「何十回とリハーサルを重ねても、一回の本番には及ばない」という話をよく聞くじゃないですか。確かにその通りで。ライブから遠ざかったら勘が鈍るんです。ただ、KIRINJIは今年から新体制になって、8月には新しい方たちとライブをすることも決まったので、それを励みに頑張りたいなって。油断したら「KIRINJIって下手じゃん」と思われかねないほど、今の若い人は演奏が上手いですからね。
昔も上手い人はいたのかな? とにかく昭和40年代生まれからすれば、「演奏は下手でも良い。何なら下手な方がカッコイイ!」みたいな風潮がありましたが、彼らは「上手いなら上手いでカッコいいじゃん」という考えだと思うんですよね。だからロックバンドの人でも、みんな歌も演奏も上手でしょ? ちょっと下手なぐらいが良い、という発想はないですよね。
初めてのライブはSHIBUYA CLUB QUATTROでした。僕らとNONA REEVESとネタンダーズのスリーマン。内容は覚えていないけれど、演奏も歌も酷かったんじゃないかな(笑)。なにせ、ライブをやることに興味がなかったんですよね。
自分で録音したテープをダビングして友達に聴いてもらうのが好きだったので、ライブには全然興味が持てなかったんです。「ライブよりも一生懸命作ったテープを聴いて欲しいんだけど」という感じでした。しかも、ライブでは自らチケットを売らなきゃいけない。もし自分が友達から「チケットを1000円で買ってくれ」と言われたら嫌だなと思っちゃうんですよ(笑)。だって特段観たいわけじゃないのに、どうして俺の数少ない小遣いから払わなきゃいけないんだろうって(笑)。
中古レコード屋へ行ったらCD5枚くらい買えるのに、と思っちゃう。中々、ライブに気持ちが向かなかったのはインディーズ時代はもちろんですが、メジャーデビューしてからも「こんなに良いアルバムが出来たのに、どうして万全じゃない編成でライブをしなくちゃいけないんだろう」と思っていて(笑)。その疑問は長いこと晴れなかったです。
そもそも目の前のモニターからガンガン音が鳴っているから、ステージ上は何の音が鳴っているのか分からなかったんです。演奏していて全然心地よくない。僕はキーボードで曲を作っているから、それが一番聴きたいんだけどちゃんと聴こえない。ボリュームを上げたら、今度は自分の声が聞こえないとか。そういったストレスを抱えつつ「これは仕事なんだからやらなきゃいけないんだ」と言い聞かせるようにやっていましたね(笑)。だけど2013年にバンド編成になってからは、イヤモニを使うようになった。そうすると、みんなの音がちゃんと聴こえるし、自分が何をやっているのかも分かるようになって。
そうそう(笑)。バンド編成になってから、やっとライブが楽しくなりました。
ベースが千ヶ崎学くん、マニピュレーションとパーカッションに矢野博康さん、サックス&フルートにMELRAWくんという布陣は去年と一緒ですが、今回はドラムに伊吹文裕くん、キーボードに宮川純くん、ギターにKASHIFくんを招いて演奏します。あとはゲストにAwichを招いて「爆ぜる心臓」もやるし、「再会」も披露する予定です。
コロナ禍の話なので、別に泣かせるつもりはないけれど「泣きました」みたいな反応が多かったです。
やっぱり変化はありますよ。気にしなければ良いのですが、どこへ行くにもマスクをしなければいけないとなったら、やっぱり意識してしまいますよね。実際、ライブもツアーのスケジュールも飛んだし、そういうのが続いて「次も、もしかしたら」という気持ちになると前のようにガッと作品に向き合いにくい。だからこそ、今自分が抱えている感情を整理するためにも「再会」を書いたのがあって。一回、こういうコロナに関することを歌って、気持ちも新たに楽しく曲作りを出来ないかなと思って作りました。
そうですね。「Pizza VS Hamburger」にしても割と身近なことを歌っているわけでね。やっぱり常に身近なものから題材を得ているので、そこは自分の中では避けて通れない感じがします。
やっぱり聴いた人の心が晴れて欲しいと思って作っています。逆に、自分だけがスッキリすれば良いのなら、もうちょっと別のアプローチがあったのかもしれない。だけど、聴く人が「自分もこの歌の中にいるんだ」ということを改めて感じてほしい。カタルシスを得ることによって、何か浄化されたら良いなとぼんやり思いながら書いてました。