中村一義 10枚目のアルバム『十』までの道のりについて、『十』そのものについて、そして待望のツアーについて、じっくりと訊いた

インタビュー | 2020.02.05 22:10

これは、23年前・1997年に日本のロック・リスナーに大きな衝撃を与えたファースト・アルバム『金字塔』の再来じゃないか!と驚く人もいるだろう。しかし、でありながら、2020年現在の中村一義をリアルに切実に描いた音楽になっているじゃないか!と驚く人は、もっといるだろう。そしてそれがそのまま、今の世の中、今の時代にいかに生きるかというメッセージになっているじゃないか!と感銘を受ける人は、もっともっといるだろう。

中村一義、4年ぶり・通算10作目のニュー・アルバム『十』は、そんな、記念すべきアルバムとなった。2×5=10、ということでリリース日は2月5日。3月1日 仙台カフェモーツァルトから3月29日 横浜THUMBS UPまで、ギター三井律郎とふたりで5本のアコースティック・ツアー、その後5月10日 千葉LOOK、17日 大阪・梅田シャングリラ、24日 東京・渋谷Veats Shibuyaとバンドでのツアーが控えている。『十』までの道のりについて、『十』そのものについて、そして待望のツアーについて、じっくりと訊いた。

自分がどんどん生命力を失われていきそうだから、逆に生命感があるものを作りたかった

──12月20日のVeats ShibuyaのライブのMCや、1月12日のトーク&アコースティックライブで、口腔内カンジダで、一時は声が出なくなるかもという危機的状態だったことを、明かされていましたが。
はい。2年前に、バンド・海賊と一緒に『最高築』(既発曲のリメイク・アルバム)を作って……あの頃はライブが活動の中心にあって、海賊も一緒に活動してくれることになって、「いてまえ!」っていう感じだったんですよ。僕も、身体の調子も喉の調子も、人生の中でいちばんいいぐらいに感じていて。

で、ある日ラーメン屋でつけ麺を食べてたら、喉がピーン!ときたんです。「なんだこれ!?」と思ったら、そこから急激に声が出なくなりだして。メシ食うだけで痛い、みたいな状態で、これはまずいと思って、とりあえず病院に行って。喉の画像を見せてもらったら、下から上に向かって白い線みたいなものがいっぱい走っていて。それ、カンジダ菌が侵食していくものだから、薬とかでは治しにくいみたいで。滅菌してもすぐ再発するらしいんですよ。だから、体質から変えていかなきゃダメだって言われて、漢方でも2〜3年かかる、それ以上かかるかもしれない、と。
──それって急になる病気なんですか?それとも、長年の蓄積で──。
あ、そっちです。もう小さい頃からずーっと蓄積されていて、それが痛みとして出たのがその時だったという。その時の医者からは、近い将来に声が出なくなると言われて。で、しょうがないから体質改善を。アメリカからサプリみたいなのを取り寄せて。オレガノの抽出成分がいっぱい入ってるやつで、それをカンジダ菌に食べさせて殺していくらしいんですよ。だから、すっげえ時間がかかる。それでも、医者でもらう漢方よりは早いかも、っていうことで、ずっと飲んでいて、今ようやくよくなってきている実感が出ている感じですね。
──本当に2年ですね。
2年かかりました。でも、それを飲んだところで、べつに医者の処方じゃないから、伸るか反るかじゃないですか。ほんと……今までも、音楽やめようかって考えたこと、何度もあったけど、これはいよいよ……声が出ないってことは、音楽生命が死ぬってことだから。
──これまでと違って、今回は物理的な問題ですもんね。
そうなんですよ。僕の希望ではなんともできないというか。だから、「声が必要じゃない商売をするか?」とか、いろいろ考えたんですけど。でも、そのサプリを飲み続けて1ヵ月、2ヵ月経つと、わりあい効果が出てきて。「あ、これだったら、もう数ヵ月すれば歌えるぐらいまでになるかもしれない」と思ったのが、1年半ぐらい前で。

その前から曲は作ってたんですけど、そこで気づいたのは、「あ、次、10枚目じゃん」と。じゃあ、どうせこの先伸るか反るかなんだから、ガツンとしたものを作っておくか、という気持ちになって。その時に思ったのは、やっぱり、自分がどんどん生命力を失われていきそうだから、逆に生命感があるものを作りたいというか。北海道や各地で震災があったりとか、いろいろあったじゃないですか。あと、時代もどんどんAIだのなんだのになっていくし、やっぱり全体的に……そういうものたちに侵食されちゃうと、もういよいよ人間ではなくなってしまうっていうか。人間が人間的なものを、最低限、失うわけにいかないから。っていうのもあって、生命感があるものを作りたいと考えたら、やっぱり、自分で全部演奏するしかないっていうか。
──そういう危機的状況の時に「生命感!」って思えるものですか?
思うしかなかったですね、もう意地でも。それでまず、音の熱だったり体温だったりを伝えたいのであれば、ギターで曲を作った方がいいなと思って、全部の曲をアコギ一本で、弾き語りの状態で作っていったんですよね。今回10曲入ってるんですけど、10曲分の弾き語りのデモを、まず作って。
──曲自体はすぐできた?
そうですね。最初に、アルバム1曲目の「叶しみの道」からできたんですよ。「悲」が「叶」っていう字になってるじゃないですか。「十」っていう、一本の横線と縦線が、まんなかだけ一緒になる字で。で、「十」を斜めにすると「×」にもなる、「何か×何か」みたいな意味にもできる、そういうことがその時期に見え始めて。「叶う」×「悲しみ」で「叶しみの道」だな、とか、そういうビジョンができた時に、「あ、これがきっと、俺が作ろうと思っている『十』っていうアルバムの意味なんだな」ってわかってきて。で、1曲ずつ作っていって、いちばん最後に「愛にしたわ。」っていう曲ができて、10曲揃ったんだけど、「さあ、どうしようか……」っていう。ひとりで作るって言ってもなあ、っていう葛藤が、まだあって。声の調子もなかなか上がらないし。
──誰かと作ろうか、というのもよぎった?
もちろん。海賊のメンバーもいるし。でも、前回の『海賊盤』も海賊と作ったし、同じことをやってもなあ、みたいなのがあって。あと、「そういえば、中村グルーヴって今どうなってるのかな?」っていうことに、自分でもちょっと興味があって。声は弱ってるし、楽器は弱ってる以前に全然触ってなかったし。俺、今、どれぐらい演奏できるもんなんだろうな?と思って。曲は目の前にあるわけじゃないですか。「こいつらに対して何をやってやれるだろうな?」みたいな。『エヴァ』(新世紀エヴァンゲリオン)で言えば、来る使徒の順番と種類はわかっちゃったみたいな感じで、どれと戦っていくか?みたいな。で、「これ、俺ほんとにできんのかなあ?」みたいなのがすごくあって、2ヵ月ぐらいは悩んでましたね。今考えると、その時期がいちばんつらかったかもしれないです。何もできないっていう。

公演情報

DISK GARAGE公演

中村一義 “十” acoustic Live tour 2020

出演:中村一義(Acoustic set with 三井律郎)
2020年3月1日(日) 仙台 カフェモーツァルト・アトリエ
2020年3月8日(日) 松本 LOFT
2020年3月13日(金) 京都 磔磔
2020年3月20日(金・祝) 岡山 城下公会堂
2020年3月29日(日) 横浜 THUMBS UP

チケット一般発売日:2020年2月1日(土)

中村一義 “十” Band Live tour 2020

出演:中村一義(BAND SET)
2020年5月10日(日) 千葉 LOOK
2020年5月17日(日) 梅田 Shangri-La
2020年5月24日(日) 渋谷 Veats Shibiya

RELEASE

「十」

10th ALBUM

「十」

※初回限定盤(CD+DVD)、通常盤(1CD)の2TYPE
2020年2月5日(水) SALE
(Victor Entertainment)

※初回限定盤

※通常盤
  • 兵庫慎司

    取材・文

    兵庫慎司

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