要するに「気持ちが晴れる」「気分が変わる」ことだと思います。イージーリスニング(※くつろいで楽しめる軽音楽)という言葉があるじゃないですか。それって毒にも薬にもならないって捉え方をされている気がするけれど、実はそれが流れていることによって、その場の空気が変わる。エレベーターで流れていたりとか、空港やお蕎麦屋さんで流れていたりとか、それは何の影響もないものじゃなくて、そうやって静かに我々の精神に影響を及ぼしているもの。穏やかで楽しい感じで我々の精神を知らないうちにマッサージしてくれている。それがポップスの良さだと思うんですよね。で、そういう心地よさを自分は心がけて曲を作っています。
「再会」はサウンドの面でも、そういう心地よさがあるし歌詞も共感してもらえる内容だと思うので、良い曲が出来たなと感じています。
映画『鳩の撃退法』の主題歌なので、作品のテーマを受けての内容になっています。いつもだったら自分の思っていることや感じたことを歌詞にするのですが。今回はそういうことはさておき、映画の最後に流れてちゃんと収まるものだから映画のサブテキストというか、そういう感じのものを作ろうと臨みました。
映画の演出上、ある挿入歌の後に主題歌の「爆ぜる心臓」がかかる流れで、その挿入歌も僕が歌っているんです。同じ人間の歌が連続して流れるのは違和感があるじゃないですか。ワンクッションとして誰か別の人の声を挟まないと、流れがおかしいと思って。制作サイドからも「フィーチャリングをしてほしい」という要望もあり、男性の声の後に女性の声が流れてくる方が流れ的にも美しいと思いました。メロディアスな歌の後に、またメロディアスが来るのはちょっと嫌だなと思ったので、ラッパーの中で最善の人は誰かということでAwichにお願いしました。
日本語だけどブラックミュージックの匂いがする。ああいう感じの佇まいで、ああいうスタイルのラップをする人はAwich以外にいない気がします。中にはポップなラップをする方とか、元気の良い感じのラッパーはいるけど、芯を食った感じというか「ホンモノだな、この人」と感じるのはAwichしかいない。「爆ぜる心臓」のラップを頼むなら最高な人が良いと思ったのでバッチリでしたね。
まずは、ドラムとベースとラップが一番カッコよく聴こえるミックスを、エンジニアと一緒に話し合って形にしました。僕の歌は、いわゆるJ-POPとかロックのボーカルバランスからしたら小さいかもしれないですが、ちょっとオケに埋もれた感じがカッコいいなって。逆に、ハッキリ聴こえるようにボリュームを上げていくと、どんどんダサくなっていく気がして。そうであればハッキリとバキッとじゃなくて、ちょっと奥まらせてふわっとサウンドの中に馴染む形にした方が洋楽感も出るし、カッコいいんじゃないかなと思いました。
「再会」でやっているようなことや、『cherish』でやったダンサブルなポップスは続けていくと思います。あとは歌の処理ですかね。「再会」の少しざらついたボーカルの感じは、割とトレンドな処理ではあるんだけど、それが自分にハマっているのかなと思いまして。ボトムは現代的な重さがあるけど、ウワモノは60年代的なハーモニーやサイケ感で現代的なプラグインで作られている感じ。昔の機材を使ってアナログっぽくしているのではなくて、今のテクノロジーでサイケデリックなものを作る。そういう空間的な面白みのある楽曲をできないかなと考えています。