。最初の葛藤は、大学に進学した後に生まれました。
──高校卒業後は、東京藝術大学に進学されましたね。
CHiLi GiRL大学では音楽学部邦楽科で長唄三味線を専攻し、古典邦楽を勉強しました。私がやっている津軽三味線は大衆芸能。歌舞伎や長唄などを扱っている邦楽科は超古典主義で、いまだに内弟子制度なんかも残っているんです。大学卒業してから8年ぐらい出てこられない人もいますね。
倉品えええー-、そんなに!
CHiLi GiRLそう。そういう文化が残っている場所に行ったので、津軽三味線は異端な存在でした。周りからは『津軽三味線のヤツが入って来た』とあからさまに嫌悪感を出されていました。在籍中にCDを出したり、活動を広げていく中で周囲から嫉妬されたり、皮肉られたりもして…。そういう経験は昔からあったので、慣れてはいましたが同じ伝統芸能だったと思っていたものの中にも、畑がいっぱいあったということを知りギャップを感じました。例えば四代目市川猿之助さんが中心になって、人気マンガの「ONE PIECE」などを歌舞伎にした「スーパー歌舞伎」は勇気が必要な選択だったと思います。
──兄弟子の上妻さんも、ギタリストのMIYAVIさんと共演したり、シンガー・ソングライターの矢野顕子さんと共演なさっておられますが、すごいことなんですね。
CHiLi GiRLそうなんです、めちゃくちゃ大変な事なんです。伝統文化をちゃんとやって来て、自分はもとの文化を壊さないから新しいことをやると。周りを説得してするか、完全に師弟関係など関係ないところで活動するかで、やっと新しいことができるというのが伝統芸能の世界。だから師匠方にも応援していただきながらCHiLi GiRLができていることも本当に奇跡的な事なんです。私は最初、インスト(インストゥルメンタル)ミュージシャンとしてスタートしました。上妻がやっているような、おしゃれな感じのもの(ボサノバなど)に三味線の音を乗せて演奏していたんです。少し違うことをやってみようと作詞をして、歌い始めたら次の壁が立ちはだかりました。
──新たな壁ですか。
CHiLi GiRLそうです。やっと古典主義の芸大から離れて、好きなことができる。スタートラインに立ったんだと思っていたのに、「歌って三味線を弾く人は、演歌調しかない」と今度は民謡界から言われました。長らく葛藤がありましたが、でもその葛藤を信頼に変えていくためには、ポップス活動を続けることではなく原点回帰と視点を変え、古典の現場に顔を出しまくるようにしました。先生の演奏会で荷物持ちをさせていただくなど、どこでも顔を出して認められる努力をしました。こちらから伝統に歩み寄る姿勢を取ることで、SNS含む見た目の偏見を取り払うことが出来ました。「派手な恰好をしているけれど、ちゃんと考えている子だと」。心意気を理解していただくためには、長い時間が必要でした。「負けずに信頼を勝ち取って来た」ということが、CHiLi GiRLに繋がっている。倉品くんも、美緒(GIVE ME OW)も同じように苦しい思いをしてきているので、本当の友だちと言える仲間たちと、一緒に音楽ができていることを誇らしく思います。